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2014.2.27

大高博幸の美的.com通信(209) 『それでも夜は明ける』 『ドン・ジョン』 『ジョバンニの島』 試写室便り Vol.63

それでも
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目覚めたら、奴隷。11年8ヶ月26日間を壮絶に「生きた」、衝撃と感動の実話!!
それでも夜は明ける』 (アメリカ・イギリス合作映画/134分)
3.7 公開。yo-akeru.gaga.ne.jp

【STORY】  1841年、ニューヨーク。家族と幸せな日々を送っていたバイオリン奏者ソロモン(キウェテル・イジョフォー)は、ある日 突然 誘拐され、奴隷にされる。彼を待ち受けていたのは、白人らによる、目を疑うような差別、虐待、そして“人間の尊厳”を失った数多の奴隷たち。家族と再び会うために彼が生き抜いた11年8ヶ月と26日間の真実とは――。 (試写招待状より)

映画賞レースの前哨戦とも言われているゴールデン・グローブ賞と PGA(全米製作者組合)賞をはじめ、2月17日現在で 39の作品賞を受賞、アカデミー賞では9部門にノミネートされている大注目作です。

非常に圧倒的な充実した内容で、語り口は冷静かつダイレクト。約12年間の物語というと年代を追う構成・展開が常套的に成されますが、本作には その種の区切りがなく、3年程の話のようにも受け取れる感があります。また、感傷に陥る要素を排除し、現実を容赦なく表現し伝えようという作り手の意図も感じられました。おそらく そのため、酷い場面が次々と映し出されるにも拘らず、観る側は それを直視せざるを得なくなる…。涙を誘う気など一切ない語り口のため、ラストシーンでソロモンの眼から大粒の涙が溢れ出す瞬間まで、観る側も泣いてなど いられないのです。

本作はアメリカの歴史の一端を描いた作品です。しかし、奴隷制度という“大義名分”を得た人間が、同じ人間に対して どれほど非人間的な行動を取れるのかを暴露すると同時に、「必ず夜は明ける」と信じ続けたソロモンの希望の光が、絶望の暗闇に打ち勝つ奇跡を観る者に体感させる…、そこにこそ、この映画の真の価値があると思います。

以下は蛇足かもしれませんが、本作には白人側の人間性を問う描写が、相当多く含まれていると僕は感じました。
まず、ソロモンの最初の“所有者”となる大農園主のフォード(ベネディクト・カンバーバッチ)は、当時の人間としては非常に まともと言うべき、知性・感性ともに豊かな人物。彼はソロモンの長所を認めて大切に扱いますが、白人の大工のジョン(ポール・ダノ)とソロモンとの摩擦の激化を阻止するため、及び借金返済の手段として、ソロモンを綿花農場主のエップス(マイケル・ファスベンダー)へ売り渡すコトになります。そこでフォードがソロモンに言う言葉、「お前は何をさせても誰よりも優秀だ。だが、それが お前にとって 災いの種になるような気がしてならない」。この場面は比較的目立たない部分でしたが、フォードの この台詞と共に僕は忘れるコトができないでしょう。
大工のジョンと、ソロモンの二番めの所有者となるエップスは、それなりに恵まれた立場にありながら、決して充たされるコトのない彼ら自身の心のために、永遠に不幸を引きずる可能性が高い哀れな人物。また、ソロモンを泥酔させて奴隷船に売り飛ばした興行師らは、地獄の底へ落ちるしかありません。
そして、登場場面は少ないのですが、奴隷制度撤廃提唱者でもあるカナダ人労働者のバス(ブラッド・ピット)。彼はソロモンに“夜明け”への橋渡し役を果たすコトになる貴重な人物。

アカデミー賞を数多く獲得してほしい作品ですが、それ以上に ひとりでも多くの皆さんに映画館で観ていたゞきたいです。残酷な場面は何度も出てきますが(映倫指定、PG12)、スティーヴ・マックィーン監督による演出は少しもサディスティックではなく、逆に究極的な愛に溢れています。

 

ドンジョンスーパープレイボーイのジョン。探し物は、愛。
ドン・ジョン』 (アメリカ映画/90分)
3.15 公開。donjon-movie.jp

【STORY】  鍛えた身体と整ったルックスのパーフェクト男ジョン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。夜毎 違う美女を“お持ち帰り”するが イマイチ満足できず、日課のポルノ観賞が やめられない。そんなジョンに 二つの出会い(スカーレット ・ヨハンソン、ジュリアン・ムーア)が訪れる…。 (宣伝用チラシより)

子役時代に『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)で認められ、『(500)日のサマー』(2009)で若手スターとして注目されたジョセフ・ゴードン=レヴィットが、監督・脚本・主演を務めた一種のラヴ・コメディ。彼にとって本作は、記念すべき監督&脚本第一作となりました。

清潔で繊細で草食動物的なイメージが強かった彼が、筋肉質の肉食動物的な男を演じているというだけで もう面白い。ちょっと無理した感もなくはありませんが、彼のガンバリは大成功。『50/50 フィフティ・フィフティ』(11)が良かった割に、『リンカーン』(12)では影が薄かった彼…。本作ではスター俳優としてのスケールを ひとまわり大きくした印象で、「今後はセンの太い役も難なく こなして行けそう」って ところです。

“ドン・ジョン”とは、ジョセフが演ずるジョン・マテーロ Jr.のニックネームで、稀代のプレイボーイとして名高い“ドン・ファン”をモジったモノと推測。彼はスカーレット・ヨハンソン演ずるバーバラ(恋に恋するゴージャス系美女)だって簡単にモノにできるというのに、実はポルノを観ながら自分で――のほうが断然好き。要するに妄想(?)第一で快感を追求する性向の持ち主。自分で――のシーンが冒頭から何回も映し出されますが、コレをジョセフが演ずると下品にならないから立派です。
対してバーバラ役のヨハンソンは、ガムをクチャクチャしているシーンを筆頭として、下品さが身についている感じ。
もうひとりの重要な人物、ジュリアン・ムーア演ずるエスターに、「セックスする時は相手に埋没しなくては。一方的ではダメなのよ」と教えられる辺りから、ドン・ジョンは本物の男になって行きます。このJ・ムーアに関しては、「軽くでいいから まつげの隙間をアイライナーで埋めてほしい」と、僕は彼女が登場する度に考えてしまいました。彼女自身の意志で、敢えて そうしなかったのだろうとは想うのですが…。

5~6度 繰り返されるドン・ジョンの教会での懺悔シーンは、台詞が大爆笑を呼びそう。But、映画ならではの繰り返しそのものの面白さが もっと出ていたならと、僕は少し惜しい気もしました。その辺りが、監督・脚本家としてのジョセフの 今後の課題かもしれません。

 

© JAME
© JAME

カンタ、日本に帰ろう。
心揺さぶる実話をもとにした感動の物語。
ジョバンニの島』 (日本映画/約100分)
2.22より公開中。www.giovannimovie.com

【STORY】  1945年、自然豊かな色丹島。父や祖父と楽しく暮らす、10歳の純平と7歳になる弟の寛太。しかし――敗戦と共に穏やかな日々は終わりを告げる。ソ連軍が島を占拠し、島の人々の住み家は奪われる。それでも次第に心を開き合う、両国の子どもたち。そして純平は、あるロシア人少女・ターニャに淡い恋心を抱く。だが、島の防衛隊長である父はシベリアの収容所に送られ、兄弟は極寒の地、樺太へ――。寒さと飢えに苦しみながらも、兄弟は父との再会を想い続ける。 (プレスブックより)

第2次世界大戦の“終結後”に、このような出来事があったコトを、僕は ほとんど知りませんでした。
この実話は当初、実写映画として企画されたそうですが、その可能性を探る過程で幾つかの難問に直面し、結果的にアニメーション映画として製作された とのコトです。

画面は色彩豊かで、色丹島の夏から初秋の場面は明るく澄み、樺太の雪の夜の場面は明暗のコントラストが美しい。さらに1945年(昭和20年)の場面と 56年後(平成13年)の場面とで画調を変える等々、独自の計算と工夫が施されていました。また、アニメならではの幻想シーンが、このドラマに無邪気な夢の要素を加えています。

純平と寛太の名は、亡き母の愛読書だった宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するジョバンニとカンパネラの名から取られていて、題名にある“ジョバンニ”は 純平を意味していると解釈できそう。
この兄弟の愛らしさは想像以上で、声の出演者である ふたりの子役:純平役の横山幸汰君と寛太役の谷合純矢君の台詞まわしが、キャラクターの純真さ・ひたむきさを一段と引き立てゝいて素晴らしいと思いました。大人の声優が子供の声を作って演じていたとしたら、ここまで しっくりとは行かなかったはずです。

胸が震えたり締めつけられたりする場面が幾つもあり、僕の席の周囲だけでも、涙を拭き続ける年配の紳士や若い女性ジャーナリストの姿が目につきました。しかし、これから観る皆さんのために、それには触れずにおきますね。
たゞ、僕が少々物足りなく感じたのは、兄弟が父親に会いたい一心で雪原を歩き続ける場面でした。命を危険にさらす極寒の地の厳しさが、実写映画のようには強烈に伝わってこなかったのです。それはアニメの長所とも言えるコトですが、僕は『ひまわり』や『ドクトル・ジバゴ』や『人間の条件・完結篇』等での、凍てつく雪原のイメージを想い浮かべ、重ね合わせながら観ていました。10歳と7歳の子供にとって、あの状況が如何に厳しいモノだったのか、皆さんには想像力で補いながら観てほしいと思っています。

声優として、子役ふたりの他に、市村正親(父親役)、仲間由紀恵(先生役)、ユースケ・サンタマリア(叔父役)、犬塚弘(村長役)、八千草 薫(現在の先生役)、仲代達矢(現在の純平役)、そして歌手の北島三郎(祖父役)らが出演しています。

P.S. 次回の試写室便りは 3月12日頃、『あなたを抱きしめる日まで』 『ワン チャンス』 『ランナウェイ・ブルース』についてレポートする予定です。では!

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴47年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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