「女性らしさ」でいいの?大事なのは「私らしさ」
「女性ならではの視点だね」「女性管理職はやっぱり気配りができる」「女子力あるね」
ふだん、こんな言葉を使っていませんか。言われた時に、モヤっとした女性もいるかもしれません。褒められているのに、なんか違う…。そのモヤっとを解きほぐすヒントを、3月22日発売の書籍『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(小学館)から探ってみましょう。
育児関連商品の開発談などで「女性ならではの発想」、女性管理職についての記事で「女性特有の気配りができる」などとする表現が目立ちます。一見褒めているようですが、裏を返せば「女性は育児をするもの」「女性は気配りしなければならない」など、「女性ならできて当然」というステレオタイプな考えを助長するものになりえます。
どの言葉も、女性に好意的に見えますが、「女性ならではの視点」とはなんでしょう。女性も男性も共に育児を担う時代。男親がメインとなって育児を担う家庭も多くあります。これをまとめて「女性ならでは」としてしまう背景には、「育児は女性の仕事」という固定観念が見え隠れします。男女ともに仕事をし、家庭にもかかわる時代、「育児・家事=女性」をもとにした言葉は、あまりふさわしくないのではないでしょうか。
「やっぱり女性が管理職になると、細かい気配りをしてくれるよね」も同様です。たしかに、女性は男性よりも「にこにこして」「回りに配慮して」「気を利かせて」と育てられたり、求められてきたりした経験が多いもの。結果的に、いわゆる「気配り」得意な女性が多いかもしれません。
でも、気配りができるのはその人の美徳であって、「女性だから」ではないはず。一人一人をみていくと、おおらかな女性もいれば、繊細な気配りをする男性もいます。「女性だから気配りができる」と言ってしまうと、その場は褒めたつもりでも、その人個人の美徳ではなく、属性について述べただけ。相手にも失礼です。また、言い続けることで、「女性は気配りをしなくてはいけない」という社会的な圧力を強めることに、無意識に加担してしまうことにもなります。
先ほどのジェンダー表現ガイドブックには、こうあります。
相手が「女性ならでは」と語っている場合でも、具体的にどんなことを指すのかまで聞くことが必要ではないでしょうか。たとえば、女性医師が「女性ならではの視点を生かして働きたい」と語った場合は、「女性特有の身体の悩みについて相談しやすい雰囲気をつくり、患者の力になりたい」などと言い換えられます。「女性ならではの商品開発ができた」は「普段の育児の経験が生きた」などと表現できるかもしれません。ステレオタイプな考え方の助長を避けつつ、相手の真意をさらに深く伝えられます。
「女性ならでは」とざっくりした表現ではなく、「この人の美徳は何だろう」とより深く考えることで、さらに相手のことを理解することができる。できれば、そうありたいものです。
一時期女性誌にも踊っていた「女子力」という言葉も、注意が必要かもしれません。「女子力アップ!」などとして商品の広告に使われることもあれば、日常生活で「女子力あるね」とほめられることも。一般的には褒める文脈で「料理や家事が得意」「清潔できちんとしている」などの様子をさして使われることが多いですが、そこに落とし穴がひそんでいます。再びジェンダー表現ガイドブックを引用します。
「女子力」は「女性らしさ」を言い換えたもの。注意が必要です。女性に期待される役割・特性への偏見、女性の価値化を強化しかねないからです。「男子力」という言葉がないのはなぜかを考えれば、そのいびつさが感じられます。
そう、女子力は女性だけに求められる「家事、育児、美しさ」をことさらにとりあげたもの。家事ができることや、美しいこと、おとなしくかわいらしいことを、「女性らしさ」として表現するのはもうやめませんか。
最近はコスメでも、男性やノンバイナリーのモデルを広告に起用するなどジェンダーレスなプロモーションが増えました。本来、化粧や美容は誰が楽しんでもいいはずのものです。
筆者の友人の男性も、「メイクやアクセサリーに興味はあったけど、周囲の目が怖かった。最近広告がジェンダーレスなものになって、手にとりやすくなった」と喜んでいました。女性だって、「女性らしく」なるために化粧をしているわけではなく、「私らしく」「好きな姿に」なるために化粧をしている人も多いはず。ジェンダー平等な表現は、多くの人をエンパワーすることにつながります。
『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(小学館、税込み1650円)では、そのほかにも、身の回りに潜むたくさんのステレオタイプに気づかせてくれる事例を取り上げています。日々モヤっとしている方も、よりよい表現を考えたい方も、ぜひご一読ください。3月22日発売。
文/新聞労連・栗林史子(朝日新聞労組)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。