美的GRAND
作家LiLyの「生きるセンス」
2022.7.22

ゲスト・吉本ばななさん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第4話「今の時代の闇と光」

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「年齢を重ねるということはどういうこと?」。楽しいことばかりではないし、かといってつらいことばかりでもない。人生の先輩に訊いてみました。「 私たちに生きるヒントを授けてください」と。40代からの人生が輝く"読むサプリ"。 2人目のゲストは、作家の吉本ばななさんです。 【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第2回ゲスト・吉本ばななさん 】

>>第3話「コンサバ or 吉本ばなな, and HIPHOP.」はこちら

「底辺から良くなってきている」…底辺から。
ばななさんの言葉が胸にズシンと重く響いた。

上と下とでどんどん開いてゆく経済格差。止まらない二極化。これからますます拍車がかかっていくといわれている、格差社会。

子供を育てていると、
二十年、三十年、四十年後の
社会の行方がとても気になる。
これから、どんな社会になっていくのか。

その中に子供を「大人」として送り出す時に、彼らにサバイブするために必要になる武器はなんなのか。
できる限りのものは与えてあげたい。つまりは教育。それは親心。つきまとうのは不安。ベースにあるのは、それこそばななさんが口にしたワード「貧困への恐怖」。

「私の父は、実家が茅ヶ崎の団地で。親が借金をしたり、と経済的には色々と大変だった中で勉強がすごくできる子供だったんです。それで父は東大に行って、本当は哲学者になりたかったけど貧しい実家のことも考えて大企業に就職し、家庭を中流へと巻き戻した人で。
まさに父が就職した頃の経済はのぼり調子で、それこそバブルへと向かっている頃で。ばななさんがおっしゃった通り、当時は自分が頑張ればなんとか成功できた時代だったんですよね。
それが、今ではどうやら様子が全く違う。子供の頃からの進学塾通いなしにして東大なんてそうそう入れない。そして、塾には多額のお金がかかるわけです。今はもう東大生の大半が富裕層の家庭出身、ということになってきてしまっている。
もちろん、東大に行ったからって成功できるとは限らないのは大前提として。それでも貧困から抜け出せる可能性が広がっていくのは事実なわけです」
話しながら込み上げてきた怒りが声に滲むんでいるのが自分でわかる。不平等。理不尽。差別。なによりも不快でキライなもの。下克上。成り上がり。HIPHOP。なによりも私の胸を熱くするもの。平等なんてこの世にはないかもしれないけれど、本人の努力次第で掴めるチャンスだけは奪ってはいけないと思う。
「本人の才能や努力よりも親の経済力で差がついてゆく、というのは私、本当に大問題だと思っていて…」
言葉を切ることで、私はばななさんに問いかける。
「本当に今はそうみたいですよね。それくらい日本がタイトになってきているということでしょう。余裕がないんですよね、もう沈みかけているから。もう今ある状態を保つだけでも精一杯というか。
下から引き上げる余裕もないから、自分の大学の後輩を会社に入れて、みたいなことで現状(富裕層、または中流家庭の生活レベルと地位を)なんとか維持する(努力をする)ことしかできなくなっているんでしょうね。
今はほんとうに時代が悪いですよ」

景気の悪さは、余裕をなくす。豊さとは、余裕から生まれるもの。努力をしても報われづらい時代に今後ますますなっていってしまったら、これからの若者は、なにに希望を持って、どこに向かって頑張ればいいのだろう。

「それでも今の若い人たちは、たとえ貧しい中でも
どうやっていくかをちゃんと考えているように思います」

18歳になる息子さんを通して今の若い世代を見ているばななさんの言葉は説得力を持つ。そして、ばななさんが今の若者たちをみていて「恐ろしい時代だ」と思うのは、やはりSNSの出現だと言う。

「リストカットしている様子をアップできてしまったり、彼氏が浮気していることを追跡してどんどんあげていっちゃう子もいたり、恐ろしいなぁと思いますね」
「こんなに傷ついているから、助けて、私を見て! という衝動的なSOSだとしても、それはネットにずっと残っちゃいますもんね……」
「やっぱりそこはまだ若いから、感情のままにネットにあげてしまう。怖いですよね」
「そう。自分が十代だった頃を思い出してみても、大人と言えば大人だけど、やっぱりまだまだ未熟だから。その時の衝動がデジタルタトゥーされてしまうリスクは相当です…。
浮気した彼氏に対する怒りの衝動だとしても、他人を社会的抹消できてしまうツールでもあるから、する側もだけどされる側だって本当に怖い……」
「そうなんです。だからやっぱり(SNSも)プラスとマイナスを見て上手に使っていかないと、とは思います。

いいなと思うのは、
この人たちだと戦争は起きないだろうな、と」

「わかります! もし戦争になっても俺は行かないよってスタンスの若者が増えているだろうなってことに、私も平和の希望を見ています!」
「行かないって言うでしょうね。それでこそ平和ですよね。それでも侵略はされるでしょうけど……。あとは、会社が行けって言っているから行く、みたいな人も中にはいるでしょうけど」

「あ、」と私はここでまた思う。

「学校教育が感性に害を与えるっておっしゃっていたところに通じている話ですよね。上から言われたことに対して、何も考えずに黙って従う訓練をされてしまう。(大人たちが扱いやすい・大人にとって都合の)いい子になればなるだけ、思考停止スキルが育成されてしまう。これは教育問題において最悪なこと、変化すべきこと、と強く思います。
でも、じゃあみんなそれぞれの頭で考えて発言していい、となった場合、バラバラになって秩序が乱れたりするんですかね? 」

>>第5話「同じ時代、でも世代で変わる世界」

>>作家LiLyの「生きるセンス」一覧

 

吉本ばなな:‘64年生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版され、国内のみならず、海外の文学賞も多数受賞。近著に『ミトンとふびん』『私と街たち(ほぼ自伝)』など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。noteはこちら

LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.とフロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。小説、エッセイなど著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら

文/LiLy 撮影/須藤敬一 ヘア&メイク/YOSHIKO(SHIMA)(吉本さん)、伊藤有香(LiLyさん) 構成/三井三奈子(本誌)

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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