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スキンケアニュース
2025.6.28

女性を本当に好きになってはいけない?【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.22】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

余計なアドバイスをしてくる先輩 

きっと多くの男性が体験しているはずなのですが、いかにも事情通といった雰囲気の先輩が、間違った恋愛アドバイスをしてくることがよくあります。いちばん多かったのは20代でした。たとえば「女性に優しくしすぎるとフラれてしまう」「女性には冷たく接するくらいがちょうどいい」といった説を、特別な秘密を伝授する感じで、あるいは少年ジャンプを発売日より早く買えるお店をこっそり教えるときの感じで伝えてくるのです。こうした会話は女性のいない場所で行われるのですが、まだ経験の足りなかった20代の私は、かかる指南を信じ込んでよくない影響を受けた気がします。彼らは、自分こそは人生のあらゆる辛酸をなめてきた先輩である、みたいな神妙な顔をしながらこう言うのでした。「いいか、オンナと付き合うんなら『オマエとは付き合ってやってるんだ、いつ別れたってこっちは痛くもかゆくもない』という態度を取らないとダメだぞ。相手が自分を格下だと思うようになったら終わりだからな」。当時の私はこうした言葉に説得され、女性に対しては決して弱みを見せず、いかにも「こっちが格上」という雰囲気を出す必要があるのだと誤解し、某ストリートウェアブランドの店員みたいな塩対応で接しなくてはならないと考えてしまったのでした。付き合ってあげてる、もういい?

NHKの人気ドラマ『虎に翼』(2024)の劇中では、花岡(岩田剛典)というエリート男性が「女ってのは、優しくするとつけ上がるんだ。立場をわきまえさせないと」と周囲の男性に語るシーンがありました。なんだかイヤな言葉です。このくだりを見ながら、過去の暗い記憶がよみがえってきました。たしかに男性どうしは、こんな話をすることがあります。脚本家の吉田恵里香さんは、どうして女性のいない場所でしか交わされない男性どうしのやり取りを、せりふとして再現できたのでしょうか。いずれにせよ、ある種の男性は、男女交際に対して自分勝手なルールを設けているのでした。いわく、女性に心を許したり、なんのてらいもなく愛情を表現してはいけない。男はなにより仕事や収入が第一で、社会的な地位の上昇こそが重要であり、恋愛はあくまで余興だという態度を取らなくてはいけない。また、普段のふるまいから「この男性はいつ浮気するかわからない、どこか信用ならない」と女性に思わせ、緊張感を漂わせなくてはならない……。こんなルールでは幸福になれそうにないのですが、過去を思い出すと、私も周囲にいた『虎に翼』の花岡みたいな男性からそう教えられ、みずからも実践していました。こうして、なにかに怯えているかのように相手との力関係や距離感を調整しないと女性と交際できないなんて、虚しい気がします。かかる男性の間違いが起こる原因について、『埋没した世界』(明石書店)という著書もある五月あかりさんは、このように書いています。

女性を「好き」になるというのは、女性に身を委ね、女性の欲望に支配されることだからです。そんなの、男としては屈辱の二文字です。だから本当の意味では、女性を欲望してはならないのです。(…)異性愛的な関係を大切にすること、女性を「好き」であり、大切にすることは、男らしくないことであり、「男同士の絆」を袖にすることだからです。

『エトセトラブックス vol.10 特集 男性学』(エトセトラブックス)

女性を大切にすることは、男らしくないのだろうか

女性を好きであり、大切にすることは、男らしくない。過去の私はこうした考え方を信じ込んでしまって、交際していた女性に優しくできないという過ちをしました。私にとって恋愛は、少しでも弱い部分を見せたら負けてしまう、野蛮な地下格闘トーナメントのようなものでした。優しくすれば、相手は自分を格下に見るだろうし、そうなれば女性は私を「交際する価値がない男性」だと判断するかもしれない。私は、相手の女性に優しく接することで恋愛関係が終わってしまうのではと感じていました。相手の女性から見下されるのが怖かった私は、表面だけでも威厳たっぷりにふるまおうとし、いかにも強そうな「価値のある男性」を装って、ぶっきらぼうな態度で接していたのです。もちろん相手の女性には、そんな弱さもすべてお見通しだったと思います。私のような人間が男らしくしようと虚勢を張っても、レッサーパンダの威嚇くらい大したことがなかったはずだからです。いまとなってみれば、どうして普通に優しく、思いやりを持って接することができなかったのか、思い出すだけで恥ずかしい限りです。この文章を読んでいる方には、このような間違いだけはしてほしくないですね。

このように偏った発想は、思ったより多くの男性に共有されている気がします。男らしさが足りないという不安に怯えるかわりに、ごく普通に優しく接していれば、もっと幸福になれたはずでした。こうした風潮にあらがえなかった私は、女性に対して優しく接することができず、結果的に自分自身を不幸にしてしまいました。なぜ、相手を好きだという気持ちの表明が。自分の弱みを見せることにつながると思ってしまったのか、いま考えても情けないのです。「どちらが格上か、格下かみたい」なきゅうくつなことを考えながら女性と接するなんて、楽しくもなんともありません。人どうしは、縦(上下)にではなく、横につながるべきだと感じます。過去の自分に、それは誤った考えだと教えてやりたい気持ちです。

女性に優しく接する態度を育むために

女性との関係性にまつわる凝り固まった考え方は、昭和〜平成だけではなく、いま現在の男性にも残っているような気がします。女性に優しく接する態度を育むために、まずはリラックスできる環境で心を静めるところから始めてみましょう。無印良品の「ルームフレグランススプレー すっきりブレンド」は、部屋に噴霧して、心地よい香りを楽しめる人気アイテムです。いつもこちらの記事で紹介しているスキンケア製品ではありませんが、日々の生活にうるおいをもたらすという意味では、ぜひご紹介したい製品でした。香りはいくつか種類がありますので、テスターでお好みのフレグランスを選んでみてください。就寝前に枕や布団にスプレーしてもよいですし、出かける前に洋服に香りづけしてもよいです。まずは気分をおだやかにする香りで心を落ち着かせ、女性とまっすぐに愛情を形成できる大人の男性を目指してほしいものです。

 

 

伊藤 聡(いとう・そう)
会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

イラスト/green K

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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