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2023.8.4

「驚くほど若く見えること」に価値があるのか? と考えさせた人、ジェーン・バーキンの美的人生【齋藤薫「大人美のマナーとルール」vol.18】

バーキンの持ち方から、下まつ毛の描き方、そして年齢の重ね方まで、ジェーン・バーキンの存在美とライフスタイルをベースにして生まれた「バーキン流」には、学ぶことばかり。【齋藤薫「大人美のマナーとルール」vol.18】

気取らない飾らない、大らかに扱われてこそ、バーキンは美しい

かつて、“バーキン”に今のような高値がつく前、ウェイティングリストに名を連ねることさえ難しく、入手困難となるずっと前、それをオシャレに持ちこなしている人のバーキンは、大体が見るからにくたびれていた。バーキンとはそもそもがそういうバッグだったから。
普段遣いで使い倒し、もう型くずれして角の部分など少し擦り切れているくらい使い古された状態のものを無造作に持つのが、バーキンの正しい持ち方だったから。それこそ“新品”は恥ずかしいからと、わざわざ少し汚してから持とうと思うほどだった。
いや、そういう小細工そのものが野暮ったいのだけれども、まぁそれぐらい本来のバーキンは普段遣いのバッグだったのだ。それぐらい、気取らない飾らない、大らかに扱われるべきバックだったのだ。
そう、まさに、ジェーン・バーキンのように。

もはや説明するまでもないけれど、1984年に誕生する「バーキン」のネーミングの物語は、たまたま飛行機でエルメス5代目社長の隣に居合わせたのが、ジェーン・バーキンであったことに始まる。
彼女が自らのトレードマークでもあった手編み風の籐のバスケットを頭上のコンパートメントに詰め込んだ時、中身が座席や通路にこぼれ落ちてしまったこと。そこで「母親になったばかりの自分のニーズを満たしてくれるデザイナーズバッグがない」と語ったこと。それをヒントに生まれたバーキンには、だから哺乳瓶を入れるのに十分なスペースがあり、トートバッグのように蓋を開けたまま持つことを想定して、取っ手が2つある。中身が丸見えでも、見栄えも整えるためにフラップ部分を中に折りたたむことができるのだ。
言い換えれば、何でもボンボン投げ込め、たくさん収納できるのに、それでも高級感と気品を失わないデザインだったということ。
そこがまたジェーン・バーキンなのである。

2017年11月、パリにて。Photo:Marc Piasecki/Getty Images

英国人なのに、ジェーン・バーキンがフランス女のカリスマになったワケ

その人が76歳で亡くなったというニュースの大きさに、ジェーン・バーキンの活躍を知らない世代は、一種の違和感を持ったかもしれない。でも60年代のスウィンギング・ロンドン(ビートルズやツイギーなどが先導した英国生まれの若者文化)の世界的なブーム全盛もあって、英国人ながら“フランス女”としてカリスマとなった人。英語訛りのたどたどしいフランス語を話すジェーン・バーキンは、20歳で映画出演のためにフランスに渡るやいなや、「フレンチロリータ」の象徴的な存在となっていくのだ。

さらには、「フレンチロリータ」を社会的な現象にした仕掛人でもあるアーティスト、セルジュ・ゲインズブールと映画共演で出会って以来、12年間事実婚状態にあったことも、ジェーン・バーキンをさらに有名にし、ミューズにした。当時パリで最もホットでおしゃれなカップルとされ、2人が紡ぎ出すライフスタイルは一世を風靡したもの。
2人が結ばれた時、ジェーンにはすでに娘が1人いた。18歳での1度目の結婚をしていたから。10代にして母になっていたにもかかわらず、少女のようなロリータファッションがとてつもなく似合う細い体。コケティッシュなドール顔。はかなげなのに強烈な存在感。単に美しさや可愛さが注目されるだけでなく、ジェーン・バーキンの存在そのものにみんな憧れたものだった。

1960年代に撮影された1枚。Photo:REPORTERS ASSOCIES/Gamma-Rapho/Getty Images

下まつげには、意図的な束感。でも今は、シワたるみも厭わない?

例えば、そのメイク。下まつげを意図的に束にし、時にはアイライナーで一本一本描いていた独特の束感まつ毛は、男を振り回す美少女の武器のようなメイクだった。1969年の映画「太陽は知っている」では、ロミー・シュナイダー扮する恋人とともに別荘で過ごすアラン・ドロン(2人は実際にも婚約中だった)を、無邪気に翻弄する危うい美少女役を演じたのがジェーン・バーキン。上下とも束感まつ毛で囲まれたブルーの瞳を上目遣いし、ドキッとするほど鮮烈な三白眼で、セクシーな中年男を惑わせたのだった。

ちなみに1回目の結婚では、ベッドでもこういうアイメイクを欠かさなかったと言われる。自分は美人でもないし、胸も少年みたいに小さい、そんな自分の容姿にはコンプレックスを持っていたから。
しかし、ゲインズブールはその少年のような体を、“自分の理想の体型”と言って憚らなかった。こういう両性具有のような体をこそ自分は求めていただと。そうした評価がジェーン・バーキンの魅力を開花させたと考えても良い。それこそ作らず飾らず、ありのままの自分を自由奔放に表現するジェーン・バーキンの覚醒。まさしく、バスケットに持ち物を無造作に放り込んで、どこにでも出かけていく独自のスタイルの完成である。

もう気づいたはずだが、ジェーン・バーキンこそエフォートレス、抜け感のあるオシャレの先駆者であり、自然体の魅力の原点たる人。ありのままが美しいことを教えてくれた最初の人なのかもしれない。
だから年齢を重ねても、美容医療にすがるという事は、おそらく1度もなかったはずだ。いや、顔を治すことなどは考えもしなかったのだろう。それほど、年齢を重ねることに何の後ろめたさも持っていなかったように見える人。
だから、50代、60代、70代と、この人をとらえた写真はどれも顔をくちゃくちゃにして笑っているものばかり。大きく蠱惑的だった目は、柔らかく弧を描くように細められ、官能的だった厚い唇も同じようにいつも優しい弧を描き、中から覗くのは、白いすきっ歯……。
それまでの気負いのない生き方を象徴するような柔和な顔だちは、どんな若さにも勝るほどキュートであり、実際いつも朗らかで穏やかで、驕ることも媚びることもない生き方は、年齢を重ねるほどに再びファンを増やしていった。

整理が苦手で、バスケットからいつも何かしらモノを探していた、そういう姿さえスタイリッシュに見えた人は、歳の重ね方もまた、誰にも真似ができないほど洗練されていたと言っていい。だからこそフランス人は、皆この人が大好きなのだ。
かくして、“実年齢より驚くほど若くいること”に本当に価値があるのか、シワが1本もないことに、本当に意味があるのか、この人の存在が改めて考えさせてくれる。極めて自然な美しいエイジングの形として、本気でお手本にしたい唯一無二の存在である。

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美容ジャーナリスト/エッセイスト
齋藤薫
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『大人の女よ! 清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『美人だけが知っている100の秘密』(角川春樹事務所)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)など著書多数。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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