パルミチン酸レチノール|化粧品としての効果は?【美容成分大全】
パルミチン酸レチノールは、不安定なレチノールの安定性を高めたレチノール誘導体です。皮膚の中に吸収されるとパルミチン酸が外れてレチノール(ビタミンA)として働きます。「肌荒れ防止」の有効成分として認められています。日本化粧品検定協会が美容成分をくわしく解説する【美容成分大全】。成分を正しく理解して、コスメ選びの参考に!
プロフィール
成分名 | パルミチン酸レチノール |
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表示名称 | パルミチン酸レチノール(医薬部外品の表示名称:パルミチン酸レチノール) |
主な配合アイテム | スキンケア、メイクアップ |
成分のはたらき | 細胞の増殖促進、メラニンの排出促進、表皮ヒアルロン酸の産生促進、真皮成分の産生促進、皮脂分泌抑制 |
医薬部外品としての効能効果 | 肌荒れ防止 |
どんな「効果・働き」があるの?
- 肌荒れを改善する
- くすみを改善する
- シワを改善する
- ニキビや毛穴をケアする
肌荒れを改善する
細胞の増殖促進
細胞を活性化して増殖を促し、ターンオーバーを促進して肌荒れを改善します。
くすみを改善する
メラニンの排出促進
ターンオーバーの促進により、メラニンの排出を促すこともできます。これにより、くすみを改善します。また、メラニンの蓄積によるシミに対する効果も期待できます。
シワを改善する
表皮ヒアルロン酸の産生促進
ヒアルロン酸の多くは、真皮でコラーゲン線維の間を埋める基質を構成しており、肌の柔軟性や弾力を担っています。しかし、ヒアルロン酸は真皮だけに存在するわけではなく表皮にも存在し、表皮の水分を保つ役割をしています。パルミチン酸レチノールは、加齢にともない減少する表皮ヒアルロン酸の産生を促進することで、表皮の水分量を増加させて肌に柔軟性を与えます。これにより、シワが改善します。
真皮成分の産生促進
真皮内にある、肌の弾力を保つ成分であるコラーゲン線維・エラスチン線維の産生を促進することで、深いシワを改善します。
ニキビや毛穴をケアする
皮脂分泌抑制
過剰な皮脂分泌を抑制する効果で、ニキビを予防し、毛穴の開きを改善します。
美容賢者からの「アドバイス」
レチノール誘導体の中では、刺激が少なく安定性も高い
レチノールは熱、光などにとても弱い性質のため、パルミチン酸を結合させて安定化させたのが「パルミチン酸レチノール」です。レチノール誘導体の中では比較的皮膚への刺激が少なく、安定性も高いとされ、レチノールの誘導体の中で最も広く使用されています。油性成分なので、主にクリームや乳液、乳化タイプの美容液に配合されます。
「歴史・由来」その他の雑学
レチノールは、通常「ビタミンA」とよばれるビタミンの一種です。ビタミンAには数種類あり、その仲間は基本的な化学構造は同じですが、“レチノール”は「アルコール型」、皮膚科などで使用される“トレチノイン”は「カルボン酸型」と呼ばれ、構造の一部が異なります。
ビタミンAは「粘膜と目のビタミン」ともいわれ、摂取することで粘膜や皮膚を丈夫にする働きがあります。日本人はビタミンAが不足気味といわれているので、食事からも積極的に摂ることが望ましいです。食品では、うなぎ、レバー、卵などに多く含まれています。
しかし、“油溶性”であるビタミンAは体内に蓄積しやすく、多く摂取しすぎると過剰症の心配がありますので、“β-カロチン”での摂取だとその心配も抑えられます。β-カロチンはビタミンAの前駆体であり、摂取すると小腸上皮細胞でレチノールに変換されるので、β-カロチンが多く含まれる緑黄色野菜などで補うのもおすすめです。
歴史
1915年、E.V.McCollumにより、ネズミの成長増殖に不可欠である未知の栄養素として発見。1922年、J.C.Drummondがその中の脂溶性物質の一つを「ビタミンA(レチノール)」と呼びました。1931年、P.C.Karrerにより化学構造が明らかにされ、さらに1946~1947年にかけて、スイスのロシュ社が工業的に生産可能な合成法を開発しました。
ビタミンA(レチノール)は、健康な皮膚や粘膜を作る働きがあることが知られていましたが、シワ改善効果が発見されたのは、1971年頃です。ニキビ治療のためのレチンAクリームがFDA(アメリカ食品医薬品局)の承認を得た後、この治療を受けた患者が傷とともにシワも消えていたことから、シワ改善効果があるのではないかと研究が始まりました。
パルミチン酸レチノールは、古くから一般化粧品にシワの改善を期待して使用されていました。しかし、今のように医薬部外品に対して「シワ改善」の効能効果が認められていなかったため、医薬部外品では「肌荒れ防止」の有効成分として承認を受け、使用されています。
主な原料の由来
合成
医薬品やサプリメントには?
パルミチン酸レチノールは、医薬品においてはビタミンA欠乏症やその予防を目的に使用されます。
食品においては、ビタミンA脂肪酸エステルとして栄養補助を目的に栄養機能食品などに使用されます。
栄養機能食品に配合した場合、「ビタミンAは、夜間の視力の維持を助ける栄養素です。」、「ビタミンAは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。」と表示することができます。
注意事項
油溶性のビタミンであるレチノールは体内に蓄積しやすいため、過剰に使用しないよう注意が必要です。栄養機能食品においては、「妊娠3か月以内又は妊娠を希望する女性は過剰摂取にならないよう注意してください。」と注意喚起表示がされています。
<引用元>
Tetrahedron, 72(13), 1645-1652 (2016)
日光ケミカルズ株式会社他, 新化粧品ハンドブック, 2006, p.413-415
鈴木一成, 化粧品成分用語事典2012, 中央書院, 2012, p.377
宇山侊男他, 化粧品成分ガイド 第7版, フレグランスジャーナル社, 2020, p.136
小西さやか, 知れば知るほどキレイになれる!美容成分キャラ図鑑, 西東社, 2019, p.86-89
医薬部外品原料規格 2021
エーザイ株式会社:チョコラA錠1万単位, インタビューフォーム
日本ビタミン学会 Webサイト (ビタミンQ&A)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
日本化粧品検定協会代表理事、日本薬科大学客員准教授、北海道文教大学客員教授、東京農業大学食香粧化学科客員准教授、各種協会の顧問、学会幹事を歴任。化粧品開発者として科学的視点から美容、コスメを評価できる専門家「コスメコンシェルジュ」。最短最適な美容で無駄を省く「時短美容家」としても活躍中。著書は『美容成分キャラ図鑑(西東社)』など13冊、累計56万部を超える。