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スキンケアニュース
2023.11.2

中年男性は機械の身体になりたいのだろうか?【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.4】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

 

私は疲れていたのかも……

これまで私は、自分の体調に気づくのが下手でした。自分が元気なのか、疲れているのかもよくわかっていないまま、「まあ、一応は身体が動いているから大丈夫なんだろうな」などと考えつつ、日々働いていました。自分の体調について観察するようになったきっかけは、スキンケアとサウナだと思います。スキンケアをしていると、同じ製品を使っても、なぜか肌がピリッと痛む日があります。肌の調子が悪い日が、製品を使用した後の反応でわかるのです。また私は最近サウナへよく行くようになったのですが、たくさん汗をかいてリラックスすると、施設を出たときに身体が軽くなっている感覚があります。首や肩のまわりが柔らかくほぐれて、そこでようやく、知らないあいだに疲れがたまっていたことに気づくのです。あまり意識していなかったけれど、私は疲れていたのかも……。きっとこれまでも、身体はなんらかのシグナルを出していたと思いますが、私はそのシグナルをうまく受信できていなかった気がします。 

このように、私だけではなく多くの男性が「自分の体調がよくわからない」状態になりがちなのだと思います。というのも、社会に出て働いていると、自分の体調をあれこれ気にしたり、健康を優先したりするのが、どこか「本気で仕事をしていない態度」や「自分勝手なこと」ように感じられる場合があるためです。会社員に求められることのひとつに、「いつでも、どこでも、何でもすぐにやる」という姿勢があります。調子が悪い、できない、休みたいなどと口にせず、仕事をあらゆるものごとに優先させ、指示が出た瞬間に進められる状態をキープすること。休まず試合に出続けた昭和の野球選手は「鉄人」と呼ばれ、ほめたたえられていました。つねに臨戦態勢であることが会社員としての評価につながる風潮は、令和のいまもなくなっていません。書きながらちょっと暗い気持ちになってきましたが、大事な局面で休まずその場にいて、ファイティングポーズを取っているのがえらい、という考え方はいまだに根強く残っていると思います。

 24時間戦いたくない!

よく「体調管理も仕事のうち」などと言いますが、人はどうしたって急に具合が悪くなるものです。体調なんて、そんなにうまく管理できるものじゃないと思います。『魔女の宅急便』(1989年)のキキだって、ニシンのパイを運んだりしてずいぶんマジメに働いていましたが、急に空を飛べなくなりました。調子が悪くなるときは、どうしたってなるのです。それを許してもらえない息苦しい風潮のなかで「組織から見放されたくない」「仕事の流れから置いていかれたくない」と思う多くの男性は、自分の体調がどうかなど、あまり考えないようになります。つねに臨戦体制でなくてはならないのですから、体調など気にしていてはつとまりません。あー、イヤですねえ。私の職場にも、あきらかに風邪なのにゲホゲホしながら会社に来ている人がいます。そういえば「風邪でも絶対に休めないあなたへ」という、風邪薬のキャッチコピーもありました。絶対に休めない、ってしんどそうです。私が高校生の頃に流行った滋養強壮ドリンクのテレビCMでは「24時間戦えますか、ビジネスマン」と宣伝されており、「そうか、大人になるともう休むヒマなんてないのだな」と思ったものでしたが、時流は変われど、こうした考え方は形を変えつつ続いているようです。

私自身、昭和40年代男として、こうした風潮はニガテだなと思いつつ、社会で生き残るため自分を強引に適応させるしかなかったという苦い経験があります。その結果として「自分の体調がよくわからない」状態になってしまったのですから、こんなに悲しいことはありません。だからこそ、スキンケアを始めてみて、自分の状態に向き合うきっかけができたことが嬉しかったのです。夜、寝る前にセルヴォークの「カームブライトニング ナイトリペアマスク」を塗っていると、その日の肌の調子が伝わってきます。「気温が下がって、乾燥してきているな」ですとか、「そろそろ夜は、加湿器をつけて寝るようにしようか」などと考えつつ、スキンケアの時間を楽しむのです。ポーラ「B.A ローション イマース」も、ぜいたくな気分が味わえてステキですね。肌にすっとなじんでうるおいが生まれる。そしてどちらの製品もとにかく香りがいいのです。香りのよい製品を使って肌を守ること、それじたいが、長年ケアされずに放っておかれた自分の身体をようやくケアしているというよろこびにつながります。

お互いをケアしながら暮らせる社会へ

考えてみると、男性には毎月の生理もありませんし、そこまで体調の変化を被りにくいため、やろうと思えばムリできてしまう側面もあります。そうして「体調なんて知ったことではない」「自分はいつだって、どんな仕事だってまっとうするんだ」とアピールしたい男性は、やがて『ロボコップ』(1987年)とか『アイアンマン』(2008年)みたいな、機械の身体を持つ存在のようになって働こうとします。もしかするとああいう映画には、好不調の波のない、いつでも万全に動く機械のような身体がほしいという男性の欲求が投影されているのかもしれませんね。手からビームが出たり、銃弾を跳ね返したりして、絶対に壊れない身体。そういえばアニメ『銀河鉄道999』(1978年〜)の主人公・鉄郎も、機械の身体を欲しがっていました。しかしこうした「機械のような身体への憧れ」には、あきらかに弊害があります。身体の不調を訴える人、休息が必要な人に対しての優しさはなくなるでしょうし、男性ほどには身体のムリが効かない女性に対する不寛容が生じてしまいそうです。「俺は機械みたいに休まず働いてるのに!」なんて怒ったりして、怖そうです。そしてなにより、その男性本人の人生が幸福ではなくなりますよね。身体をいたわらずに幸福になることなどできないですから。

紆余曲折あり、私もようやく自分の身体について考えながら暮らすことができるようになりました。本当は、20代くらいで気がつければよかったのですが、ずいぶん時間がかかってしまいました。それはスキンケアと出会ったおかげではなかったかと思います。肌のお手入れをすることで、自分自身をケアできるようになったのは幸福ですし、遅すぎるということは決してなかったと思います。人は急に具合が悪くなるのだし、調子悪くてあたりまえです。身体を休めたり、お互いをケアしながら暮らせる社会の方がずっと暮らしやすい気がします。肌のお手入れという個人的な作業をしているうち、社会の歪みに気づかせてくれるような意外な側面が、美容にはあります。セルヴォークやポーラのスキンケアで気分転換できるようになって、毎日がプラスの方向へ変化した気がします。私の身体は機械ではなく、手入れをしなければダメになってしまう不安定なものだと気づけたのです。

右から/『美的』のイベントで知ったセルヴォークのナイトクリームと、リュクスな香りに癒やされる、構築的な外観もお気に入りのポーラのローション(著者私物)

伊藤 聡(いとう・そう)
会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

イラスト/green K

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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