健康・ボディケア・リフレッシュニュース
2016.11.22

【大高博幸さん連載 Vol.369】 『 ちょき 』『 マダム・フローレンス! 夢見るふたり 』『 母の残像 』『 ニコラス・ウィントンと 669 人の子どもたち 』 試写室便り No.127

(C)2016「ちょき」フィルムパートナーズ
(C)2016「ちょき」フィルムパートナーズ

ちょきさん、ごめんね、ありがとう。

小さな街の小さな美容室。
盲目の少女と美容師のおじさんの、
ていねいで、いとおしい、小さな恋の話。

ちょき
日本/ 98 分
12.3 公開/配給: SDP
choki-movie.com

【 STORY 】 自然豊かな和歌山市の商店街にある美容室〝 HATANO 〟。レコードとコーヒーが好きな波多野直人 ( 吉沢 悠 ) は美容師を、妻・京子 ( 広澤 草 ) は美容室の二階で書道教室をしていた。7 歳の瀬戸サキは、その書道教室に通っていた問題児だが、京子は サキを自分の娘のように可愛がっていた。直人と京子の間に 子供は いなかった。
時は経ち 十年後、一本の電話が かかってくる。それは 十年前のある事件以来 会っていなかったサキ ( 増田璃子 ) だった。彼女は 視力を完全に失っていた。直人も 最愛の妻・京子を 五年前に亡くしていた。空白の十年間に 何があったのか。サキの想いを知り、直人は ある大きな決意をする……。 ( 試写招待状より )

国内外で高い評価を得た短篇『 転校生 』に続き、『 ゆるせない、逢いたい 』で長篇デビューを果たした金井純一の 脚本・監督作品。物語の舞台である和歌山市内でロケーションされ、和歌山市周辺では 既に先行上映が始まっています。
これは 徹底的に優しい映画で、周囲の人間の 俗っぽい想像や おせっかい or 思いやりが 小さな波紋を それなりに 投げかけたりはするものの、終始 淡々と 穏やかに展開する、上映時間 98 分の小品です。

人間の優しさというのも色々で、周囲には優しいイメージを確立させながら、実は自己本位で冷酷な〝 優しい人 〟も存在する世の中にあって、本作の 波多野直人 ( 髪を ちょきちょきカットするコトから〝 ちょきさん 〟と呼ばれている ) の優しさは 筋金入りです。「 徹底した真の優しさって、生きる上での強い覚悟がないと 生まれないんだなぁ 」と、この映画を観ながら 僕は 改めて気づかされました。
吉沢 悠 演ずる 〝 ちょきさん 〟 の、優しさゆえの 激しくも静かな葛藤。増田璃子 演ずるサキの、少々ワガママな言動と「 ごめんね 」や「 ありがとう 」を素直に言える性格……。この ふたりの やり取りが 感動的です。

特筆に価するのは 撮影の素晴らしさ ( カメラマンは 古屋幸一。照明は 加藤大輝 ) 。明るくピュアな 昼間の場面の透明感と、街の灯が 柔らかく にじんでいる 夜の場面の豊かなニュアンス……。主役ふたりの 手のアップまでもが 驚くほど綺麗に撮られていて、構図は程良くスタイリッシュでした。

生意気ながら 個人的に 少々気になったのは、各カットの長さと カットつなぎのスローさ……。そこに この映画の 独得な空気感・世界観があるのだとは分かっているつもりですが、ほんの少しだけテンポを早めて 95 分以内に収めたなら、さらに いゝ味を 醸し出せたのでは? と感じています。

東京では、12 月 3 日 ( 土 ) から 渋谷 HUMAX シネマ ( 03 – 3462 – 2539 ) にて、期間限定レイトショーの形で公開されます。遅い時間の観賞は 難しい方も いらっしゃるでしょうが、少しでも 観たいと感じたのであれば、多少の無理はしてでも観てください。特に、本当の〝 優しさ 〟を まだ知らずにいる若い皆さんにとっては、それを知るためにだけでも、観る価値のある映画です。

 

 © 2016 Pathé Productions Limited. All Rights Reserved.
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絶世のオンチが、なぜ カーネギーホールを満員に?

メリル・ストリープ × ヒュー・グラントの共演で描く、笑いと感動の実話!

マダム・フローレンス! 夢見るふたり
イギリス/ 111 分
12.1 公開/配給:ギャガ
gaga.ne.jp/florence

【 STORY 】 NY 社交界のトップ、フローレンス ( M・ストリープ ) は 音楽を愛し、ソプラノ歌手になる夢を追い続けている。しかし、彼女の歌唱力には 致命的な欠陥があった。夫のシンクレア ( H・グラント ) は、妻に夢を見続けさせるため、あらゆる手段で奔走する。しかし、フローレンスが カーネギーホールで歌うと言い出して――。果たして コンサートは成功するのか? 今、笑いと涙に包まれた 奇跡の公演の幕があがる! ( 試写招待状より )

絶世のオンチなのに 自分だけ全く気づいていないマダムと、あらゆる手段を講じて 妻に夢を見続けさせる夫……。どこかで聞いたような話? そう、これは フランス映画『 偉大なるマルグリット 』 ( No.328 ) の 原案となった、フローレンス・フォスター・ジェンキンス ( 1868 – 1944 ) × シンクレア・ベイフィールドの愛の物語。しかし 配役はモチロン、脚本が『 偉大なる…… 』とは相当に異なっているため、大筋を知ってはいても 興味深く観るコトができました。

展開は ダイレクトで 脇筋に逸れるコトがなく、マダムは より天真爛漫で 一途な性格に、シンクレアは よりシンプルで 少しも揺るがない性格に描かれています。
撮影は ロンドンとリバプールで行われたそうですが、街並みのシーンをはじめとして、1940 年代の NY の雰囲気が 巧みに再現されています。

ストーリーで ひとつ驚かされたのは、マダムが シンクレアと知り合う何年も前に、水銀やヒ素による治療が必要な 或る病気を患ったという話。その病気が、その後の彼女の人生を大きく左右したと言えるのかも知れません……。

この映画で 最も成功しているのは、マダムの専属伴奏者となる コズメ・マクムーンの喜劇的な人物設定。ピアニストとしての面目とキャリアに傷がつくコトを恐れて 逃げ出そうとしたコズメですが、目が飛び出すほどのギャラの提示に負けて 伴奏係を続けるうちに、友情とも敬愛とも言える感情を マダムに抱くようになっていく……。そのプロセスが サラリと描かれているところも、とても気持ちが良かったです。演ずる サイモン・ヘルバーグは、ヤッシャ・ハイフェッツの親戚のような眼と鼻の持ち主で、演技としては かなりマヌケっぽい 性格描写が 御愛嬌。
脇役で特に良かったのは、マダムの身の回りの世話をする キティ役の女優 ( プレス資料に名前の記載ナシ。『 ブルックリン 』 ( No.346 ) で 底意地の悪い 魔女的な ミス・ケリーを演じていた女優 ) で、ごくフツーの何気ない演技に 奥深い味が出ていました。
些細なコトですが、個人的にガッカリしたのは、カーネギーホールにマダムの歌を聴きに来た コール・ポーター ( 作詞・作曲家 ) 、及び タルラー・バンクヘッド ( 舞台と映画で活躍した 個性的な演技派の美人女優 ) の役に〝 そっくりさん 〟を起用しなかったコト。この点は『 アーティスト 』 ( No.95 ) や『 ミッド・ナイト・イン・パリ 』 ( No.105 ) のサービス精神を 見習うべきだったと思います。

最後に もうひとつ、非常に印象的だったのは、カーネギーホールでのマダムのリサイタル評が掲載されている各紙朝刊の第一面が「 日本海軍の神風特攻隊、我が国の空母を撃沈 」という特報で埋め尽くされていたコト。この映画は そういう時代の物語であったと、如実に思い知らされました。

監督は、『 ヘンダーソン夫人の贈り物 』『 クィーン 』『 あなたを抱きしめる日まで 』 ( No.211 ) 等の スティーヴン・フリアーズ。

 

©MOTLYS – MEMENTO FILMS PRODUCTION – NIMBUS FILMS - ARTE FRANCE CINEMA 2015 All Rights Reserved
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瑞々しい感受性と 繊細かつ豊かな映画的表現を駆使して描かれる、
〝 かつて戦争写真家だった ひとりの女性の死 〟の真相。

母の残像
ノルウェー、フランス、デンマーク、アメリカ 合作/ 109 分
11.26 公開/配給:ミッドシップ
www.hahanozanzou.com

【 STORY 】 著名な戦争写真家であった 母 イザベル ( イザベル・ユペール ) の突然の死から 3 年後、開催されることになった回顧展の準備のため、長男のジョナが 父 ジーンと 引きこもりがちな 弟 コンラッドが暮らす実家に戻ってくる。イザベルの死には 事故なのか 自殺なのかなど 不可解な部分が多くあり、当時 まだ幼かったコンラッドには その真相は隠されていた。久しぶりに集まった彼らは、写真展の準備の過程で イザベルへの それぞれの思いを語るなか、明らかになる 彼女の知られざる一面や秘密に戸惑い、悩む。しかし その結果、妻の、そして母の本当の姿が 彼らの中で共有されるにつれ、その死を徐々に受け入れて、家族の絆を取り戻していくかに見えたが……。 ( 試写招待状より )

家族の喪失という普遍的なテーマを繊細かつ力強く描き、第 68 回 カンヌ国際映画祭で喝采を浴びた 新鋭監督 ヨアキム・トリアー ( 1974年、デンマーク生まれのノルウェー人 ) の初の英語作品。

淀みの中にある暗く重い内容なので、途中で何度か憂鬱な気分に見舞われましたが、光りが差し始めるラストの 約 15 分ほど ( コンラッドが 片想いの相手である少女を家まで送って行く 深夜から夜明けまでの ゆったりとしたシークエンスから、父が運転する車の中で 兄弟が まどろむラストシーンまで ) に、強烈な感動が 解放感を伴って押し寄せてくるという構成。
思惑や複雑さに妨げられて 話せずにいた真相、言い出すタイミングを摑めないまゝの状態が生んでしまう 心の葛藤と 空白的な時間の経過というものについて、想い出させも 考えさせもする一篇というのが 僕の正直な感想……。これは 大人の観客と、大人向けの映画に描かれた 人間の本質に触れたいと考えている若い方々にオススメしたい作品です。

I・ユペールは、ファンデーションを使っている場面では 非常に若々しく、使っていない場面では 当然ながら 年齢相応に老けて見えます。たゞ、後者の場面に於いても特に笑顔が魅力的で、彼女は 70 代・ 80 代になっても 溢れるような魅力をスクリーンに放てる女優だと 確信させてくれました。
全篇を通じて最も惹かれたのは、父親役の ガブリエル・バーンと、コンラッド役の デヴィン・ドルイドの性格描写。特に ふたりが 本心を打ち明けあう ラスト直前のシーンでは、エリア・カザンの名作『 エデンの東 』 ( 1955 ) の父親と 次男 キャル ( ジェームズ・ディーン ) との関係を想い出させもする、肉親の深い情愛に胸を打たれました。

 

ⓒTRIGON PRODUCTION s.r.o. W.I.P.s.r.o. J&T Finance Group,a.s. CZECH TELEVISION SLOVAK TELEVISION 2011
ⓒTRIGON PRODUCTION s.r.o. W.I.P.s.r.o. J&T Finance Group,a.s. CZECH TELEVISION SLOVAK TELEVISION 2011

あなたは 愛と勇気の人、
ニコラス・ウィントンを
知っていますか?

第二次大戦 開戦前夜、ナチスの脅威から数多くの子どもたちの命を救った 奇跡の救出作戦。
その全貌と 感動の再会の物語。

ニコラス・ウィントンと 669 人の子どもたち
チェコ、スロヴァキア 合作/ 101 分
11.26 公開/配給:エデン、ポニーキャニオン
www.nicholaswinton.jp

【 INTRODUCTION 】 1938 年、チェコスロヴァキア。イギリスの ビジネスマン、ニコラス・ウィントンは ナチスによる迫害の危機に さらされていた ユダヤ人の子どもたちを救うため、〈 キンダートランスポート 〉を実行し、チェコにおける その中心人物となる。だが、彼らの行動に世界は冷たく、子どもたちの入国を受け入れたのは 彼の母国だけだった。ニコラスは 里親を探し書類を偽造して、子どもたちを次々と列車で出国させるが、その活動は 1939 年 9 月 1 日の大戦勃発によって 中止を余儀なくされる。彼が救った 669 人の子どもたちは ホロコーストの時代を生き延び、各国で さまざまな職に就き、多くの子孫を生み育てた。その数、約 6,000 人。
だが ニコラスは、家族にさえ それを語ったことは無かった。それから 50 年後のある日、妻 グレタが 屋根裏部屋で一冊のスクラップブックを見つける。そこには 子どもたちの詳細な情報が 記載されていた。それを入手したイギリスのテレビ局 BBC は 子どもたちの行方を追い、生放送の番組内で ニコラスと再会させるサプライズを計画。それは 人々を涙と感動で包む 奇跡の瞬間となった。映画は 再会シーンは もちろん、そこに至るドラマチックな経緯と、一人の人間の愛と善意が 世界中に広がり続けている姿を追っていく。 ( プレスブックより。一部省略 )

彼らを救ったのは、シンドラーや 杉原千畝だけではなかった……。これは〝 英国のシンドラー 〟と呼ばれる ニコラス・ウィントン ( 1909 – 2015 ) と、「 パディントン 」のモデルにもなった子供たちの 真実の物語。俳優が演ずる再現シーンを絡めたドキュメンタリーで、現在までに 世界の国際映画祭で 少なくとも 8 つの賞 ( 最優秀ドキュメンタリー映画賞や観客賞など ) を受賞しています。

ホロコースト関連の映画としては 立ち位置が独得。子供たちを出国させる記録映像等は 撮影できたコト自体に驚かされますが、それ以上に本作を特徴づけているのは、① 生き延びられた子供たちが BBC – TV の働きかけによって、ニコラスと 約 50 年後に 再会を果たしたコト。さらに、② ニコラスから善意のバトンを受け取った形で 大勢の人々が多様な慈善活動に携わり、その輪を大きく広げているという事実にも 重点を置いているコトです。

人道支援やボランティアとは全く無縁の若いディーラーだった ニコラス・ウィントン。彼が子供たちの命を救う活動に尽力した きっかけは、プラハで 難民支援を行っていた友人からの 1 本の 電話でした。その手助けのために向かった先で 彼が目にしたのは、ナチスによって悲惨な状況に追い込まれている ユダヤ人 難民たちの姿……。
間もなく 里親探しを開始した彼の許へ、子供を連れた親たちが殺到。ニコラスは、① プラハから列車で ドイツ領内を通過して、オランダへ向かい、② 船で 英仏海峡を渡って、英国のハリッジ港で下船、③ そこから再び列車に乗り、ロンドンへ到着するという 疎開・救出作戦を敢行。約 4 ヶ月半の間に、669 人のキンダートランスポートに成功しました。
しかし 大戦が勃発し、その日 以降に予定していた 250 人の出国が 不可能になってしまいます。作戦の中止に心を傷め、自責の念に苛まれたニコラスは、その後、669 人の輸送について 口を閉ざし、赤十字に参加して 難民支援活動を続けたのでした。

本作に描かれた一部始終は、今なお 世界中に はびこる差別や迫害、難民や避難民の問題を考えると、決して 歴史上の 過去の話ではないコトが 理解できます。
監督は マテイ・ミナーチュ ( 製作と脚本を兼任 ) 。再現シーンの俳優の演技も、真実そのもののようでした。

P.S. 〝 東洋のシンドラー 〟と呼ばれている杉原千畝 ( 1900 – ’86 ) の名は、日本では ニコラス・ウィントンよりも知られていると思います。彼は 1940 年、当時の外務省の方針に反して、彼自身の人道的見地から、ユダヤ系の 2,139 家族に、横浜港 経由で カナダのバンクーバーへ 逃がすためのビザを、リトアニア ( 彼の当時の勤務地 ) で発行した外交官……。
その彼の足跡を紹介する企画展「 杉原千畝と命のビザ 」が、11 月 27 日 ( 日曜日 ) まで、横浜市歴史博物館にて開催されています。たゞし、間もなく終了となるので、観覧したい方は 急いでください。詳しくは 市歴博、Tel 045 – 912 – 7777へ。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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