ゲスト・RIKACOさん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第1話「母とオンナ、ふたりの自分」
その時々で訪れる人生の岐路。女性として、妻として、母として、社会の中のひとりとして、どうにもこうにも答えがでない時、先輩たちからの生きるヒントが役立ちます。憧れの女性とLiLyの対談エッセイ。【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第5回ゲスト・RIKACOさん 】
口コミされるほどの生き様。そのカリスマが放つ“教え”に私たちはついてゆく
「あのね、モデルの先輩がねーー」
「超イケてる先輩が言ってたんだけどねーー」
もう10年以上前から、プライベートでずっとその名を聞き続けてきた。美容であれ食であれ、最有力PRはいつだって“友人からの口コミ”とされているのと同じように、信頼している友人たちからの“生きるセンス”の口コミは私にとっても最重要インプット。
それも、複数の女友達が、別の場面でひとりの女性の名を口にする。
「あのね、RIKACOさんの場合はねーー」
「それはね、RIKACOさん曰くーー」
直接聞いたわけではないにも関わらず、私の胸にはRIKACOさんの的確なアドバイスの矢が2本ほど突き刺さっている。
一つ目の矢は、母としての自分に。
二つ目は、オンナとしての自分に。
母になり、産後のホルモンバランスの変化によって一度は完全に消えたかのように思えた自分の中のオンナが、第二子出産から数年程たつと自然と蘇ってきてしまい、自分の中に生まれた「母とオンナ:対極の顔の共存」に悩みながら歩いた私の30代を、友人づてに聞いたRIKACOさんのリアルな言葉は支えてくれていた。
そして、幸運なことに今回、初めて直接ご本人とお話できる運びとなったので、私は前のめりになって真っ先にそのことを伝えてしまう。
「私の胸に既に刺さっている一つ目の矢は、RIKACOさんの母としての姿勢です。外側からは破天荒な自由人に見えるヒト程、母親である自分を第一優先にする節があると私は思っていて。これは“不良イズム”とも私の中ではつながっているのですが、筋を通すというか、ブレないというか、腹括って覚悟しているというか。RIKACOさんこそ、私の中ではまさにそのド真ん中にいる女性のイメージで。10年程前に、友人から聞いたんですね。仕事としてはギャランティ含めて魅力的だった下着のCM出演オファーを、息子たちが思春期だから、という理由でRIKACOさんが光の速さで断ったというお話を。迷ってすらいなかった、と聞いて衝撃を受けました。私の場合は、思春期の入り口にいる息子がいても、自分の作家活動を優先して頼まれてもいないのに自分の下着姿を官能小説のカバーに使うタイプではあるのですが(苦笑)。ただ、それでも、その徹底した母親業優先の姿勢には共感する部分はいっぱいあって。私自身もプライベートでは母親であることを絶対優先するブレさせない軸で生きているので。仕事におけるその判断は、自分にはできなそうなものだからこそ純粋にめちゃくちゃ凄い!と尊敬したし、RIKACOさんのことがますます好きになったエピソードだったのです」
「あはは! ありがとう。母親業を最優先する、というのは私が妊娠したときにもう決めてしまっていたことだったから、その下着の話は実際にあったとは思うけれど、ただただそれの延長線上のことであって――というのは、息子たちが成人年齢になるまで、もうずっとそうしてきたから」
もち前のサバサバとした明るさでRIKACOさんは笑ってから、そうなるに至った過去に遡りながらサラサラと朗らかに話しはじめてくれた。
「妊娠した当時、ちょうど舞台の稽古中だったの。10代からモデルとして仕事をしてきて、そしてこれは今でも変わっていないことなんだけど、当時から自分のカテゴリーは決めずになんでも挑戦していこうというスタンスでね。舞台には苦手意識があったんだけど、大きな舞台の準主役に抜擢していただいたので、舞台役者としての新しいカテゴリーに挑戦していこう!と思ったところで妊娠したの。両立していくつもりだったのが、ある日稽古帰りのスーパーで急にお腹が痛くなって。病院に行ったら、切迫流産のおそれがあると言われてしまったのね。先生に、こちらでどうするかを決めることはできないのでお身内で話し合って決めてください、と。でも、病院の帰り道でもう私は心が決まっていたのね。絶対に産みたい、と思って。舞台は降りよう、と」
我が子の命との天秤ではあったものの、仕事で迷惑をかけてしまうことも含めてその決断は、RIKACOさんにとっても決して簡単なものではなかったはずで、でもだからこそ、そのときの彼女の決断は一生モノとなった。
「子供を育てることに決めたんだから、これを機に(その先の)自分の優先順位もここで決めてしまったの。仕事は二の次で、家庭と子供たちを第一優先にしていこうって。もうそのときに決めてしまった。私自身、両親が離婚をしていて、ふたりとも商店で忙しくしていたから。もちろんたくさん構ってもらった、とも思うんだけど、それでも自分の幼少期は“幸せだったけれど幸せじゃなかった”みたいな複雑な思いがあったこともあって、我が子たちには寂しい思いをさせたくなかったのね」
その後20年間(子供が成人するまで)の生き方を、第一子妊娠中のその夜に一気に決めてしまったというRIKACOさんのあまりの即決力と潔さは“生きるセンス”に満ちあふれている。
仕事はしないわけではないけど「欲」は出さない。
仕事で私生活に影響は与えない。
稼働時間は子供たちが学校に行っている間のみ。
そう決めてしまって、家庭第一優先が絶対条件。
そして、一度決めたら、
腹をくくって、もう二度と迷わない。
――――「昭和の女、だよね」とRIKACOさんは笑って続ける。
「今の世代の人たちと違う考え方かもしれないし、あくまでこれは私の流れであって押しつけるつもりも全くないのよ。ただ、自分はそうして良かったな、とは思ってる。今、息子たちがインタビューを受ける時に、お母さんも忙しくて子供時代は寂しかったでしょう?なんて聞かれることもあったみたいだけど、いやいや、いっつも家にいましたよ!って答えていて。もちろん、不満だってあったとは思うけどね。でも、子供たちを育てさせてもらえたことは私の人生を大きく変えてくれたから(母親になれたことを)私はとても感謝している。―――と、同時に最近改めて感じているのは、私は“昭和”という時代によって作られた人間だなぁということ」
ずっと第一優先にしてきた育児が息子たちの成長によってひと段落したことで、RIKACOさんは今、まるで第二の自分探しのような時間を過ごすことに夢中になっているという。
どんどんジェンダーレスになってきている今の時代は良い方向に進化してきていると感じつつも、昭和という時代に置き忘れた独特の“良さ”もあるように感じる、と。
「今の世代の人たちはこれを見たらどう思うんだろうって考えながら、自身のルーツである昭和の作品鑑賞に夢中になっていて。きっと、青春時代とはまた違う形で、自分自身をまた改めて探しているんだろうなぁ。――――要は、今の私を作った背景は、何か」
PROFILE
RIKACO:タレント。,66年生まれ。横浜市出身。13歳でスカウトされモデルデビュー。その後、育児をきっかけにオーガニックアドバイザー、ビューティースーパーフードマイスターの資格も取得。フードやアロマを通しメッセージを発信している。YouTubeはこちら。 プロデュースするライフスタイルブランド「LOVE GIVES LOVE」のほかinstagram @rikaco_official も大好評。
LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら。
文/LiLy 撮影/太田隆生 ヘア&メイク/高取篤史(SPEC)(RIKACOさん)、伊藤有香(LiLyさん) スタイリング/鈴木仁美(RIKAKOさん)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。