ゲスト・真矢ミキさん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第4話「生き物の進化と明確なビジョン」
「年齢を重ねるということはどういうこと?」。楽しいことばかりではないし、かといってつらいことばかりでもない。人生の先輩に訊いてみました。「 私たちに生きるヒントを授けてください」と。40代からの人生が輝く"読むサプリ"。 3人目のゲストは、真矢ミキさんです。 【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第3回ゲスト・真矢ミキさん 】
大事なのは、今、自分にとって何を優先すべきか把握する力
「宝塚を引退して、33歳で女優になったんですね。これはもう、ほんとうに図々しいお話です……」
私の想像など及ばないほどに厳しい世界でトップスターになり、伝説とまで呼ばれるミキさんがその後女優になることの一体どこが図々しいのだろう……と目が点になっていた私に、ミキさんは続けた。
「ずっと女をやっていなかった人間が、女優として“女の経験”を人様の前で演じるって、やっぱり図々しいことですよ」
謙虚、ともまた違う。真実に対するストイックさが、またここにも垣間見える。
「20代って、女性としての経験をどんどん重ねていく時期じゃないですか? そのような時期を私は完全に“男役”として生きていたので。
スクリーン越しでみる自分のちょっとした後ろ姿とかにも、出てしまっていたんですよ。あ、私、男になっている!って。だから、そこから44歳で結婚するまでは、三倍速で女性を生きました。いっぱい恋愛をするぞー!って(笑)」
私が出会った頃、50代になったばかりのミキさんには“立ち姿が男だった”という頃の影は既になく、それはもうとても女性的で、しなやかだったことを思い出して私は言った。
「ミキさんのストイックさがあってこそのことではあるけれど、人間は“ここから私は男になる”と決めたら生身の男性よりも男性化できるし、“ここからは女を三倍速で生きる”と決めたら見た目も仕草もどんどん女性的になってくる、となるとマインドセットで見た目のほうはどうにでもなれるという証明のような話でもありますね? 若々しい姿を保つ一番のコツは、メンタルなんじゃないかと私もずっと思っていて……」
「それは、もうほんとうにそうだと思います。動物の生態を見るために、アフリカに数週間行ったことがあるんですけど、豹は、遠くを360度見渡すために、もうね、目がこんなところに(両極に離れて)についていて。キリンの首は有名な話ですし、“生きるためにはこうならなくては”というカタチへと進化していくんですよね。だから、人間もそうだと思います。ただ、(外見が変わるほどの進化をするためには)明確なビジョンが絶対に必要だとは思う!」
現在58歳のミキさんが“人生の本番”だと思うという年齢「80歳」のときの自分の具体的なイメージを聞いてみたら即答だった。
「ベリーショートで、ロングドレスを着たい」
聞いたそばから、未来のミキさんの姿が頭の中にグングンと明確に思い浮かんできてしまって、そのあまりの魅力に一瞬言葉が出なくなってしまった。……。
それこそミキさんの“女になってしまうから恋愛は封印した”という話にも通じるのだが、今回の撮影中に私はミキさんの隣に立っただけでいきなり“女になってしまって”(笑)、スタッフが苦笑するほどふにゃふにゃになってしまった(恥ずかしい)。
宝塚時代の男役トップスターから女優へと転進し、女性的になってもミキさんの軸にあるのは最高にカッコよさで、それはもう、女をとろけさせてしまう媚薬のような魅力がある。背筋を伸ばしただけは決して真似できない圧倒的な姿勢の良さも含めて、それらはやはり宝塚時代に積み上げてきた経験からくるものなのか。
ミキさんから醸し出されている魅力のあまりの非凡さに、私はつい聞いてしまった。
「むしろ、宝塚で身についた所作は、一つずつ外していきたいと(今は)思っているんです。やっぱり、“定型”のものには“その人だけの魅力”は宿らないと思っていて」
この発言そのものにも、私は同じことを感じた。“定番”ではない、その人ならでは哲学こそ魅力的なのだ。
「憧れのあの人になりたい」から「オリジナルな自分になりたい!」
憧れをガソリンに走り出し、学び、研究し、極めた後で、今度は自分自身の魅力を極めていくステージへと人生が移り変わる。その流れこそが、人生の中盤から後半の醍醐味、つまりは「自分の人生の本番」なのかもしれない。
「最近、パーソナルカラー診断というものを初めてやってみたんです」とミキさんが楽しそうに話してくれる。
「前までは、自分が着る服の色くらい自分で決めるー!なんて思っていたんですけどね(笑)。実際にやってみたら、自分で似合うと思っていた色とは真逆の色が自分には合うことが判明したりと、とても面白くて。今日着ているパープルも合うと言われた色なんですけど、新しい自分が生まれてくるみたいで楽しいですよ。リリちゃんも是非! ここぞ!という時にその色を着ると、お相手の度肝を抜けるらしいんです(笑)」
軽やかにそうミキさんは笑ったけれど、鮮やかな紫色に身を包んだミキさんの美貌に度肝を抜かれていたので説得力しかない…。だけど、そこまで美しくても、ミキさんの魅力はやはり内側から醸し出されるものだ。最近一番嬉しかったこととして、ミキさんは愛犬の散歩中に出会った婦人との何気ない会話をあげた。
「まだ暑い夏の日の夕方で。お互い犬を散歩させていて犬同士がじゃれ合うと(飼い主同士も)会話するじゃないですか。お洋服を着ていて(犬は)暑くないかしら?ってご婦人に聞かれて、これは実は涼しい効果がある繊維でできているものなんです、なんていう本当に何気ない会話だったんですけど、私、すごく幸せだったんですね。亡き母と話しているような感じがして、懐かしくてとても嬉しかったんです。別れてからも幸せの余韻が続いていて、一緒に住みませんか? って戻っていって聞きたくなってしまったくらいなの(笑)。それくらい、母と話したいなぁって思っているんでしょうね。だからね、もう高齢になっている私の親世代と子供世代とを繋ぐようなマッチングアプリができてもいいなぁって。今、自分に足りていないもの/欲しいもの(要素)は、ライフステージによってその都度変わるんですよね。だから、今の自分が何を欲しているかきちんと“気づく”というのも大切なことなのかもしれない」
ミキさんのそんな体験談が、ミキさん自身も「大好きな作家さん!」だという吉本ばななさんの言葉と私の中で重なった。
「今は、ちょっとめんどくさいなぁと思うかもしれないけど、お母さんと一緒に旅行にでもいってあげてね。今しかできないことだから」。
未来を生き抜くコツはなんですか?
どうしてそんなに素敵なのですか?
憧れの先輩たちのお話を伺うこの連載をスタートさせた私のモチベーションは“生きることに対する欲望”だった。もちろん、今もそう。だけど、ミキさんとの対談を終えて、改めて気づかされたことがある。それは、「今の自分にとって最も大切なものを見落とさないことの大切さ」。
あまりにもいつも「未来」にばかり向かって走っていると、「今あるもの」を通り過ぎてしまうこともある。
自分自身を幸せにすることこそが一番の親孝行だと、私は信じているところがあるけれど、自分がもう若くないのであれば親はもっと若くない。脳内の“40代からの生き方リスト”に「親との時間を大切にする」を書き入れて太字にして線を引いた。「後回しにはできないところから、手をつける」はマルチタスクな日々の中で大切な“優先順序付け”の鉄板ルール。
「今の自分」にとって何が最も大切か。
その都度、把握しておくこと。
必要なものが明確になったら、
時には三倍速で掴みにいく!!
ーーー真矢ミキさんに教えていただいた最強の生きるヒント。
PROFILE
真矢ミキ:’64生まれ。元宝塚歌劇団花組男役トップスター。退団後は、ドラマ、映画、舞台、情報番組のMCなど幅広い分野で活躍 。’23年NHK大河ドラマ『どうする家康』に大河初出演で、愛娘・瀬名の母で今川家の品格を守る気高き女性、巴役を演じる。
LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.とフロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。小説、エッセイなど著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら。
文/LiLy 撮影/竹内裕二(BALLPARK) ヘア&メイク/平笑美子(真矢さん)、伊藤有香(LiLyさん) スタイリング/佐々木敦子 レイアウト/Jupe design 構成/三井三奈子(本誌)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。