「パートナーのひと言でどんな仕事にも意味はあるのだと気付かされた」女優・美村里江さんの“転機”とは?
美容や人生のターニングポイントを迎える人も多い『美的』読者は価値観の大きな変化を感じることもあるのではないでしょうか? 二十歳という節目を迎えた『美的』と一緒に心新たに前へ!の気持ちを込めて、集めたメッセージ。美容はもとより、仕事、恋愛、お金、人生etc.、今この人に聞いてみたい!方に語っていただきました!今回は女優、エッセイストの美村里江さん。ものの見方が変わるヒントも満載ですよ♪
女優、エッセイストの美村里江さんの「転機」の話。
どんな仕事にも意味はあるのだと気づかされた、パートナーのひと言
スポンジやクリーム苺はインフラで我らアラザンまたはチャービル
何百の本や映画を荒食いし使えるパーツを探し続けて
「失った」そう思っても振り返り裏側見れば何かを得ている
担がれた神輿を降りて眺むれば金メッキかな二度拭きしとこう
自分の仕事を卑下せず尊大にもならず、というバランスは難しい。私は、「全くの演技素人から主演デビュー」という無茶な経歴のためか、長らく程よい匙加減を持てなかった。恵まれた境遇であることは自覚しつつ煮詰まってしまい、社長へ直談判して2年間休業。「やっぱりお芝居は楽しい」という再認識を抱えて復帰した後は、すっかり大の仕事好き人間に。
ところが、今度は他の仕事と比べて自分の仕事が軽佻浮薄に感じられ、申し訳ないような想いが湧いてきた。特に2011年3月11日の東日本大震災以降、多作品の制作中止の噂が飛び交う中、「豊かさの上に乗ったお飾りの仕事」と身に染みた。
結婚前の夫に、そのことをポツリと漏らした。夫は医療チームを率いて災害救助へ向かう仕事で、東日本大震災でも現地に数か月滞在し、救助と情報分析を行なった。エンタメと真逆の仕事を尊敬し、その分役者業の意義を見失っていた私に、夫は笑ってこう返した。
「医療は命を救える場合もあるけど、人の心を救えるのはエンタメでしょう。すごくいい仕事じゃない」
それ以来、私は金メッキの装飾やケーキに添えられた葉に愛しいシンパシーを感じる。人生に必須ではないけれど、目にしたあとちょっとだけ気分の良くなる可能性のあるもの。それが私の仕事だと、やり甲斐も感じている。
どんな世の中になっても、トッピングとして必要とされる役者であろうと、自分を二度拭き、各種勉強を重ねている今日この頃である。
『美的』2021年5月号掲載
イラスト/市村 譲 構成/野村サチコ、宮田典子(HATSU)
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
みむら・りえ/1984年、埼玉県生まれ。月9ドラマ『ビギナー』(’03年)で女優デビュー。以来、テレビドラマ、映画、舞台などで幅広く活躍。また、エッセイや書評などの執筆活動も行い、複数のコラムを連載中。著書に『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』(共に白泉社)、『文集』(SDP)がある他、初の歌集『たん・たんか・たん 美村里江歌集』(青土社)が発売中。