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2016.3.24

【大高博幸さん連載 vol.333】 試写室便り 第112回 『さざなみ』『無伴奏』『ルーム』『見えない目撃者』

(c)「無伴奏」製作委員会
(c)「無伴奏」製作委員会

秘密の匂いがした初めての恋。
あなたを求め続けた。
多感な この恋の行方は――。

直木賞作家・小池真理子の
半自叙伝的同名小説を完全映画化。
せつなく耽美なラブストーリー。

無伴奏
日本/132分/R15+
3.26 公開/配給:アークエンタテインメント
mubanso.com

【STORY】 日本中で学生たちが学生運動を起こす混沌とした時代に 仙台で過ごす多感な女子高校生の響子(成海璃子)。同級生のレイコやジュリーとともに、時代に流されて制服廃止闘争委員会を結成し、学園紛争を行っていた。そんな響子が気がかりな両親は 仕事の都合で東京に引っ越すが、進学校に通う響子は 仙台の叔母のもとで過ごすことになる。
レイコに連れられ、初めてクラシック音楽の流れる喫茶店「無伴奏」へ足を運ぶ響子。そこで偶然にも 渉(池松壮亮)、祐之介(斎藤工)、エマ(遠藤新菜)と出会う。この喫茶店では 好きな音楽をリクエストできるのか、バッヘルベルのカノンをリクエストする渉。響子は 席が隣り合わせになった渉に興味を抱く。
ある日、自分の甘さを痛感し 学生運動から離れた響子は、「無伴奏」で 渉たちと再会する。響子は 渉に逢うたびに強く惹かれていった。時に嫉妬や不安に駆られ、それでも熱い想いを渉に傾けていく。だが、いつしか見えない糸が絡み始め、どうすることもできない衝撃に包まれていく…。( プレスリリースより。一部省略 )

原作は、1969年春から’71年春までの 杜の都・仙台を舞台とした 小池真理子の同名小説(新潮文庫刊)。監督は、『風たちの午後』『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』等で高い評価を得てきた矢崎仁司。

私事ですが、1969年の秋、社会人になって初めて出張した先が仙台で、一週間 宿泊したのが ホテルではなく 旅館。しかも「無伴奏」という喫茶店に 一度 入ったコトもある僕としては、この映画には特別な懐かしさと共に、それとは またベツの 不思議な共感を覚えずにはいられませんでした。画面に表われるダイヤル式の電話( 特に10円玉を投入しながら通話する公衆電話 )、桃の缶詰め、少し反っていてスクラッチノイズも出る LPレコード、さらに当時流行していたエマのメークまでが、あの時代を彷彿させる( ありありと想い出させる )に充分でした。

しかし 本作は、時代が移り変わっても 本質的に変わるコトのない青春期の感情、とりわけ 人を愛する ひたむきな気持ちを描いている点で、注目に値します。

導入部の学園紛争の部分については、矢崎監督も さほど重要ではないと考えていたようで(僕の憶測です)、尺が長い割に 軽く流している印象。この部分が 中盤以降の展開と しっくり噛み合わないコトが、僕に言わせると本作の弱点……。そこは むしろ、響子の親友のレイコ(酒井波湖)が自殺未遂事件を起こすプロセスに置き換えるなど、多少 大胆な脚色を施したほうが 映画としては良かったのではないかと、僕は勝手ながら真面目に考えたりもしました。

重要なのは後半。その展開については「 ネタバレになるので 決して触れないでください 」との お達しが 配給 & 宣伝側から出ているため、実は 紹介が 極めて難しい……。しかし「 せつなく耽美なラブストーリー 」が 主人公たちの心理を中心に 静かながら鮮烈に描写されていて、観客は誰もが 息を潜めて観入るコトになるはずです。

最も素晴らしかったのは、渉役の池松壮亮( いけまつ そうすけ )の演技。昨年の『紙の月』( 通信 256 )での彼にも感心させられましたが、今回は それとは全く異なる役柄を 独得な奥行きのある演技で体現し、絶賛に値します。特に、ある重要な場面の後、ポツリポツリと自分の心情を響子に吐露する場面や、ラスト近くの 海辺の公衆電話ボックス内の場面では、演技者として 内在するものの豊かさを強く感じさせ、僕は圧倒させられました。
響子役の成海璃子( なるみ りこ )も、単に行ったり来たりしていたにすぎない『ストレイヤーズ・クロニクル』( 通信 293 )での彼女とは、別人のような演技を見せています。

映像の美しさも特筆に値します。何度か映し出される竹林の場面は勿論ですが、個人的に目を見張ったのは、買い物帰りの響子とエマが 橋の上でタバコを吸いながら会話する、比較的 長いワンカット( 夕方近くなのか、ふたりは 弱まりかけたような夏の光を 斜め後方から受けていて、橋の下に見える川面は 程良く煌き、陰の部分は ブルーグレイを帯びて見える。どこからか、やゝ弱い蝉の鳴き声が聞こえてくる )でした。

印象に残った台詞は( 前述の、渉が心情を吐露する場面と 海辺の電話ボックスの場面、及び 警察官との絡みがある竹林の場面での台詞を除いて ですが…… )、
1)「一生かゝっても貫き通せるモノって何かしら?」「……人を愛してゆくってコトじゃないかな」( 初デートの川辺の場面での響子と渉の台詞 )。
2)「なぜ私を好きなの?」「好きになるのに 理由がいるの?」( 竹林での初キス直後の響子と渉の台詞 )。

P.S. 惹句に感じる何かがあったなら、ぜひ観てください。これは 多分、あなたのための映画です。見逃さないで。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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