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2013.11.14

大高博幸の美的.com通信(188) 『もらとりあむタマ子』『マラヴィータ』『リヴ&イングマール』 試写室便り Vol.55

©2013『もらとりあむタマ子』製作委員会
©2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

タマ子の毎日:食べる、寝る、マンガを読む…。
自分を肯定してばかりの“口だけ番長”
タマ子の 明日はどっちだ ?!
もらとりあむタマ子』 (日本映画、78分)
11.23 ロードショー。www.bitters.co.jp/tamako/

【STORY】  東京の大学を出たものの、父親がひとりで暮らす甲府の実家に戻ってきて 就職もせず、家業のスポーツ用品店も手伝わず、ただひたすらに食っちゃ寝 食っちゃ寝の毎日。起きてると思ったら、マンガを読みふけるかゲームをするか。かつての同級生とも連絡を取らず、ニートというよりも まるで引きこもり。「就職活動くらいしろ!」という父親の言葉にも「いつか動く! でも それは今じゃない!」と意味不明な言葉で自分を肯定しつつも、ようやく履歴書を書いてはみたが…。そんな矢先、料理上手で真面目な父親に女性の影が! 動揺するタマ子。さあ どうする?
口を開けば言い合いばかり。それでも お互いを思い合ってるふたり。父と一緒に暮らすタマ子が ちょっとした一歩を踏み出すまでの1年が 秋から夏へ 四季を通して描かれる。 (プレス資料より)

この映画は面白い。ほとんど何も起こらない のんべんだらりとした内容なのですが、それでもクスッと笑えて最後まで惹きつけるのだから、この映画は凄いです。本当に食べてるか寝てるかの毎日で、コレが大学まで出させてもらった女子かと思うと「見ていたくない」って感じ。But、それでも序々にタマ子を好きになってくるのだから相当不思議…。
そんなタマ子とは正反対に、お父さんの善次は 掃除・洗濯・食事の支度から後片づけまで、スポーツ用品店を経営しながら(と言っても繁盛している感じではない)、全部テキパキこなしていくマメな人(多分、男やもめ)。大みそかには年越しそばを作るのに、まず昆布で、次いでカツオ節でダシを取るのですから、ちょっとビックリ。その日ばかりは珍らしいコトに、タマ子もカレンダーを貼り替えるくらいの手伝いはしていました…。そんな生活が、秋・冬・春・夏と、淡々と続いて行くのです。

撮影は季節の移ろいを、そのまま順序通りに撮っているようでした。その証拠と言ってはナンですが、子供同然だった近所の中学生:仁という男の子が、ニキビもチラホラ 思春期の男子へと成長していくのです。この仁君を タマ子が自分の弟or手下みたいに扱っているところが、とてもいい。そんな流れの中で、タマ子に用事を頼まれた仁君が、「またぁ?」ってな顔を見せながら、「僕、恋と部活に忙しいんだよ」なんて遠慮がちに口応えする台詞が、たまらなく可愛い。最終的に彼の恋は「自然消滅ってとこ」となり、タマ子が「自然消滅って言葉、久し振りに聞いたわ」と ひとりツブやくところでフッと終る…。コレは そんな映画であり、僕は そこが大好きです。

タマ子役の前田敦子、善次役の康すおん、仁君役の伊東清矢は、三人揃って花マルの好演。この映画、大好きになる人は きっと多いと思います。僕が思うに、コレは2013年のニューウェーブ。
監督は山下敦弘という37歳前後の方で、「若手監督の筆頭的存在」と言われているそう。僕は彼の作品は初見でしたが、なるほどと思いました。主題歌は『箱入り息子の恋』で好演した星野源による『季節』で、本作に とてもよく なじんでいました。
P.S. 『もらとりあむ』の意味…、“モラトリアム(モラトリウムとも記すそうです)”で『広辞苑』に載っています。

 

©EUROPACORP- TF1 FILMS PRODUCTION – GRIVE PRODUCTIONS Photo : Jessica Forde
©EUROPACORP- TF1 FILMS PRODUCTION – GRIVE PRODUCTIONS Photo : Jessica Forde

父親は元マフィア。
この家族、全員ワケあり。
マラヴィータ』 (アメリカ・フランス合作映画、111分)
11.15 ロードショー。www.malavita.jp

【STORY】  フランス・ノルマンディー地方の片田舎に引っ越してきたブレイク一家は、一見ごく普通のアメリカ人だが、実は とてつもない秘密を隠し持っていた。主のフレッドは泣く子も黙る元マフィアのボスで、家族ともどもFBIの証人保護プログラムを適用され、偽名を名乗ってフランス各地の隠れ家を転々としてきたのだ。そんなワケあり一家はノルマンディーのコミュニティーに溶け込もうとするが、癇癪持ちのフレッドは事あるごとに昔の血が騒ぎ、妻マギーとふたりの子供も買い物先や学校でトラブルを起こしてしまう。やがてフレッドに積年の恨みを抱くマフィア一族のドンが、ついに彼の居場所を突き止め、完全武装の暗殺者軍団をノルマンディーに派遣。かくして“ファミリー”VS.“ファミリー”の仁義なき壮絶バトルの火蓋が切られるのだった……! (プレス資料より)

マフィアものの緊迫感と痛快喜劇の面味さが妙に一体化しているエンターテインメント。どちらかと言うと喜劇的要素が強めで、試写室には笑い声を押し殺しているような雰囲気が充満していました。
「このヤロー!」と思った途端、すぐに殴り倒したくなる気質のロバート・デ・ニーロ(フレッド役)が、頭の中で それを実行するところが映像(イメージ)となって表われ、実際は何もないまま元の場面に戻るという演出が何度かあり、それが とてもとても愉快でした。彼が なぜ それをガマンするかと言うと、お目付け役のFBI捜査官:スタンスフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)から、しつこく忠告を受けているからで、それがまた二重に愉快で面白い。

デ・ニーロの演技は いわば軽快。深刻すぎず、フザけているワケでもないところが流石です。汚ない言葉を100回ぐらい吐いていましたが、余りにもフツ―に口にするので、観客は慣れっこになってしまいます。
まるでデ・ニーロの相棒のように見えてくるT・L・ジョーンズは、ほとんどの場面を化石のようなデッドパンで通していますが、それだけに コミュニティ主催の映画上映会の場で見せる“どうしようもなく困っている顔”が見事に生きていました。
マギー役のミシェル・ファイファーは、お得意のツンとした顔を たっぷりと披露しながらも コメディタッチの芝居をしているところが良く、ベル(ディアナ・アグロン)とウォレン(ジョン・ディレオ)の仲良し姉弟振りは、イタリア的な家族の絆を感じさせます。
But、僕が一番いいなぁと思ったのは、ブレイク一家の向かい側の狭い家の中で、保護のための張り込みを続けているFBIのオジサン達(チッコ役のジミー・パルンボと、ミモ役のドメニク・ランバルドッツィ)。プライベートな電話まで全て盗聴している彼らの、折にふれて見せる人間味が最高に良かったです。コレは リュック・べッソンの脚本&演出+演技者の技量が、揃って醸し出した妙味でしょう。

撮影はテラコッタ色のフィルターをかけたような色彩に、ピュアなブルーが美しいコントラストを見せています。
P.S. 『マラヴィータ』とは“裏社会”という意味のイタリア語だそうで、『広辞苑』には載っていませんでした(笑)。フレッドの愛犬の名が“マラヴィータ”というのは単なる御愛嬌? 彼が余り活躍しなかったのは、ちと残念。

 

© N O R D IC S TO R IES 2012
© N O R D IC S TO R IES 2012

天才監督イングマール・ベルイマンと伝説的女優リヴ・ウルマン。
映画史に輝く2人の秘められた愛と友情の物語。
リヴ&イングマール ある愛の風景』 (ノルウェー・スウェーデン・UK・チェコ・インド合作映画、84分)
12.7 ロードショー。www.livingmar.com

本作は、『処女の泉』『野いちご』など、その深い精神性と洞察により、「20世紀最大の巨匠」の一人と称賛されるスウェーデン人監督イングマール・ベルイマンと、彼のミューズとなった世界的大女優、リヴ・ウルマンの秘められた愛と友情の物語です。『仮面/ペルソナ』『叫びとささやき』『ある結婚の風景』『秋のソナタ』など、監督と女優として映画史上 燦然と輝き続ける傑作を世に送り出してきた2人。リヴ・ウルマンへのインタビューから浮かび上がるのは、愛や憎しみや友情を超えた この上なく強い2人の絆。そして、ふんだんに使用される映画のカットや本邦初公開のメイキング映像、オフショットの数々からは、当時の2人の関係が それぞれの映画に どれほどの影響を及ぼしていたかを うかがい知ることができ、映画史の観点からも貴重な作品と言うことができるでしょう。
2人の出会いから約半世紀。2007年に この世を去ったベルイマンへの想いを、まるで長いラヴレターを綴るように語るウルマンの姿に、人と人とは ここまで深く繋がることができるのかという驚きと感動が胸を打つ、美しきドキュメント・ラヴストーリーです。(試写招待状より)

この映画を何としても観たいと思った第一の理由は、コレが僕にとってのベストワンのひとつである『野いちご』の監督:イングマール・ベルイマンに関するドキュメンタリーであり、まさか存在するとは想いもしなかったメイキング映像が含まれているという点。第二は、彼のミューズ:リヴ・ウルマンとの愛と友情の経緯を描いているという点でした。実際には試写招待状の文面が示す通り、第二の点が主、第一の点が従であったワケですが、インタビューに答えるリヴの回想が極めて率直かつ伝わりやすいと同時に深遠で、それが心にしみる内容となっていました。
≪恋≫≪孤独≫≪怒り≫≪痛み≫≪渇望≫≪友情≫という六章に まとめられていて、リヴの語りを裏付けるかのような映像(1966~2003年に、リヴが主演、ベルイマンが監督した映画からの抜粋)を挿入するというスタイルが採られています。

意外なほど大きな驚きだったのは、気難しい高尚なインテリというイメージが強く、神格化されてもいたベルイマン監督に、幼い子供のような面が多々あったというコトでした。
リヴの語りは話が整理されている上に ゆったりとしていて、とても聞きとりやすい。そして その顔が、様々な困難と心の葛藤を乗り越え、充実した今を生きる女性としての輝きに満ち溢れていた…、そこが最も強く印象に残りました。

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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