人気作家・綿矢りささん 祝「25周年」インタビュー「あるべき姿に囚われなくてもいい」
『美的』創刊「25周年」インタビュー。同じくデビュー25周年の人気作家・綿矢りささんへの特別インタビューでは、最新刊の奇抜なヒロインをイメージした衣装を纏まとって登場。美容での黒歴史(?)も経てきた中での見た目や生き方への思いは、私たちの背中を押してくれます。

『グレタ・ニンプ』 綿矢りさ
不妊治療をやめた矢先、妻の由依が妊娠。すると、控えめで笑顔がかわいい由依が豹変。デニス・ロッドマンのような髪型になり、一人称も「アタイ」に。人格も見た目も異次元の変化に夫の俊貴は翻弄されていく…。書体を変えて感情を表現するデザインは、「フォント芸」としても話題に。
¥1,870/小学館
自分に、変身魔法を!
見た目を変えることでなりたい自分に近づく。あるべき姿に囚われなくてもいいと思う

衣装/本人私物
人目より心地よさが優先。迷ったら「心が動く方」を
黒髪ストレートの清楚系女性が、妊娠がわかった瞬間から突然、紫色の丸刈ヘアになり、『ドラゴンボール』の悟空みたいな口調のファンキーなキャラに豹変(ひょうへん)―。最新刊『グレタ・ニンプ』で話題のぶっ飛んでいるヒロイン・由依のキャラクターは、自らの経験を基に生まれたそう。
「私は妊娠中、“妊婦らしさ”を意識していて、妊婦向けの本を何冊も読み、おなかの子供に影響が出ないよう、かなり保守的な感じで過ごしていました。でも今振り返ると、自分の好きなように過ごしても良かったなと思うんです。妊婦としてのあるべき姿みたいな呪縛やプレッシャーに囚われなくてもよかったなと。それに、仕事と家事育児を両立している人が輝いていて素敵、みたいな風潮がありますが、いざやってみると、エネルギーがほとんど削られていくし、私は全然輝けなくて。少子化問題と個人が子育てをすることは別問題で、そういった違和感も含めて書いているうちに、由依はどんどんはっちゃけていきました(笑)」
「国のために子どもなんか産むか、、ボッケエエエエエ!」と役所で大暴れしたりと、由依の無双には思わず笑ってしまうけれど、その言動の奥にある思いを知ると心の鎖がほどけていくような爽快感がある。同時に、自分らしく自由に、強く生きようとする姿に、見た目を変えることで自分も変わっていけるということを改めて実感させられる。
「由依は最初にロングヘアを切るのですが、その瞬間はやっぱり悲しかったと思うんです。それまでの自分と決別するわけですから。でも、ヘアやメイク、ファッション、話し方を変えていくことで、だんだんと見た目に内面が追いついていったのだと思います。変わりたいけれど一歩を踏み出せないとき、見た目を変えてみるというやり方は意外と大事かもしれませんよね。また、私は由依を描いていて、のびのびと生きている姿は美しいなと感じました。顔の造作や若々しさより、いつ会っても明るいとか、身ギレイにしているとか、私自信はそういう美しさを目指していきたいなと今は思っています」
自身も、見た目には試行錯誤してきた。20代、30代の頃の関心事は、「人からどう見られるかだった」と言う綿矢さん。元々、流行りものをチェックすることが好きで、美容でもトライ&エラーを繰り返してきた歴史が。
「撮影をしていただくことも多いので、見た目のレベルを上げたくて、本当にいろいろとやってみました。メイクはもちろん、植毛をしたり、矯正下着に凝ったり。笑いすぎると歯茎が見えるのを変えたくてボトックス注射を試したときは、縁側でお茶を飲んでいるお婆ちゃんみたいなのどかな顔つきになったこともあります(笑)。美容は、ある時期にだけ集中して気合を入れるより、地道に継続していくことの方が大事なのだとやっとわかってきましたし、今はどう見られるかよりも、自分が心地いいと感じることの方が大事で、その方が幸せだなと思うようになりました。そういう自分独自のわがままみたいなものが生まれていることも楽しいんです」
今年、作家生活25年を迎えた。19歳で芥川賞を最年少で受賞して以降、作品ごとに描かれる登場人物の赤裸々な自意識や本音には、いつも心を掴まされる。
「自信があるお仕事だけを引き受けていたら自分の幅が狭まりそうですし、だからといって、とにかく全部受けていると疲弊してしまうので、お仕事で迷ったら、心が動く方を選ぶようにしています。自分の成長を感じることはあまりないのですが、時代の変化を面白く思える心はずっとあるので、これからもひとつの考えに凝り固まることがないよう、変化を受け入れられる自分でいたいですね。変わらない部分と同じように、流されずに変わっていく部分も大切にしたいなと思っています」
美的世代を「まぶしい!」という綿矢さん。こんなエールをくれた。
「多様性が尊重される時代で、皆さんの好きなものへの迷いがない情熱は本当に素敵だなと思います。20代は、自分が将来どうなりたいかなんてまだわからないこともあると思いますが、若いときの1年は本当に貴重で、置かれている状況や立場がすぐに変わっていくような時期でもあるので、やってみたいことがあるのなら、ぜひ一歩踏み出してみてほしいなと思います。時には変身の力も借りながら(笑)」
BEAUTY TIPS
魔女になりたい
変身するなら…森に住む魔女。とんがり帽子をかぶって、煮えたぎる鍋を混ぜているような。40代になり、なぜか魔女になりたい欲が強くなっています(笑)。
クリームはポーラ
基礎粧品は塗り重ねる程いいと思っていたのですが、今は低刺激の化粧水、乳液、クリームの3ステップに落ち着きました。気に入っているポーラのクリームを薄く塗っています。クレンジングオイルはシュウ ウエムラ一択です。
貴族ヘアに凝っています
海外の古い映画を観ていると、イギリスの貴族のようなクラシカルなヘアスタイルが素敵で、動画を一時停止しながら真似をするのが楽しいです。
ご褒美は、睡眠
寝る時間を調整できることこそが自由業の贅沢だと気づいてからは、日中は日光を浴び、読書もベッドで行うなど、夜に入眠しやすい環境を整えています。
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
1984年京都府生まれ。2001年に『インストール』で文藝賞を受賞。早稲田大学在学中の’04年、『蹴りたい背中』で芥川賞を史上最年少で受賞。以後も、’12年に『かわいそうだね?』で大江健三郎賞、’20年に『生のみ生のままで』で島清恋愛文学賞を受賞。『勝手にふるえてろ』『ひらいて』『私をくいとめて』『夢を与える』など映像化された作品も多い。1児の母