美的GRAND
健康・ボディケア・リフレッシュニュース
2022.7.8

ゲスト・吉本ばななさん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第3話「コンサバ or 吉本ばなな, and HIPHOP.」

「年齢を重ねるということはどういうこと?」。楽しいことばかりではないし、かといってつらいことばかりでもない。人生の先輩に訊いてみました。「 私たちに生きるヒントを授けてください」と。40代からの人生が輝く"読むサプリ"。 2人目のゲストは、作家の吉本ばななさんです。 【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第2回ゲスト・吉本ばななさん 】

>>第2話「コンサバor吉本ばなな」はこちら

親として心配する時、思考は止まり保守っぷりが露呈する

「HIPHOP界にも
沢山いるじゃないですか。
独自の生き方をしている人が」

そう、HIPHOP。
ばななさんとの出会いのきっかけは、私が審査員として出演していたラップバトルのTV番組『フリースタイルダンジョン』。
第1回目から全てのバトルを観ているというばななさんが息子さんと一緒にスタジオに遊びにきたのだ。まさかHIPHOPの現場で作家の吉本ばななと会えるとは思ってもいなかった私は感動しすぎてぶったまげた。ラッパーたちも大興奮していた(笑)。

ロックのクラブハウスも、HIPHOPのクラブも。
それこそ社会の中に生きづらさを抱えた人たちは、地下(アンダーグラウンドカルチャー)に居心地の良さを感じることが多い。漏れなく私もその一人だが、中学生の息子が「俺はHIPHOPを聴いてもそんなにピンとこない。他のジャンルの音楽のほうが好き」と言った時は大きな安堵と共に喜んでいる自分がいた。また、私の中のコンサバフェイスの出現だ(……)。

マイノリティーとして社会で生きるしんどさを、
なかなか食えない夢を持つことの苦しさを、
他人事ではなく知っているからこそなのだとは思う。

そう考えると、やっぱり大学には行った方がいいと考えにまた行き着く。今ここではばななさんの話に頷きながら、だけど家では息子に学歴の利便性について語っている自分もいるのだ。
「途中で自分がやりたいことを見つけてそのレールから自ら逸れるのは大アリだけど、とりあえず塾はマストだよ、受験もそれこそゲームみたいに楽しんで」と。

“感性一色”でいって
結果としてお金を稼げなくても、
もし実家に財産があればなんとかなる。
でも、うちにはない。
だから子供たちには、
社会で稼げるスキルを
身につけさせなきゃいけない。

ベースにあるのは親としての不安。そして、考えても正解が分からない、と思ってしまったことによる思考停止。
稼ぐスキルを養う方法は、進学塾以外にもいくらでもあるはず。でも、まだよくわかないから、とりあえず私は保守派の流れに沿っている。
ところどころで相槌を打ちながら、私のちょっと恥ずかしい本音を聞いてくれていたばななさんが遂に、
「でも」と切り出す。

「でも、なんとかなると思いますけどねぇ。
バイトをすればなんとか暮らしてはいけるし」

やはり、吉本ばななはロックである。
そして、HIPHOPの中に紛れ込んだ
コンサバ女が私なのかも。……嫌だな。

書いていて恥ずかしくなってきた。
けど、会話を改めて文字にして読むと本当にそうなのだから仕方がない(リアリティにとことんこだわること=私の中のHIPHOPでもあるので“自分の本音”の部分だけは1ミリもブレずに書こうと思う。ダサくても…)。
私が心の中で赤面していることに気づいているのかいないのか、
「私も最悪の場合、野方のスナックとかで働けば生きてはいける。銀座とか麻布とかは無理でも、池ノ上とか野方なら行ける気がする。バーのママを。下北沢、も無理っぽいなぁ」とばななさんは笑ってからこう続けた。

「それに、この世の中はもう、
コンサバだから上手くいくとも限らない。
(流れに沿ってさえいれば)成功できた時代は、
もう終わってきていると思いますよ」

私は身を乗り出して聞き入る。ばななさんは続ける。

「それこそ、貧困に対する恐怖のようなものは、
私の親世代くらいからのものなんです。
高度経済成長と、その後あたりですよね。
中流じゃないと人間じゃない、みたいな時代で。

その時は、(日本の経済が上り調子だから)
頑張れば本当になんとかなったんです。
でも今は、もう(経済の状況が)そうじゃないですから。

でも、私は下町の出ということもあって、人間のたくましさを見てきているので、そこに希望はあるとは思っています。
食べ物がなかったら、お店の人が残り物をくれて、みたいな助け合いがあったわけです。またそうなっていくんじゃないかなぁ、と。ただ、今の人は、目の前にお腹が空いている人がいたとしても、“ルールなんで、すみません”って残り物をゴミ箱に捨てたりとかしてるでしょう? コンビニの残ったお弁当とか。(ルールを破って)自分がクビになるのが怖いから」

「―――まさにそれこそ
思考停止の恐ろしさ!!」

冒頭に出た義務教育の弊害の話にも、私のコンサバ化の由来にも繋がるこの恐ろしいキーワードをまたここにも見つけて思わずシャウトした私に「そうです、そうです」と頷いてから、ばななさんは続ける。

「それでも今も下町の人なんかは、こっそりやっているんですよ。残った食べ物を置く場所をこっそりと決めたりして。そうすると近所のよくわからないババアとかが、犬が食べたらどうする、とかカラスが、とかいってくるんですけど、そうしたら今度はまたこっそりと置く場所を変えたりして、みんな戦っていると思いますよ。
だから意外と、底辺から良くなってきている感じはしますね。力を合わせなきゃ!と思って。もちろん、そうじゃないところもあるとは思いますけど……」

>>第4話「今の時代の闇と光」

>>作家LiLyの「生きるセンス」一覧

吉本ばなな:‘64年生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版され、国内のみならず、海外の文学賞も多数受賞。近著に『ミトンとふびん』『私と街たち(ほぼ自伝)』など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。noteはこちら

LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.とフロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。小説、エッセイなど著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら

文/LiLy 撮影/須藤敬一 ヘア&メイク/YOSHIKO(SHIMA)(吉本さん)、伊藤有香(LiLyさん) 構成/三井三奈子(本誌)

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

この記事をシェアする

facebook Pinterest twitter

関連記事を読む

あなたにおすすめの記事