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2013.9.27

大高博幸の美的.com通信(178) 芸術の秋、美術の秋、ルノワールとゴッホを観る。 試写室便り Vol.51

ルノアール
©2012 FIDELITE FILMS / WILD BUNCH / MARS FILMS / FRANCE 2 CINEMA

幸福の画家ルノワール。名画誕生に秘められた真実の物語――。
ルノワール 陽だまりの裸婦』  (フランス映画、111分)
10.4 ロードショー。www.renoir-movie.net

【STORY】 1915年、コート・ダジュール。人生の黄昏時を迎えていたルノワールは、病に冒され 満足に絵筆が握れなくなっていた。追い打ちをかけるかのように、最愛の妻を亡くし、そして、息子のジャンが戦地で負傷したという悪い知らせも届き、失意の底にいた…。しかし ある日、彼の前に突然現れた、溢れんばかりの生命力と輝くような美しさを持つアンドレが 画家として もはや得ることはできないだろうと思っていた活力を、ルノワールに吹き込む――。そしてルノワールは アンドレを最後のモデルに、『浴女たち』の創作を開始する――。 (プレスブックより)

印象派の巨匠:ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841-1919)の曾孫にあたる、ジャック・ルノワールの記述を基に映画化された作品です。車椅子での生活を余儀なくされ、自由がきかなくなった手に絵筆を縛りつけて創作を続けるルノワールを中心に、彼の息子(後の映画監督:ジャン・ルノワール)、複数の召し使い、そして「モデルとして使ってほしい」と自ら売り込んで来た若い娘:アンドレが主要登場人物。

まるでルノワールの目を通して撮影されたかのような画面が見事なまでに美しく、夏の強い日射しさえもが柔らかみを帯び、1915年のコート・ダジュールの空気を実際に吸い込んでいる気持ちに誘われます。
映画全体の構成としては、ルノワールの絵の創作過程を追求するというよりも、彼と息子:ジャンとの関係、ジャンとアンドレの恋のプロセスに重点が置かれており、人間ドラマとしての興味をそそります。戦場の場面はありませんが、第一次世界大戦がもたらした傷跡を ルノワールという一老人を通して静かに表現しているところも、この映画に奥行きを添えていました。
以下、印象に残ったルノワールの台詞を、少しだけ書きとめておきます。
「(負傷しながらも戦地へ戻ろうとするジャンに) 自分を“浮き”だと思え。運命に逆らうな。」
「(ひとり言のように つぶやく台詞) 生きた人間でないと描けない。光を吸い込むキメの細かい肌、若い娘の肌が好きなんだ。」
P.S. 特に美しいと感じた場面を、ひとつだけ。それは小川のほとりでのピクニックのような場面で、突然強風が吹き、召し使い達が帽子や日傘や荷物を懸命に おさえるという数カット。ここまで絵画的かつ詩的な場面には、もう お目に かかれないかもしれません。

 

ゴッホ
©1991 GAUMONT

狂気の画家とも呼ばれた天才ゴッホの、人生最期の2ヶ月間――。
ヴァン・ゴッホ』  (1991年製作、フランス映画、160分)
11月上旬 ロードショー。www.zaziefilms.com/pialat

【STORY】 1890年5月、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホは オーヴェルの村を訪れた。医師ガシェの診察を受けたゴッホは、そこで娘のマルグリットと出会う。美術コレクターでもあるガシェと親しくなった彼は、マルグリットをモデルにした絵を描くために 家に通うようになる。マルグリットはゴッホに恋をした。周りからみても2人の関係は すぐに分かる。「天才かもしれんが最低だ。倍も年の離れた娘だぞ」。ガシェは わが娘を心配し、苛立ちを隠せない。
ゴッホの絵は全く売れない。批評家に対しては無礼に振る舞ってしまう。もはや自分の絵にも自信を持てない。画商である弟テオとの関係も悪くなる一方だ。マルグリットは、ゴッホを日々愛するようになっていた。「愛が欲しい。でも、私を愛していないのね」。彼女は気づいていたのだ。彼の心を とらえるものは、彼自身の絵画だけであることを。 (プレスブックより)

後期印象派の画家で、後に野獣派の画家達に多大な影響を与えたとされているヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(1853-1890)の最期の2ヶ月間を、じっくりと描写した作品です。これはフランス最高の映画作家のひとり:モーリス・ピアラ監督の没後10周年を記念して特集上映される、彼の後期の代表作4本のうちの1本。日本では初公開となる幻の傑作です。
導入部はテンポがよく、展開もスピーディ。しかし、ゴッホがガシェの家へ出入りするようになって以降、カメラは腰を据えて オーヴェルでの日々を濃密に映し始めます。昼食の後で余興を楽しむ庭の場面や、特に酒場でのダンスシーンが相当長く、僕はヴィスコンティ監督の大作『山猫』を封切館で観た時のコトを想い出したりもしていました(『山猫』では、大舞踏会の場面が、確か40分間以上も延々と続いたという記憶があります)。
しかし、ゴッホをはじめとする登場人物全員に、不思議な親しみを強く覚えたのは なぜだったのでしょうか? その辺りに、この映画の深い意味と価値が潜んでいるような気がします。
ゴッホの孤独感、極度の感情の昂ぶりと、ひとつのコトに集中しすぎてしまう性格。それを よく理解している弟と その妻。そして、まだ十代の少女であるマルグリットの精神的成熟度の高さなどが、160分という長尺を最後まで惹きつける作品…。気持ちに余裕のある状態での観賞をオススメしたいです。
P.S. 撮影は黒(or暗部)が画面を引き締めている部分が多く、安宿の場面さえ細部まで美しいと、僕は何度も感じました。
本作は1992年度のセザール賞9部門にノミネートされ、ゴッホを演じたジャック・デュトロンが最優秀主演男優賞を受賞しています。

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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