大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.8.14

『 タリーと私の秘密の時間 』『 皇帝ペンギン ただいま 』『 大人のためのグリム童話 手をなくした少女 』 試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.460 】

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© 2017 TULLY PRODUCTIONS.LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

がんばりすぎる昼間の私が、
夜に見つけたホントの私。

かつて夢見た<未来>とは違う<今>。
ため息をつく大人たちに 目の覚めるサプライズを贈る、ミステリアスな 人生の リフレッシュ・ムービー!

タリーと私の秘密の時間
アメリカ/ 95 分
8.17 公開/配給:キノフィルムズ
Tully.jp

【 STORY 】 「 わたし、ひとに頼れないの 」―― 仕事に家事に育児と、何ごとも完璧に こなしてきたマーロは、3 人目の子供が生まれて、ついに心が折れてしまう。そんな彼女のもとに、夜だけのベビーシッターとして タリーがやってくる。彼女は タメグチのイマドキ女子なのに、仕事は完璧。マーロの悩みも聞き、見事に解決してくれる。自由奔放なタリーと 不思議な絆を深めていくうちに、マーロも 本来の輝きを取り戻していくのだが、タリーは 何があっても夜明け前に姿を消し、自分の身の上は 決して 語らないのだった――。( 試写招待状より )

映画界きっての美女である シャーリーズ・セロンが、スター女優としては〝 大きなリスク 〟をモノともせずに、本気で主演した ちょっと不思議なヒューマンドラマ。
リスクとは、三人めの子供を出産して 疲労困憊状態にある アラフォーの主婦を演じるために、なんと 体重を 18kg も増やし、マタニティショップに山積みされていそうな 格安風の服を着て登場するコト。そればかりか、おそらくは 充たされない性生活の代替 ( ? ) として、ベテランの現役ジゴロが出演する TV のセックス番組を、ジーッと おとなしく見つめている場面が ( たしか二度 ) あったりもするキャラクターを、平然と、当然のように、役に なりきって演じているのです。
僕は今まで、絶世の美女であるコトばかりが前面に出ている印象の C・セロンには、魅力を感じたコトが一度もなかったのですが、本作での彼女は まるで別人。初めて人間味を感じて、僕は 彼女のファンになりました。

それだけで 観た甲斐があったというモノですが、本作の一番の価値は「 ひとに頼れない 」性格のマーロが、タリーとの間に育んだ「 不思議な絆 」を通じて、自分自身を客観的に見つめ直し、その結果、本来の or それ以上の生気を取り戻すというプロセスにあります。
これ以上は書けませんが、本作は、何事にも 一生懸命に なりすぎる人、ガンバリすぎて キリのない人、自力本願が すぎる人には 絶対オススメ、必見中の必見作です。

タリー役の マッケンジー・デイヴィス、マーロの夫役の ロン・リヴィングストン、マーロの兄役の マーク・デュプラスらも 好人物を揃って好演。たゞし、兄の妻 ( 典型的にアメリカナイズ & 良くも悪くもソフィスティケートされた東洋系の女性 ) のキャラクターは、マーロに対して 実は 嫌味な感覚を発し続けているところに、僕は不快感を覚えました ( というコトは、僕はマーロの味方、という証拠? ) 。

ひとつ、些細な話ながら、タリーが マーロの許に現われる場面が数回あって、その三度めに、彼女の登場の仕方が 毎回 明らかに違うという、奇妙なコトに気づきました。試写を観た後で知ったのですが、それは 意図的な演出だったとのコト…。ウーム、監督の ジェイソン・ライトマン × 脚本の ディアブロ・コディのコンビは、芸が細かい! 皆さんも その辺り、しっかりと観届けながら 楽しんでください。

 

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© BONNE PIOCHE CINEMA – PAPRIKA FILMS – 2016 – Photo : © Daisy Gilardini

12 年の時を経て、再び極寒の南極へ。
誰も観たことのない、驚きと感動の映像叙事詩。

皇帝ペンギン ただいま
フランス/ 85 分
8.25 公開/配給:ハピネット
penguin-tadaima.com

【 STORY 】 南極圏内だけで一生を過ごす 唯一の大型動物、皇帝ペンギン。餌を求めて海中を自由自在に泳ぐ彼らは、ある時 突然、陸へ上がり、列をなして歩き始めます。ゴールは 海から 100km も内陸にある繁殖地〝 オアモック 〟。古来から皇帝ペンギンは ここで生まれ育ち、命を つないできました。
なぜ皇帝ペンギンは〝 世界でもっとも過酷な子育てをする鳥 〟と呼ばれるのでしょう。彼らの子育ては 驚きの連続。産卵を終えた母ペンギンは 卵を父ペンギンに渡し、一路 海へ。父親は 母親が帰るまでの約 120 日間、絶食状態で卵を温めて 孵化したヒナを守ります。若く経験の浅い父親は 抱卵に失敗したり、ヒナが 天敵のオオフルマカモメに襲われることも よく起きます。集団の中で最長老の 40 歳の父親は、子育ての大ベテラン。無事にヒナを 母親に受け渡すことができました。これからの数ヶ月間、両親は 海とオアモックを往復して、食欲旺盛なヒナを育てます。
夏が近づく頃、両親は ヒナに別れを告げて、雪嵐の中に消えていきました。ある日、灰色の羽毛が抜けて まだら模様に変身し始めたヒナたちは、何かに導かれるように 歩き出しました。頼れるのは 自分の本能だけ。厳しい旅の末に 辿り着いたのは……。( プレス資料より。一部省略 )

皇帝ペンギンのカップルが 忍耐と協力の下、命がけで育てたヒナが、成長して 海へと旅立つまでを描いた感動の物語。世界で 2,500万人が観たという大ヒット作『 皇帝ペンギン 』( アカデミー賞®長編ドキュメンタリー賞 受賞作品 ) から 12 年、リュック・ジャケ監督が フランスの南極基地 デュモン・デュルヴィルに再び赴いて完成させた、待望のドキュメンタリーです。

ポッテリした体を揺らして歩く皇帝ペンギンと、フワフワの羽毛に飛行帽を被ったようなルックスの愛らしいヒナ。今回は 最新の デジタル 4K カメラとドローンを導入。南極海では 最深記録となる 水深 70m での撮影にも成功し、狩りをする皇帝ペンギンと 氷海の底に生息する多様な生物の姿を捉えています。フラッシュバック形式を採用した構成も分かりやすく、上映時間 85 分が 短く感じられました。

特に印象的だったのは――、
1 ) 生まれた卵を、母ペンギンが 父ペンギンに預ける場面。20 秒以内に済ませなければ 卵が凍って死んでしまうため、手を持たないペンギンは、足とクチバシを用いて、何とか それを成し遂げます。
2 ) オオフルマカモメに ヒナが襲われる、最もハラハラさせられる場面。一度はカモメに捕らえられたものの 運よく助かったヒナは、集団から離れては 生きていけないコトを、身をもって学びます。
3 ) 海から戻った父ペンギンが、10 歩 進むごとに鳴き声を上げて、大群の中で 見分けがつかない自分の子供を 捜し出す場面。ルックスではなく 鳴き声の特徴で、個体の識別が成されるのです。
4 ) 子育てを終えて 去る日が訪れた母ペンギンが、父ペンギンに 繰り返し 繰り返し お辞儀をする、不思議で 感動的でもある 別れの場面。
5 ) 自立の時を迎えて、見たコトさえない海へと隊列を成して向かった 空腹状態のヒナたちが、3 日も ためらった後、次々と海に泳ぎ出して行くラストシーン。本能の力って 凄いです。

フランスの俳優で 歌手でもある ランベール・ウィルソンのナレーションは、トーンが穏やかで とても耳に心地良い。But、幼いお子様と一緒に観るのであれば、日本語吹き替え版に限るでしょう。

P.S. 子育ての大ベテランである父ペンギンの年齢が、どうして 40 歳だと分かるのか? それは、デュモン・デュルヴィル基地で、生態調査のために、ペンギン 一羽一羽に 標識 ( フリッパーバンド ) を装着しているから。決して 憶測などでは ないんです。

 

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© Les Films Sauvages – 2016

おとぎ話の向こう側へ――

グリム童話を現代の視点から新たに蘇らせた
フランスの傑作アニメーション。

大人のためのグリム童話
手をなくした少女
フランス/ 80 分
8.18 公開/配給:ニューディアー
newdeer.net/girl

【 STORY 】 貧しい生活に疲れた父は 悪魔に騙され、黄金の代わりに 最愛の娘を差し出す契約を交わしてしまう。辛くも生き延びたものの 両腕 ( 正しくは 両手の先 ) を切り落とされた娘は、家を出て放浪する。不思議な精霊の力にも守られた娘は、やがて 一国の王子から求愛を受ける。しかし 悪魔は、用意周到に ふたりの仲を引き裂く。娘は 生後 間もない子どもを連れ、王宮を後にする。娘と悪魔の闘いの結末は? 娘が息子と選んだ未来とは? ( チラシより。一部省略。カッコ内は、大高の加筆 )

アヌシー国際アニメーション映画祭では 審査員賞と最優秀フランス作品賞を、東京アニメアワードフェスティバルの長編アニメーション部門では グランプリを受賞…。〝 本当は恐ろしい 〟グリム童話の隠れた傑作を、独自の解釈と新しい表現方法によって描いた、ある意味、アヴァンギャルドなアニメーションです。
監督の セバスチャン・ローデンバックは〝 クリプトキノグラフィー 〟という作画技法を用い、全篇の作画を 全て ひとりで仕上げたというから驚かされました。ラフに言うと、墨と筆で描いたような線のフレキシブルさに特徴があり、登場人物たちの 途切れのあるアウトラインは、体の動きと表情を通して 100% の形になる…。そこに独得な美しいテイストが感じられます。多層撮影された場面には 全てが透明に見える不思議な美しさもあり、色彩設計や構図の魅力と相まって、ストーリーの展開以上に 技術面の素晴らしさに気を取られる場面が 幾つもありました。

この物語で最も恐ろしかったのは、ヒロインに つきまとう 悪魔でした ( 「 パンを踏んだ娘 」のように、ヒロインにバチが当たる話では ありません ) 。悪魔は 父親を騙したばかりでなく、戦場に赴いた王子とヒロインの間に交わされる手紙を 魔術の力で書き変えて、ふたりの仲を裂こうとするのですが、その辺りが 極めて陰湿 ( But、こういうコトって、私たちの周囲でも 実際にある話では? 手紙ではなくても「 ○○さんが、こう言ってたわよ 」てな 脚色・潤色に始まって、話を捏造してまで 誰かを陥れるコトに情熱を注ぐ 陰湿 極まりない人間を、あなたも何人かは知っているはず or これから知るコトになるのかな? ) 。
しかし、この悪魔の「 汚れを知らない娘には 手を出すコトができない 」という設定は「 吸血鬼ドラキュラ 」の真逆で、何となく単純 かつ毒気が弱く、ミョーに おかしくも感じられました。

ヒロインは、相当に野性的なキャラクター。特に 畑仕事をしながら子供を育てゝいく部分に、気持ちのいゝ大らかさが出ています。また、少し大きくなった子供と 丘の上で排便する場面 ( それは ロングショットで、排泄物は ポツンと 小さな点で表現されている ) には 相当ビックリさせられましたが、グロ趣味的では 全くなく、むしろ 監督の開放的な感性に、僕は 好感を抱きました。

最終的には 侍従の尽力によって誤解も解けて、一風変わったハッピーエンドを迎えます。観客の誰もが 一度は人格を疑って当然の王子が、やはり 誠実な人間であったコトと、彼らの子供が 伸び伸びとした少年に育ったコトを喜びながら、僕は 次の仕事場へ向かったのでした。

P.S. ひとつだけ 欲を言うと、ヒロインの顔を、もう少し美形に描いてほしかったです。特に 鼻すじが とても太く、表情も 美しいとは言いがたい部分が多かった点のみ、勝手ながら 僕は 少々 不満足……。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
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biteki-m@shogakukan.co.jp
( 個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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