女性は「見られる側」、男性は「見る側」?【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.12】
こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。
「劣化」って言うのやめませんか
SNSなどを見ていて、よくない言葉だと思うもののひとつに「劣化」があります。主に女性タレントやアイドルなどの容姿を評して使われるのですが、どうにも上から目線で品がなく、人を暗い気持ちにさせる言葉ですよね。「シンデレラ」の義姉だって、そこまで意地悪ではなかったと思います。人間、生きているわけですから、歳だって取るし、容姿も変化していくに決まっています。そんなに世知辛いことを言われたら、生きていく元気がなくなりそうです。私の印象では「劣化」を言う人の多くは男性なのですが、女性の容姿について、男性が好き勝手に品評するよくない傾向は現在もなくなっていません。しかし、この言葉について考えてみると、意外にいろいろなことがわかるような気がします。
なぜ「劣化」が人をイヤな気持ちにさせるかといえば、どこか一方的に品評されているような感じがするからではないでしょうか。道を歩いていたら、知らない通行人から「アイツは30点だな」と採点されたような困惑があります。つまりは男性のなかに、自分は「見る側」「採点する側」であるという認識がなければ、こうした言葉は出てこないはずなのです。多くの男性は、観客席から女性を一方的に見ながら、好き勝手に品評していいという間違った意識を持ってしまいがちです。私がこの仕組みに気づいたのは、グレイソン・ペリーの『男らしさの終焉』(フィルムアート社)という本を読んだのがきっかけでした。著者のグレイソン・ペリーはおしゃれにとても気を遣っている男性なのですが、彼は男性の一般的な服装についてこんなことを書いていました。
「服は他人の注意をコントロールする手段である。だから服にお金をかけて、見られたい姿になる。しかし、多くの男性は、どう見られたいか考えていない。男の子が外見を褒められることはあまりない。自分は見る側の人間だと小さいうちに学ぶのだ」
この短い一節を読んだとき、ハッと目が覚めたような感覚になりました。「自分は見る側の人間だと小さいうちに学ぶ」という言葉が、長らく私の抱いていた疑問に答えてくれたような気がしたのです。多くの男性は、自分が見られる存在であるとうまく想像できない。他人の容姿や身体を一方的に品評してしまうのは、自分が「見る側」だと子どもの頃から刷り込まれてしまっているからだという説明に納得したのです。自分自身を振り返っても、「見られる存在」であると意識したことはなかったかもしれません。私はどう見られたいと考えているのでしょうか。この視点に胸を打たれ、私はさっそく自著『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』(平凡社)に取り入れました。自分は「見る側」の人間だという間違った思い込みを捨てよう、と男性読者へ伝えたかったのです。
「見られる」側の体験としての美容
美容は、こうした思い込みを取り除くためにとても有効なツールだと思います。男性に「見られる側」の体験をしてもらう有効な手段だからです。スキンケアをして肌のうるおいが保つこと。日傘や日焼け止めを使って紫外線を防ぐこと。こうした行動のひとつひとつが、男性に「見られる身体」としての意識をもたらしていきます。自分は決して「見る側」「採点する側」ではない。美容に接してみて「見られるってこんな感じか……」とようやくわかりました。自分だけが見られていないなんてことは、あり得ないんです。あなたの容姿や身体も、女性からは見えているし、見られています。そうして、美容の楽しさや、肌の調子を保つことの難しさを知れば、「劣化」なんて言葉は使えなくなるはずです。肌をキレイにするって結構たいへんなんです。
「見られること」の体験は、美容であればメイクなのですが、そこまで本格的なメイクをしなくとも、肌の質感を少し変化させるといった経験はできます。もっともかんたんで効果が実感できるのは、化粧下地やBBクリームといった製品を使って、肌の色合いを変えてみること。男性でも気軽にトライできます。先に紹介したグレイソン・ペリーは、男性のファッションについてこんなことを言っていました。「服を買うこと、つまり服が表す新たな役柄を買うことは、男とは正統であり、自然のままに生きていて、自分を曲げないという、彼らが知らぬ間に抱いてしまっている考えに反するのである」。これはメイクにも同じことが言えるでしょう。多くの男性にとってメイクとは「自分を曲げる」ことのように感じられるかもしれませんが、そんなこだわりは捨てて、丸の内線の路線図くらい曲げてほしいなと思っています。
ちょっと見た目を変化させてみよう
アイテム紹介にうつりましょう。MAKE UP FORVEVER の「ステップ1 プライマー ポアミニマライザー」は、毛穴を目立たなくする化粧下地。とにかく毛穴が気になっていた私は、この製品を教えてもらって、気になる部分をうまく隠してしまう方法を学びました。この製品はとにかくカバーする機能がすごいのです。普段はスキンケアで肌質を改善しつつ、人と会うときには下地で隠す、というのはお勧めの美容法です。「都合が悪いことは隠蔽」という姿勢を、私はこのアイテムで身につけました。同じく化粧下地では、9月6日に新しく発売されるSUQQUの「ザ・プライマー」もよかったです。メーカーよりいただいたサンプルを使用したのですが、使ってみてびっくりの明るい肌質が得られました。これひとつ使用して友人と会いに行ったのですが、ずっと楽しい気分で過ごせましたよ。また花王の「SOFINA iP スキンケアUV 01 乾燥しがちな肌」は、美容液と合体した日焼け止めで、この季節には欠かせないアイテムです。うるおいを保ちつつ、日差しから肌を守ってくれる感覚が好きで、愛用しています。これもまた、お肌の質感をいい方向に変えてくれるアイテムです。
私にとって美容の大きな学びは、自分が「見る側」であるという思い込みの不自然さに気づき、人を容姿でジャッジすることを止めるプロセスではなかったかと感じています。おそらく多くの男性が、自分が「見る側」であることを当然だと思い込んでしまっていて、そのことが「劣化」といった言葉に表れてしまっているような気がするのです。それではいけません。お互いの人柄や個性を大事にできる関係性が作るためにも、美容ができることはたくさんあるのではないでしょうか。
イラスト/green K
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