美的GRAND
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2023.5.8

作家LiLyの対談連載「生きるセンス」スペシャルエッセイvol.3

その時々で訪れる人生の岐路。女性として、妻として、母として、社会の中のひとりとして、どうにもこうにも答えがでない時、先輩たちからの生きるヒントが役立ちます。今回は今まで4人の先輩たちとの対談を基に、作家・LiLyが感じたことを総括する書下ろし特別エッセイです【作家LiLy対談連載「生きるセンス」 】

第三話「世論と自分との折り合い地点」

世間との折り合いをつけながら、
自分が生きやすい方向を探っていく。

ファッションでも美容でも、
自分自身をより生きやすく
してくれる仕上がりこそが
私にとっては正義だ!

――――と、話した直後に「タトゥー」を良かったことの例に出したことで面食らった『美的GRAND』読者の方は少なくなかったかもしれない……。お洒落っぽくPOPに「タトゥー」呼びしてみたところで、社会に対するアンチテーゼの象徴ともいえる「刺青」なのである。世論アンケートなどをとるまでもなく、大多数は「ノー」という。
でも、社会で生きていく上でのデメリットしかないような印を自らの身体にわざわざ刻むメリット――――私にはあった
(最も伝えたいことへと繋がるわかりやすい例になると思うので、刺青が苦手でたまらないという方も、少しだけ我慢して続きを読んでいただきたい)。

「20代の読者の女の子たちに伝えたいこと:
幸せになることとは、選択肢を増やしていくこと」

これは、私が30歳の時に小説の連載をさせていただいていた『AneCan』の当時の編集長が言ったセリフ。深く同意したので覚えている。
まずは、自らの手で人生の選択肢をどんどん増やしていくこと。そうしておけば、いくつもの選択肢の中から最も進みたい道をのちのち「自分の意思」で選ぶことが可能になる。
全く同じことをしていても、それしか道がなかったからなんとなく/仕方なくしているのと、自ら望んでしているのとでは何もかもが違ってくる。

そこに自分の「意思」が
あるか否か、で「輝き」は決まる。
「意思」なきところに「幸せ」はないのである。

私自身も、10代から20代前半にかけては自らの選択肢を増やしていくことに尽力した。目指していた職業(作家)に絶対に必要かと言えばそうでもなかった大学を辞めずに卒業したのもそうだし(単位取得がかなり大変な学部だったので……)、名前を売るための手段としてラジオDJのオーディションを受けたり(優勝してJ-WAVEの人気番組アシスタントに採用されたものの、半年で番組が終わって次の声はかからず……)、ノルマ分のチケットの自腹をきってまで深夜のクラブでMCをしたり、仕事の幅を増やそうと当時の自分なりにもがきながも頑張っていた。
あくまでも私は作家になりたいのに、地下のクラブ(アンダーグランド)でマイクを持って叫んでいて、果たしてここから昼間の世界(オーバーグランド)での出版に辿り着けるのだろうか? と疑問に思った夜はハッキリ言って数えきれない……(笑)。
が、そんなふうに当時は“無駄”になるようにも思えたこれら過去の点と点は、今振り返ってみると全てが一本の線につながっている。初めて連載を持つことができたのはHIPHOP専門誌だったし、十代の頃から好きだった「音楽」が「デビュー」への架け橋になってくれたのは事実。
ただ、色々と挑戦してみたけれど結局のところ、私は書くことが最も得意だったみたいだ。(自分の夢やら希望やらがどうであれ、仕事にするには世間に需要があるかどうかが全てであり、実際にやってみないと分からない)。ラジオ業界での下積み時代の苦労はなんだったんだろう?と思うほど、恋愛エッセイでデビューしてからはすぐにヒット作に恵まれて、エッセイと小説をスムーズに出版し続けて今に至る。
そうして30代になり、作家を自称しても許されるくらいには著作が増えて、母親にもなったところで、今度は「喋る」仕事のオファーが増えてきた。この連載の対談にきていただいた真矢ミキさんとの出会いの場にもなったTBS朝の情報番組のコメンテーターの仕事もその一つだった。

育児を通して初めて体感した「母親に対してフェアではない社会」に憤りを感じていたので、世間に言いたいことはもちろん沢山あった。でも、コメンテーターという立ち位置に身を置きたくないと思う自分もいた。理由はとてもシンプルで、テレビのワイドショーが好きではないからだ……。それでも私は受けた。正直に書くと、テレビに出ることで知名度をあがって本がもっと売れるようになったらいいな、という「下心」もあったし、「ギャランティ」に惹かれたところもある。
ワンクールという短い時間だったけれど実際にやってみて、やはり私は文章で自分の意見を発信するやり方が最も向いていると改めて感じた。それでも、またそのようなオファーがきたら潔く断ることができるか、と聞かれればまた揺らぎそうな自分がいた。

その頃、ちょうどデビュー10周年だった。

増えすぎた仕事の選択肢を自ら消すことで、「本業:執筆業」に自分を集中させたくなった。ブレることなく本業を極めていこう! そんな決意を込めた自分へのプレゼントは、「服を着ていても見える場所のタトゥー」にした。
18歳の時にファーストタトゥーをいれた時は、見えない場所:腰にした。自由業で自分が食べていけるか保証は当時まだゼロだったから。だけど今度は、左手首と右手にいれた。私にとってこれは、好きな仕事一本でまず十年は食べていけたことへの自信の証であり、今後も継続できるように努力をしていく覚悟であり、オーバーグランド(TBSの朝番組)からアンダーグランド(刺青)への私なりの原点回帰でもあった(笑)。

選択肢(逃げ道)を消すと、
目の前の一本道への覚悟も集中も増す。

「あれもこれもいいなぁ」ではなく
「私はこれでいく! 」と決断する。

その基準は、世間的な成功と一致していなくても良いのである。(タトゥー部分をお読みいただきありがとうございました。私はこれが言いたかったのです)。世間体よりも、自分が心地よいと感じるほう、自分がよりやりたいほう、が正解!
「仕事」だけではない。「恋愛」、「結婚」、「出産」、「離婚」だって、全てそう。世間が定義する幸せのほうを選択したところで、実際にその中で毎日生活していくのは自分であり、その道の中で自分がどんなに生きづらかろうが、世間は責任をとってはくれないのだから。

ちなみに、私にとっては日常生活の中でもタトゥーは便利。
人生をゲームのように俯瞰で見つめ、自分をそのゲームをプレイするキャラクターように客観視する癖があると書いたが、自分の外見をどうアレンジしていくか、は自分が動かすプレイヤーのアバターを着せ替えていくような感覚。
見えるところにワンポイントタトゥーが入っていれば、このヒトは「いわゆる世間一般の価値観」からは少しズレたところで生きようとしている/生きている人だ、と相手に分かりやすく提示してくれる。

他人と仲良くやるには「壁」を作るな、とは
よく言われることだけど、時にはあえて
「距離」をつくるのも「社交術」の一つと思う。

だって、その人と自分はまるで違うタイプなのに、一方的に同じタイプだと誤解されてしまうって立派な「生きづらさ」。
もちろん、他人には優しく、いかなる時でもできるだけ親切に接する、いうのは社会人としてのマナーなので死守しつつーーーー「舐められない」ってことも社会で生きるうえでとても大事だし。

人生の選択肢を増やしてから減らしたり
心は開きつつタトゥーで壁をつくったり
世間と自分とのバランス感覚を掴むこと、
大切な「生きるセンス」だと私は、思う。

自分のスタイル(の系統)がどんなものであれ、「自分軸で機嫌よく生きている人」って、周りに迷惑さえかけなければ「あの人はあの人だから」と一定の距離とセットで一目置いてもらえるものだから。

あとは、自分の身を置く「場所」選び。
人のぬくもりにもいろんな「種類」がある。
審査基準は、自分が「息」をしやすい温度。

私の場合は、都会の空気が肌に合う。そこに集う人々の価値観、という意味で。そもそも大都市とは、地元で生きづらさを感じ、多様性が尊重されるユートピアを求めて都会にやってきた地方出身者たちの集合体でできている。
基本的には自分のことで忙しく、他人のプライベートに興味を持たない人たちのクールさ=私が心地よく思う他人の「優しさ」だ。もちろん、友達や恋人に求める愛情は、これとはまた異なるけれど、プライベートをシェアする人間は、まずは自分たちで選び合いたい。同じ町に住んでいる/子供が同じ学校の親である、というだけ共通点でいちいち干渉されたり噂されたりするのは極力避けたい(魔女狩りに合うタイプだからこそ)。

外見の仕上げ方に、
その身を置く場所。
「気」が合う同士は、
互いを必ず見つけ合う。
――そこが自分の「居場所」となる。

つまり、これこそ対談で
吉本ばななさんがおっしゃっていたこと。

「ここは自分には
合わないと感じるのなら、
アンダーグランドでも、どこでもいい。
自分自身が心地よいと
感じられるコミュニティを
いくつか見つけられたらいいよね」

自分が生きやすいと感じるコミュニティの中に居場所をつくるって、具体的にはこういうことなんじゃないか、と思うのだ。

<続く>
第四話「エイジングの流派 〜 世界VSマドンナ〜」

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作家
LiLy

’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら

文/LiLy イラスト/ito・megumi

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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