宮城県出身。1981~89年文化出版局装苑編集部でファッションと美容を担当。美容の面白さに目覚め89年に独立。以降、雑誌を中心に美容企画の取材・執筆を行なう。美容医療に関しては黎明期の99年から体験と取材を継続。50歳時に詳しい検査で身体の弱点が多数見つかり「還暦で健康」を目指し、クリア。「大人の身体は変えられる」を実感中。日本抗加齢医学会会員。
たるみ治療のHIFU(ハイフ)トラブル報道、その後どうなった?〈後編〉【美容医療の最新情報を深掘り! Vol.7】
2023年3月、美容業界を揺るがす報道がありました。それは、“切らないたるみ治療”として人気の照射機器HIFU(ハイフ)のリスクです。消費者庁の消費者安全調査委員会から、「HIFU施術は人体に危害を及ぼすリスクが高く、エステ業界に注意喚起が必要」という「意見書」が提出されたのです。HIFUは美容クリニックでもエステサロンでも使われていましたが、そもそも何が問題で、その後どうなったのか? 関係各所に取材を行いました。だって、「美容」は「安全性」があってこそ、ですから。第3回(全3回)。【美容医療の最新情報を深掘り!海野由利子のおとなキレイ塾 Vol.7】
私たちがHIFUの効果を安全に得るには、どうしたらいいのか?
美容クリニックでHIFUの治療が始まったのは最近ではなく、2009年。以来10数年、肌の引き締め・たるみ改善効果が支持されて定期的に照射を受ける方が存在する一方で、合併症やトラブルも多い。その美容効果を私たちが安全に受けるにはどうすればいいのでしょうか?
2009年に始まったHIFUの歴史。しかし…? 前編はコチラ
やけどなどのトラブルが多発。ついに消費者庁が動く。中編はコチラ
美容クリニックで受けるなら安全?
「エステサロンで使われているHIFUは医療機器レベルのパワー」だと消費者庁消費者安全調査委員会に結論付けられ、事故防止の
また、治療を受ける人の肌質、たるみの状態、治療の希望、痛みに対する感度も個人差があります。HIFUは“皮下4.5mmに熱を与える”設定で筋膜の引き締め効果が得られますが、ハンドピースの当て方や適切な力加減が重要。患者が痛みを感じて動いたりすると、設定の“皮下4.5mm”ではない層に熱が加わることになり、それがやけどや合併症、効果不足につながることもあります。
HIFUは照射の設定や機種により、異なる深さへ熱を与える。4.5mmは筋膜を熱収縮させて引き締める効果が得られる。資料提供/クロスクリニック銀座
HIFUのハンドピース。機種や治療の目的によって様々な形がある。写真/クロスクリニック銀座
HIFUによるやけどなどの合併症は、時間が経てば治るものも治りにくいものもあります。治療のためにほかの病院や医師を受診するように言われることもあります。施術を担当した医師の経験・技術の不足が原因、という例は多いのですが、医師免許を取得していれば、何科の治療をしても法律的には問題ありません。
また、美容医療は自由診療なので「患者が希望した」ことになります。そのため、経験不足の医師の治療で合併症がおきても医師に責任を問うことは難しく、合併症の治療も自費になるのです(ただし最近は、「医師という資格を信頼して治療を受けているので、医師は患者の希望に応える責任がある」という考え方がでてきています)。
クリニック、医師を選ぶ際には必ず、常勤の医師を確認し、専門医資格や経歴もチェックしましょう。
やけどをした場合に線状に跡がつくのは、ハンドピースを肌に当てる部分がこんな形だから。円形のものは同時に導入もできるタイプ。写真/クロスクリニック銀座
美容クリニックはどこも同じではなく、治療メニューはそれぞれ違います。得意とする治療法も医師によって違いますが、HIFU治療を提供するクリニックなら、医師は、安全と効果の両立のために照射の仕方をどこかで学ぶ必要があります。
今回の取材で話をうかがったクロスクリニック銀座の石川院長のように、長年、照射治療に力を入れていて、効果を確信した機器は、いち早く個人輸入をし、自身への照射を試してから臨床研究をする医師はわずかです。多くは学会で新たな治療の臨床報告を聞き、輸入が始まっていれば医療機器の業者を通じて機器を購入します。このような場合、輸入業者が医師向けに使用法も含めたセミナーを行います。さまざまなリスクを回避するために、購入にはセミナーの受講を義務付けている業者もありますが、講習を受けない医師もいると聞きます。
安全な治療への意識が高くない医師に対して、合併症防止のためにどう“教育”をしていくのかは、美容医療界の課題のひとつといえます。
クロスクリニック銀座院長の石川浩一先生。形成外科専門医です。
アジアで初めてHIFUを導入。現在HIFU機器は数台を使い分けています。写真/クロスクリニック銀座
クリニックHP → クロスクリニック銀座
美顔器でのセルフケアなら安全か?
HIFUはエステサロンではほぼ受けられなくなり、クリニックなら安心とも言えない。
ならばホームケア用の美顔器という選択肢はどうだろうと思い、美容機器の代表的なメーカーであるヤーマンとMTGの広報担当に尋ねてみたところ、両社ともHIFU搭載の美顔器は製造も取り扱いもしていないと回答。セルフケアの美顔器のエネルギーソースとしてはリスクがあるし、「肌の引き締め」機能にはLEDやRF(高周波)、IPL(光)、EMSなどが使われています。どの製品も機能と安全性の試験を行っていて、美容医療に関わる皮膚科医や形成外科医の監修を受けたり共同開発をしているそう。お客様相談窓口やコールセンター、そして直営店があるので、疑問や困ったことがあれば問い合わせができるし、直営店で使用法を教わることも可能。こういうメーカーの美顔器を選んで、使用法通りにケアをすれば安全度は高そうです。
結論→HIFUの治療は医療機関で!
機器が「医療機器レベル」の場合、施術者に皮下の構造や解剖学の知識や技術がないと、やけどや神経損傷などの合併症を起こす可能性が高くなります。HIFUの事故は大きな問題となって消費者庁の消費者安全調査委員会が動き、エステサロンでの使用はほぼ中止となっています。ホームケア用の美顔器も、代表的なメーカーではHIFUを搭載していません。
そもそもは肌のたるみの改善効果が立証されている機器ですが、リスクはあるので治療を受けるならクリニックへ。ただし、医師の技量には差があるので、受診前には、専門医資格や経歴をチェックすること。診察時には自分にHIFU治療が向いてるどうかも担当医師に尋ねましょう。良い効果が得られるはずのHIFUで嫌な思いをしないよう、「慎重な心」も持ち続けることは大切です。
また、今回の取材で消費者庁の姿勢もわかりました。「HIFUは危険性があるから使用禁止」ではなく「消費者が安全に利用するためには?」という視点で現状を徹底的に調査を行っていました。消費者からの声は消費者庁に届いているので、トラブルが起きたり安全ではないと感じることを報告したり、問い合わせができることも知っていただきたい。
美容がより安全なものになっていきますように。
◆消費者庁申立・問い合わせ窓口について コチラ
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