齋藤薫の馨る女 EX
2019.12.25

日本女性には、本当にマナーがあるのか?【齋藤 薫さん連載 vol.93】

ドレスコードや、色んな場面におけるマナーについてあなたはふさわしい選択や行動が出来ていますか?何が正解なのか悩んでしまうことも多い中、今回は、私たちが身につけるべきマナーについて、薫さんに教えていただきます。
p110-111_%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%88

エレベーターで「開」のボタンを押してくれている人に、あなたは、にこやかにお礼ができるのか?

日本人はマナーが良い……もはや世界的な常識だ。自分たちはマナーがいいと、日本人の多くが自負しているのだろう。確かに海外に行くと、機内、ホテル、公共機関、様々な場所でサービスの落差を感じる。日本はつくづく便利な国だ。でもどこかでふと、日本人は本当にマナーが良いのだろうかと思う場面がある。

スポーツ観戦などで、日本人の観客が掃除までして帰ることは賞賛を浴びているが、国内の試合では、客席にゴミがたくさん落ちている。指定の場所にゴミを捨てない人は山ほどいる。志の高い人も多いが、そうでない人も沢山いる国。一方、電車のホームではきちんと行列を作るとか、横断歩道の信号を必ず守るといったお行儀の良さも驚きを持って伝えられる。確かにみんなルールは守る国。

何かの記事に「日本はエレベーターのドアを誰かが開けてくれている国」と言う記述があった。確かに誰かが「開」のボタンを押してくれてはいるが、よく観察すると、それに対しお礼を言って降りる人はそう多くない。3人にひとり。いや5人にひとり。これが海外だと、どこの国かにもよるが、多くの人がサンキューを言いつつ、小さく微笑みながら出ていく。

多分こういうことなのだろう。日本人は集団行動が得意。集団としてのルールは守るが、その分、個人個人の故意のマナーは疎かになる。スポーツ観戦でも、誰かが持ってきたゴミ袋にゴミを集め始めれば、私も私もと右にならえになるが、他の人がゴミをそのままにして帰れば、あー、それでいいんだと、みなそのまま帰っていく。集団心理が支配する国なのだ。

もっと言うなら、ルールは守れる分、他人へ心を砕くエモーショナルなマナーは疎かになる。人と目が合ったら小さく微笑み挨拶をするのも心のマナーなのだとすれば、欧米ほか、多くの国で出くわす光景だが、日本人はまずしない。もちろんこれは、自分はあなたの敵ではないと伝えるマナー、日本はその分安全な国である裏返しなのは確かだが、微笑み合うのはそれだけで心が温かくなるもの。無表情のエレベーターは殺伐とした空気を作る。一期一会の国なのだから小さな会釈と微笑みくらいは欲しいもの。オリンピック招致の時「日本はお財布が戻ってくる国」とアピールしたが、そこにも少々違和感を感じる。

この間、台湾で落としたお財布が、翌日戻ってきた。しかも電話で調べてくれたホテルのスタッフも、預かってくれていた公園の管理事務所の人たちも、みんな「あって良かった!」と満面の笑顔で心から喜んでくれ、何度も感動させられた。お財布が出てくる国とはこういう国を言うのではないか。日本で落としたら、出てきても笑顔に出会う事はないだろう。日本人は感情を表すのが不得意なだけ、ハグも苦手なだけ。でも、感情を見せないままで本当にいいのだろうか。

一方、政治的には冷え切った日韓関係。でも日本の旅行者に韓国人は温かく、駅で大荷物を持っていれば持ちましょうかと言ってくれる。道を尋ねれば送り届けてくれる。日本人はシャイだから他人にそこまで手厚い親切はできないが、いよいよオリンピックの年。真の日本人が問われるのだろう。自分たちは礼儀正しく行儀が良く、そしてルールを守る、それは確か。でも心のマナーがあるかどうか、それを自らに今一度問いかけたい。

マナーとはあくまで周囲を不快にさせないためのもの。心地よくさせるためのもの。自分が恥をかかないためのものでは無いのだ。でも集団行動的マナーをよく守るのは、ひとりだけ違うことをして恥をかきたくないから。もちろんマナーを知らないと恥をかくが、たとえ知らなくてもその場で周囲を不快にさせない方法を考えて行動すれば、それは絶対にマナーに反しない。そういう心のマナーを急いで身に付けて欲しい。通りで転んだ人に走り寄って助けられるか。お年寄りの重い荷物を持ちましょうかと言えるのか。もっと単純に、公共のパウダールームで後の人のために水が飛び散った洗面台を拭けるのか。改めて自分に問いかけたい。自分は本当にマナーのある女なのか?

美容ジャーナリスト/エッセイスト
齋藤薫
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新刊『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)他、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)、『The コンプレックス 幸せもキレイも欲しい21人の女』(中公文庫)など多数。

『美的』1月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環

この記事をシェアする

facebook Pinterest twitter Pocket

関連記事を読む

あなたにおすすめの記事