美的HEN
スキンケアニュース
2024.10.28

なぜ男性は自慢話や武勇伝を語ってしまうのか【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.14】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

説教と昔話と自慢話

私が苦手なもののひとつに、過去の自慢話、武勇伝を誇らしげに語る中年男性があります。自分自身がそうなってしまわないよう日々注意しながら暮らしていますが、自慢話を得意とする中年男性に共通するのは、聞き手の女性が「わーすごい」と感心するだろう、という妙な自信を持っているところです。あの根拠のない自信は何なのでしょうか。スヌープ・ドッグがステージに上がってくるときみたいな強めの自信を感じます。タレントの高田純次氏は「年を取ってやっちゃいけないのは、説教と昔話と自慢話」と語っていましたが、こうした節度は大切かと思いました。一方、女性の立場からすれば、歳上の男性に過去の栄光を語られたら、どれほど退屈でも一応は聞いているふりをしなくてはならないし、リアクションに困ったとしても何かしら言わなくてはならない。こうした際に女性が男性の話に感心しているような反応をするのは、ある種の礼儀、義務感、あるいは男性を怒らせないための配慮でしかなく、よく聞けば「わーすごい」は感情ゼロの棒読みだったりするのですが、そのあたりのニュアンスが男性側にうまく伝わらないケースは多いと思います。

なぜこのように噛み合っていない事態が起こるのでしょうか。最近学んだことなのですが、どうやら男性は、自分に「資格がある」と思い込んでしまっているようなのです。自分の武勇伝に、女性は感心するだろう。何も言わなくても、女性は自分を心配し、気を遣うだろう。放っておいても、家事をしてくれるだろう。女性の容姿を好き勝手に品評しても許されるだろう。なぜなら自分には、その「資格がある」から……。何だかメチャクチャな話ですね。そんな資格は、ツチノコや雪男くらい存在しないのですが、男性はなぜか「自分には資格がある」と誤解してしまいます。アメリカの大学教授ケイト・マンの著書『エンタイトルド 男性の無自覚な資格意識はいかにして女性を傷つけるか』(人文書院)では、男性が抱く根拠のない「資格意識(エンタイトルド)」の感覚が女性を苦しめる理由だと論じられています。これ、怖いですね。とても有意義な本なのですが、男性である私は、読みながら何度も頭を抱えてしまいました。この本に書かれた「男性の無自覚な資格意識」を読んで何も感じない男性は、かなり鈍感ではないでしょうか。女性アイドルの見た目をあれこれ品評する男性ファンは、「自分ごときが人の容姿をジャッジできる立場なのだろうか」などと考えたりはしません。こうしたいびつさは、当連載のvol.12(女性は「見られる側」、男性は「見る側」?)で考えた通りです。

家事をせず遊びに出かけてしまう夫

こうした「資格意識」がよく表れる現象のひとつに、夫婦における家事の分担があります。『エンタイトルド』で紹介されているケースでは、結婚している女性が、自分の夫を評してこう言っています。「トム(夫)は、私が経営するホテルのお客さんみたいなのだ」。この文章を読んだとき、ちょっと冷や汗が出ました。わー、ごめんなさい! 私は結婚していないのですが、もしパートナーがいたら、この夫みたいに無神経な態度を取ってしまいそうな自分が想像できました。自分の家を、帰宅すればハウスキーピングと清掃が済んでいるホテルの一室のように思っている男性。同様に、夫が家事をしてくれないという不満はSNSなどでもよく目にします。家事を負担する女性の側は、確実にストレスが蓄積していくのですが、夫はといえば「友だちと自転車で走ってくるね~!」と元気いっぱい遊びに出かけてしまうのだそうです。「長時間労働の父親には、より多く育児をしてくれる妻がいるが、長時間労働の母親には、より多くの睡眠時間を取り、テレビを視聴する夫がいる」。夫の自転車をレンチでバラバラにしたい気持ちになりました。家事してよ! かかる不公平な状況の原因として、「男性には、女性のケア労働を享受する資格がある」と考える男性の傲慢さがあるのではないでしょうか。 

こうした状況を受け、ケイト・マンは「あなたが常に割れたクラッカーを食べなくてもいい」と書いています。この言葉には胸を打たれました。女性があらゆるものごとをフォローしなくてもよい。自分の都合や楽しみをあきらめてまで、周囲を優先させなくてもいい。まずは男性の資格意識をどうにかしてなくし、フェアにものごとを分担する気持ちがほしいと彼女は訴えています。こうした不平等の一例として最近見聞きした例でいうと、結婚して子どもを産んだ女性タレントが、SNSでどこかへ遊びに出かけた投稿をすると、すぐに「子どもの世話はどうしたんですか」とコメントがつけられる状況があると思います。遊びくらい行かせてよ。一方、子どものいる男性タレントにそんなコメントはやってきません。つまりは多くの人が、男性の資格意識(ケア労働は女性がするべき)を前提に役割分担を考えてしまっているのです。世の中がそのような考え方に支配されてしまっていて、抜け出すのが難しい。これはずいぶん根が深い問題かもしれません。

 スキンケアする時間があるって嬉しい

これほどに家事を負担し、つねにあらゆるものごとに注意を払って、日々の暮らしを成り立たせている女性は、スキンケアをする時間もなかなか取れないのだろうなと思います。ゆっくりスキンケアする時間が取れる中年男性の私は、それを当たり前とは思わずに感謝し、まだ私のなかにも確実に残っているだろう、やっかいな「資格意識」を取り外すように心がけたいと感じました。スキンケアを楽しむ時間が持てることをよろこびながら、今月のアイテム紹介です。9月に発売されたばかりの美容液、資生堂の「エリクシール ザ セラム aa」は、発売直後から話題になった大人気の製品です。テレビでも石田ゆり子さんのコマーシャルが流れるなど、資生堂が本腰を入れて発表した自信作であることがうかがえます。実際に使ってみましたが、肌の感触がぐっと柔らかくなる優しい使い心地に驚きました。香りもステキですね。使用後、肌のハリが出たように感じます。今年新発売のスキンケア製品は数多くありますが、「エリクシール ザ セラム aa」は台風の目になりそうな気がします。

「資格意識」という考え方を用いて世の中を眺めていると、意外にいろいろなことがわかってくるような気がします。どうすれば、この根拠のない「資格意識」はなくなるのでしょうか。世の中の仕組みに、こうした考え方が埋め込まれているとすれば、人びとの考え方を変えるのはかんたんではないかもしれません。そんな思い込みが、男性に自慢話や武勇伝を語らせてしまうのかもしれません。そうすると、多くの男性が不機嫌になってしまう原因は、「自分はもっとよく扱ってもらえる資格があるのに、存在が軽視されている!」という、ほとんど八つ当たりみたいな「資格意識」のせいなのかもしれないと感じました。そんな風にイライラしている男性には、上質な美容液でも使って心を落ち着けてくださいと伝えたいですね。

 

 

伊藤 聡(いとう・そう)
会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

イラスト/green K

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

この記事をシェアする

facebook Pinterest twitter

関連記事を読む

あなたにおすすめの記事