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2021.4.12

宇垣美里さんの転機となった1冊の本は?|「新しい世界に踏み入れる時、いつだってこの本を読み返す」

美容はもとより、仕事、恋愛、お金、人生など、価値観の大きな変化を感じること、ありませんか?二十歳という節目を迎えた『美的』と一緒に心新たに前へ!の気持ちを込めて、美容や人生のターニングポイントを迎える人も多い『美的』読者に響くメッセージをいただきました。今回はフリーアナウンサーの宇垣美里さん。ものの見方が変わるヒントも満載なのでぜひチェックしてみてください。

フリーアナウンサー 宇垣美里さんの「転機」の話。

フリーアナウンサー

宇垣美里さん

私の背中をそっと押してくれる永遠のバイブルをいつも傍らに

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私の人生において、一番初めの転機は大学受験、だったと思う。小中と住所から機械的に振り分けられた公立校で学び、勉強に励むことでやっとの思いでその環境から抜け出せた高校時代。楽しそうに本を読むことや一人でお手洗いに行くことで変人扱いされない、自分らしく大きく息の吸える場所。それでもまだ、ずっと同じ土地にいることには変わりなかった。
 
その日はただ帰りに一緒になった仲のいい男友達と駅前を歩いていた、それだけだった。わざわざ挨拶してそれとなく関係性を尋ねてくる近所のおばさん。きっと家に着くころには母にまで伝わっていることだろう。今後何かミスをすればチャラチャラ遊んでいるからと責められる。真っ青になった私を見て友人は「僕が話しかけたせいだね、ごめんね」と悲しい顔をして謝り、そのことが余計に私を惨めにさせた。
 
ふらふらしながら向かった本屋でタイトルを見て、すがるように手に取ったのが『少女七竈と七人の可愛そうな大人』。内容も作者も知らぬまま、ただ可愛そうな大人の話を読んで溜飲を下げたかった。

予想に反し、その小説の中に描かれていたのは、狭いコミュニティの中で苦しみ、やがて生まれ育った土地から旅立つことを決意するひとりの少女の心の変遷だった。当時ちょうど同い年くらいの、高校生の川村七竈は北海道・旭川の小さな町に暮らす美少女。出自の特異さと呪いのごとき美しさのために周囲から孤立し、心の支えは幼馴染の雪風と大好きな鉄道模型のみ。やがてその雪風との間にも止めようのない変化が生まれてしまう。

物語を紡ぐ言葉ひとつひとつの優美さにうっとりすると共に、常に変化せざるを得ない自分と向き合って、折り合って、生きていくこと、その過程で例えどんな大切だったものを失ってしまっても、乗り越え進み続けることを教えてくれた。特に東京から七竈をスカウトしにきた芸能事務所の梅木が口にした「性質が異質で、共同体には向かない生まれのものは、ぜんぶ、ぜんぶ、都会にまぎれてしまえばいい」という台詞は、東京へ行きたいと思う気持ちを大きく後押しした。

結局大学受験では東京に行けず、数年後の就職まで持ち越されることに。念願叶って東京で暮らし始めて7年、意外とまぎれなかったな、と思う。それでも、ありとあらゆる価値観と背景を持ったたくさんの人が住まうこの土地で、その中のひとりとして生きていくことは、とても楽だ。
 
七竈は言った。「ずっとおなじ生活が続くわけではないのですね。そのことに去年、気づきました。人は生活を選べるのだと。住む世界を選択するのだと。」

時の流れは容赦なく人を、世界を変える。場所を変え、肩書きすらも変え、生きていくことが怖くないと言えば嘘になるけれど、全部受け入れて進むしかない。新しい世界に踏み入れる時、いつだってこの本を読み返す。私たちはどこにだって行けるし、何にだってなれる。それが生きるという事なのだと、背中を押してくれるから。

宇垣さんの転機にまつわる一冊

『少女七竈と七人の可愛そうな大人』

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桜庭一樹【著】/角川文庫 ¥660
“いんらんの母”から生まれた少女、七竈は自らの美しさを呪い、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友に、孤高の日々を送るが――直木賞作家のブレイクポイントとなった、こよなく切ない青春小説。

『美的』2021年5月号掲載
イラスト/市村 譲 構成/野村サチコ、宮田典子(HATSU)

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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