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2025.1.8

【水野未和子の読むメイク】生命力を宿す「血色感」を手に入れる|美的GRAND

メイクアップアーティスト水野未和子さんがビューティジャーナリスト木津由美子と美容を徹底考察する「読むメイク」。前回の「眉」に続き、今回は「血色感」をテーマに取り上げました。大人の肌印象を大きく左右する、生き生きした「血色感」について語り合います。

アンジェラさん:カーディガン¥55,000 亜美さん:ニット¥45,100(リーミルズ エージェンシー〈ジョン スメドレー〉)

“メイクアップはその人のアティテュードにつながっているか”

木津由美子(以下、木津) 今回のテーマは「血色感」ということですが、なぜ「血色」にフォーカス?

水野未和子(以下、水野) 血色の表現って、要はチークですけど意外に難しいんですよね。「何を選べばいい?」「どの辺りに塗ればいい?」と聞かれたりするんですが、アイシャドウや口紅と違って、近しい色の中から選ばなければいけないので決めづらいし、質感や発色は見た目よりも実際に肌にのせてからじゃないとわからない。元々の頰の血色もあるから人によって出方が変わるので、難しいんですよね。かといって、ナシにするものでもないと思っていて。「チークレスで行こう」というような記事を見たこともあるけれど、たとえ「チークレスメイク」だとしても、「チークレス」に見えるカラーを使ったほうがいいと思う。ベースの一部という立ち位置として大事なものだと思うんです。

木津 チークはメイクアップにおいてエッセンシャルなもの、と私はコロナ禍のときに痛感しましたね。

水野 どういうこと?

木津 一斉にステイホームになってメイクをしなくなって、その後マスク必須で外出するようになった頃、女性たちはみんなアイメイクに夢中になりましたよね、唯一メイクできるパーツだったから。そんな頃、青山通りで信号待ちをしていたときに周りの女性たちの横顔をなんとはなしに見ていたら、マスクで覆われていないスッピンの頰としっかりアイメイクの落差がどうにもイケてなくて。マスクした横顔を自分で見ることはないから、本人は全く違和感はないんだろうけど。

水野 大事なのは、全体のバランスなんですよね。

木津 チークが作る肌トーンのバランス感って、横から見ないとその重要性がわからないですよね。正面から見るとアイとリップのバランスがとれていればいいか、と思ってそこに一生懸命になり、チークの存在が二の次になる人が多いように思う。

チークの血色感が残像さえ操作する

水野 頰にシワがいっぱいある人って、いないじゃないですか。おばあちゃんでもきゅっと笑うと、頰がポンっと丸く前に出てきますよね。そこに血色を足してあげるとよりヘルシーに見えるし、シンプルにかわいい。怖そうに見える人でも笑顔になって頰に血色が現れるとかわいく見える。だから、チークをしない手はないんじゃない? 年をとるとまぶたが下がってくるから、アイライナーを入れるなら昔とは引き方を少し変えなきゃいけないけれど、チークは年齢を重ねても入れ方がすごく変わるわけじゃない。しかもヘルシーでフレッシュに見える効果があるし、面的に広い部分だから、残像としてヘルシーでフレッシュな印象が残るのはとても大事なことだと思う。

木津 それで今回、ご自身のブランド「define brush」からオレンジブラウン系の「マルチユースフェイスカラー」を発売されたんですね?

水野 自分ごとで恐縮なんですが(笑)、今回のモデルのアンジェラのほうに使ってます。なぜ作ったかというと、大人に似合うオレンジ系が意外に少なくて。ピンク系はわりとあるんですけど、オレンジ系だとポップな感じになるか、あるいは落ち着いたオレンジを探そうとするといきなり古くさくなったり、パウダリーだとクラシックな仕上がりになったり。内からにじみ出るような血色を出すにはやっぱりパウダーじゃないなと思って、クリームタイプになったんです。明るすぎず、かといってシェーディング程暗すぎることもなく、ちょうどその中間で、30分くらいウォーキングしてきたよ、みたいな血色感が欲しくて。

木津 前回の「眉」のときはシェイプの変遷をたどりましたけど、今回「血色」の表現ってどうだったんだろうと振り返ってみたんです。やはり王道は日本も西洋も同じ、“白肌にバラ色の頰”。日本は赤(紅)・白(白粉)・黒(眉墨・お歯黒)が化粧の基本色で、頰紅は白粉と紅を混ぜて白粉を塗る前に目の周辺から頰にかけて塗っていました。一方西洋でもマリー・アントワネットに代表されるように、透けるような白肌に赤く色づいた頰が鉄板。18世紀後半の貴婦人たちはメイクで自己表現をしていて、本物のバラを頰紅として使用していたそうです。2年前に終了したコスメブランド「レ・メルヴェイユーズ ラデュレ」が多種多様なチークをそろえていたのは、その時代の貴婦人=メルヴェイユーズを着想源にしていたからなんです。

水野 ありましたねえ、ラデュレ。そういう背景があったとは知りませんでした。ピンクの頰は女性らしさを表現するには最適なパーツなんでしょうね。花魁もそうだし。

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宮廷女性画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランによる、バラを手にするマリー・アントワネットの肖像。1783年。

周延『時代かがみ 元禄之頃』1897年。

ともに化粧が自己表現の手段となった頃の女性を描いた歴史的作品。洋の東西を問わず、陶器のような白肌とバラ色の頰が女性美の象徴だった。

チークの概念を変えた3人のアーティスト

木津 そんな王道の血色表現を大きく変えたのが、メイクアップ業界をリードしていた3人のアーティスト。ケヴィン・オークイン、フランソワ・ナーズ、ディック・ページだと思うんです。まずケヴィンのメイクアップは、’80〜’90年代のスーパーモデルブームを牽引したと言ってもいい。細眉にリップライナー、そしてコントゥアリング。オレンジブラウン系を使った「コントゥアリング」というメソッドを一般に広めたのはケヴィンの功績ですね。

水野 確かに。パウダリーでクラシックな時代から一転、モードをチークで作りましたよね。

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『The Art of Makeup』(1994)の出版記念会でのケヴィン。

1993/94年秋冬コレクションに登場したケヴィンのミューズのひとり、リンダ・エヴァンジェリスタ。

2002年に40歳で急逝した伝説のメイクアップアーティスト、ケヴィン・オークイン。生前に出版した3冊の書籍は今なおアーティストたちのバイブルに。

木津 その後、フランソワ・ナーズが「ザ マルティプル」を生み出し、質感表現が大きく変わりました。実はこの商品、『ハーパーズ バザー』がきっかけで誕生したんです。

水野 え? どういうこと?

木津 US版’96年3月号で最も影響力のある6人のメイクアップアーティストに春のルックを作ってもらうという企画があって、しかもそこに条件がふたつあって「お気に入りのモデルを使う」「ヘア&メイクは3時間」。そこでフランソワ・ナーズがキャロリン・マーフィーを起用し、リップスティック1本で目元・頰・唇を彩った。雑誌発売後、その口紅が大ヒットしたことを受けて、フランソワはどこにでも使えるカラースティックを開発したわけです。

水野 なるほど。

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マーク ジェイコブスの2011年秋コレクションでメイクアップするフランソワ。

アナ スイ1997年春夏コレクションに登場したフランソワのミューズ、キャロリン・マーフィー。

「ザ マルティプル」(¥5,500)は日本では全4色展開。

ʼ94年に「NARS」を立ち上げたフランソワ・ナーズがʼ96年にリリースした「ザ マルティプル」は「女性の顔に自由を与えた」と評されたアイコニック商品。

木津 そこからさらに血色表現を進化させたのがディック・ページですね。N.Y.を中心に数多くのショーのメイクを手掛けていたけれど、とにかく「トレンドについて語るのはナンセンス」という人で、「メイクアップは色や質感が問題なのではなく、その人のアティテュードにつながっているかどうか」を重視していた。一緒に撮影をしたこともありますが、ファンデーションはほとんど使わず、クリームチークをスポンジにとってラフにのせていく感じがとても新鮮でした。この3人全員が同時代に資生堂と契約していたクリエイターだったことを思うと、隔世の感がありますけど。ところで水野さんは今回、フェイスカラーと一緒に「ブラッシュブラシ」も出しましたよね?


その人らしさを生かしたメイクアップに定評があり、今なおスタイルを変えずに活躍するディック・ページ。資生堂とはʼ97年に契約し「INOUI ID」「SHISEIDO」のアーティスティックディレクターを務めたことでも知られている。
ゼロ+マリア・コルネホの2012年秋コレクションより。

“チークには粉とびしにくい小ぶりのブラシを”

水野 チークってブラシ選びが本当に大事だと思うんです。ところが大きすぎるブラシを使っている人が多くて、笑ったときに突き出る“たこ焼き”部分だけにふわっとかけたいのに、キラキラチークだと顔全体にラメが散らばり“キラキラ オール オーバー ザ フェイス”になっちゃう。だから小ぶりで長さもあまりないブラシに仕上げたんです。長さがありすぎると粉が思わぬところにとんで真っ赤になっちゃったりするから。ディックのスポンジ同様、チークには小さめのブラシ使いが粉とびもしないのでおすすめですね。

木津 確かに。太めのブラシを使うときはブラシにとる量や肌への当て方にすごく気を遣います。

水野 ですよね。“たこ焼き”部分から外に向かってふわっと入れる感じ。昔はケヴィンに象徴されるようにチークボーンから下めに入れてましたよね。今はそれよりも上めで、しかもディックのように鼻骨辺りにブリッジしてあげると、いかにもチーク入れてます、という感じにはならない。ブラシに残った粉で鼻先やあご先に軽くかけてあげると、“おてもやん”を避けられますね。

“血色チークは「汚して濡らして温めて」”

木津 シェーディングは使う?

水野 シェーディングも私の中ではベースの一部で、チークと同じ立ち位置。だから細く見せるというよりも、顔をちょっと温めてあげるというイメージで使うんです。

木津 顔を温める?

水野 シェーディングカラーはウォームカラーだから、上気したような仕上がりになる。ファンデーションをしっかり塗った人って能面みたいになって目もちっちゃくなって、全然血色がないじゃないですか。生きてない。だからそこに温度をちょっと戻すような感じでシェーディングカラーを使ったりするんですよね。そしてツヤはツヤで、クリームタイプのハイライターを第1関節分くらいとって、頰の高い位置だけにチョンチョンと入れてあげる。Cゾーンではなくて。こめかみなんか光ったら汚いから。そこまでして、私にとってはチークという感じかな。


パウダー、リキッド、クリームと種類を問わず使える。斜めカットの穂先が頰に心地よくフィット。
define brush ブラッシュブラシ 006 ¥15,400(キャップつき、限定先行発売中)

カラーとハイライターは分けて使うほうがキレイ

木津 最近、パールやラメが際立つチークが多すぎません? 多色パールで鱗のように光るものとか。メーカーの論理だと立体感の演出となるけど、毛穴落ちすると最悪だし、すごく不自然に見えて。

水野 メーカー側は「みんな面倒くさいでしょ、だから3個1がいいよね」みたいなチークが多い。これハイライターなの? チークなの? シェーディングなの? みたいな。それだとひとつひとつの仕事がちゃんと際立たない。「血色」と「温度感」と「ツヤ」。そこは役割を区別して使うほうがキレイに仕上がると思いますね。チークって面積が広いから、その人が思っているよりも自分の印象を作り上げてしまう。「ピンクはちょっと」っていう人もいるけど、大人のチークはピンクとオレンジが私にとっての2大カラー。大人こそダークローズのような色をかけると上品でヘルシーになるし、“塗ってる感”がいらないときは、オレンジ系ならカジュアルでチャーミングな印象になる。顔の印象って、何よりもチークが変えてくれる。でも頰骨からこめかみの下まできちんとキレイに入れすぎると怖くなる。だから、「汚して濡らして温めて」。

木津 「汚して濡らして温める」?

水野 チークカラーは頰だけじゃなくて鼻先やあご先、鼻骨などに汚すように入れることで、顔全体が温まった感じになります。パウダーがレイヤーされたときは、フィニッシングミストやフェイシャルミストを仕上げにかけると粉感が抑えられてチークが浮くことはなくなる。肌の色とチークの色がなじんで初めて血色が出るから、そのためにミストを使うというのもあるんですよね。そうすると“作られた血色感”から“生きてる血色感”に変わる。

カラーはイエベ・ブルベに捉われずに選んで

木津 冒頭でチークは近しい色の中からセレクトするから難しいという話があったけど、色選びのアドバイスってあります? よく言われる「イエベ・ブルベ」ってどう思う?

水野 「イエベ・ブルベ」はどうでもいいですね、あれはビジネス的なものだから。どんなシェードでも幅があるから全く関係ない。そばかすがある人やカジュアルなスタイルならオレンジ系、そういう人がディナーに行くときに赤リップを差すならローズ系。昼の日差しならオレンジ、夜のライトならピンクかな。

木津 チークに限らないけれど、どうしても日本ではマニュアル化したがる人が多いですね。

水野 じゃあ私はこの色でいいんだ、って安心したいんでしょうね。

木津 一般的にチークを何色くらいもってるのかな?

水野 少なそう! アイシャドウはいっぱいもっていそうだけど。

木津 なんだったら昔使ったものをずっと使っていそう、なかなか減らないから。そうすると質感が古いからさらに良くないですね。

水野 大人って笑顔が大事だと思うし、笑顔を大切にしたいと思う人にはチークをちゃんと入れてほしいと思う。心が荒んでいる人はいい笑顔で笑っていなかったりするから、いい笑顔を作るためにもチークは大事にしてほしいですね。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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