【齋藤 薫さん連載 vol.59】言葉を操れる女は、人生も切り開ける
帰国子女でもないのに、何か国語も話せる女性、あなたの周りにもいませんか? 彼女たちは、単なる技能を身につけているのではなく、きちんと自分の考えを自分の言葉で伝えたい! そんな心と心のつながりを大事にしている女性かもしれません。今月は、語学を巧みに操れる女の魅力を薫さんに語ってもらいます。
トライリンガルな女優は、
やっぱりタダならぬ気配の濃厚を秘めていた
熱愛報道はいつも衝撃的なものだけれど、ちょっと違った意味で衝撃を受けたのが、中谷美紀さんの交際報道だった。それも、事務所が呆気ないほど簡単に認めてくれたお相手が、世界に冠たるウィーンフィルのビオラ奏者! ちなみに、ウィーンフィルの団員には日本女性と結婚した人がある数いて、最もステータスの高いウィーン・フィル団員の妻の座を狙う日本女性が少なくないと言われるだけに、今回の報道は反響が大きく、ひたすら悔しがる人もいたはずだが、全く別の意味でこれはとても中谷さんらしい粋な展開で、誰もが唸ったもの。なるほどそういう選択があったのかと、ハッとさせられると同時に、なんだか深く納得させられたのだ。
正直これまでも、女優の中では異彩を放つ存在だった。神秘的であり、個性的であり、そしてどこまでもエレガントである。ある種つかみどころがないのに、まとまりのないタイプとは違う。何か1本、ピンと筋が通った凜とした印象を放つ、なかなか稀有な存在だった。つまり、この人には何かあると思っていたもの。普通の女性とは違う何かを。
だって考えてみてほしい。誰もが憧れるマドンナ的な役をやらせたら天下一品なのに、その一方で「嫌われ松子の一生」や、「ケイゾク」では、女として相当にやばいタイプを見事にこなしていた。一体この人の振り幅は、何なのだろうと、本当に不思議だった。
私の周囲の男性たちは、この人のことを「女として別格」と言う表現をした。男たちに別格と言わせる女……それがこの人であることに、女は不思議に大きく頷いてしまう。その内側に、その奥底に、何やらを秘めている人だから。着飾らなくても高級感のある人だから。ともかく、自分を大げさに〝いい女〟に見せようなんてしないのに、ただ者ならぬ香りを放っているのは確かなのだ。
実は、今回の報道で明らかになったのは、中谷さんが英語のみならず、フランス語もイタリア語も堪能であると言う事実。今時そんなことで驚くの? と言う人もいるのだろうが、この人はトライリンガル女優を売りにするわけでもなく、ことさらにそういうことを主張するでもなく、あくまでさりげなかった。一体いつの間に? と思うほど。
でもこれで何だか腑に落ちた。言葉を持つことは、そのまま視野の広さにつながり、生きる上での可能性の広がりにもつながっている。世界的に活躍する音楽家との自然な出会いも少しも不思議ではなくなるほどに。逆に、なるほど、この人の場合はここが収まりどころだったのかもしれないと、なんだか妙に理解できてしまったのだ。
どちらにせよ、言葉ができることって、なんだか人のスケールを大きく見せる。この人を、〝神秘的でとらえどころがないのに、1本スジの通った凜とした人〟に見せているのは、おそらくこの人の奥に潜んでいる言葉の広がりなのではないかと思う。おそらくは、言葉の数だけ、文化も体の中に入ってくる。言葉の数だけ、哲学的なものの考え方も身についてくる。それが見た目にも表れる気配の美しさ濃厚さに形作られていくから、男たちから見ても、この人はなんだか別格なのだと思う。
そんなことを教えてくれた、思いがけない恋愛報道。少なくとも、これでまたこの人の存在が重厚感を増すはず。それだけは間違いないのだ。
実はあの人も4か国語を操る知性派?
トランプ夫人を救うプロフィール
いまだに「本当にあの人がやるの?」と現実を認めたくない人が多いというトランプ氏の次期大統領就任。娘の方はそれこそ「最強の娘」と言われるほど優秀で美しく好感度も高いが、そのイヴァンカ・トランプですらバッシングされるほど、アメリカでは〝トランプ・ファミリー〟に対して、早くもアラ探しが始まっている。
もっとも賛否両論が多いのは、次のファーストレディーの座に〝あの人〟が座ること。美しいけれど、ゴージャスだけど、ファーストレディーのイメージでは全くない。明らかに居場所を間違えている!という意見が高まっているのだ。
元モデル。しかし著名なスーパーモデルとはちょっとカテゴリーの違う、セクシーすぎる写真がここぞとばかり流出してしまうようなモデルだったわけで、少し前まで大きすぎるバストを強調するようなドレスを着ていて、選挙運動では胸をしまい込んだものの、そのイメージを消し去ることはできない。さらにトランプ氏が、移民は認めないと言っているのはちょっと皮肉な話で、この夫人は旧ユーゴスラビア出身。とまぁいずれにしても、悪口を言う気になったら、どこからでも突っつける。もちろんファッションカリスマとして同じ量の憧れを生むことは、それはそれで間違いないが、この人にこれから茨の道が待っていることもまた確かなのだ。
でも必ずイメージを高めることになるのが、実は〝4か国語を操る〟と言う事実。意外と言っては失礼だけれど、母国語に英語、フランス語、イタリア語を話すと言う。それは疑いようのない知性の証明でもあり、この人の今後を支えていくことになるのだろう。その証拠にマスコミは、メラニア夫人に対してむしろ好意的。ちゃんと思慮深く賢い女性であると評価をしている。選挙中のスピーチが実はもともとかなり好評だったが、例の、ミッシェル・オバマ夫人のスピーチのパクリ部分があったことで世の中が一転バッシングに転じたものの、あれがなければ、もっと知的な印象を残したはず。
そもそもこの人が4か国語を話すようになったのも、モデルとして国際的になり女としてキャリアアップしたかったからだろう。事実この人はフランスでもイタリアでもモデルをやり、アメリカで永住権を取り、世界一と言ってもいいファーストレディーにまで上り詰めるのだ。もちろん語学堪能がその成功要因とは言わないけれど、それがこの人の活動範囲を広げ、人生の行動半径を広げ、夢と可能性をどれだけ広げたかわからない。少なくともファーストレディーというまさかの立場になったプロフィールに、有形無形にハクをつけることになったのだから。
語学ができるというのは、 単なる技能を身につけることとは意味が違う。そもそもが言葉がないと〝考え〟と言うものも生まれない。どういうことかと言えば、ここで主張したい「言葉を持つことが目を見開かせ、人の心を結びつけ、人生を切り開いていくのではないか?」という命題も、言葉があるからこそ伝えられる。〝目を見開かせる〟と言う言葉がなければ、きっと何も伝わらないのだろうから。
語学が全く苦手な自分が言うのもなんだけど、言葉は自らが操れるようになって初めてその本当の意味を知ることになるのだ。だから女にとって生きる上での大前提、女が幸せになる上でのナビゲーター、そのくらいに思っているべきなのかもしれない。本当の意味で、濃厚な人生を生きるために。
美的3月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環 デザイン/最上真千子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。