“Mattママ”桑田真紀「パワハラか否かの違いは愛情と信念があるかないか」|美的GRAND 連載 vol.18

夫は野球界のレジェンド・桑田真澄氏、次男は現在アーティストとして多方面で活躍中のMatt Rose氏。専業主婦から一念発起し、彼らを公私ともに支え、現在は化粧品会社も経営する桑田真紀さん。「優れた才能を発掘して応援したい」という根っからの「応援気質」で周囲の人々をサポートする真紀さんの「応援力」は、夫、子供、義理両親など身内だけでなく、上司・部下・同僚やママ友、すべての人間関係の参考になるはず。
パワハラか否かの違いは愛情と信念があるかないか

私たちの言い方や伝え方の力量が問われているのが今の時代
ここ数年、社会での注目&頻出ワードは「ハラスメント」。その中心が「セクハラ」と「パワハラ」。「セパハラ」と一言でまとめられている程メジャーかつ世界共通なハラスメントですが、においに関する「スメハラ」、妊婦さんに対する嫌がらせをする「マタハラ」、お客さんという立場を利用した「カスハラ」、そのほかにもいろいろな迷惑行為が良くも悪くも「ハラスメント化」しています。
先日、雑談の中で、「桑田さんはパワハラに遭ったことはありますか?」と質問されたことがありました。新卒で入社した航空会社勤務時代は、お恥ずかしい話、単に自分が要領よくできないから叱られていただけで……。強く指導されていたとしても、「ああ、また失敗しちゃった。申し訳ない」と反省することしきり。周りの同僚もそんな感じでしたし、「不当に叱られている!」と憤慨することなど考えてもみませんでした。この30年で上下関係の概念や価値観、常識が変わってしまったのでしょうね。当時は部下や後輩の掟として「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」とはよく言ったものですが、最近はそれよりもむしろ上司や先輩の心得「おひたし」が重要だと聞きました。「怒らない」「否定しない」「助ける」「指示する」なんだそう。「うまいこと言うな~」と感心しつつも、昭和や平成の当たり前は通用しなくなってしまいました。
私たちグラン世代である40~50代と30代、20代、はたまた10代では、生まれ育った時代のインフラ環境が全く違うので、文化や感覚も当然ながら変わってしまいました。「通信手段は家の電話か手紙」だった昭和な人と、「生まれたときから携帯やPCがあって、自分発信が当たり前」な平成の人、違って当たり前です。それと同じで、物心ついた時から「ハラスメント」という概念が浸透している人とそうでない人、そこには大きな溝がある気がします。
ちょっと注意しただけで、受けとる人によってはハラスメントとなってしまうし、かといってそれをぐっと我慢して伝えなかったらいつまでたってもわかってもらえない。ビジネスであれば、取引先や顧客に対する信用問題へと発展することもあります。
上司が部下に遠慮するのも違うし、第一、それでは人材が育たないと思うのです。今のままでいいの? 知らないままでいいの? 最終的に恥をかくのはその本人で、それでは「誰からも教えてもらえなかった気の毒な人」になってしまいます。きつく言っても、優しく言っても、結局「内容」そのものは同じですよね。だからこそ、私たちは「言い方」や「伝え方」を問われているし、こちら側のスキルを磨く努力も必要なのです。
一度口に出した言葉は消せないから、思ったことをそのまま言わない。柔らかく表現できることはすべて言い替える。でも、腫れ物に触るように扱ったり、注意すべきことを見て見ぬふりするのはいけない。これが私の3原則です。
最近耳にしたのは、「今の若い人たちは叱られ慣れていないし、注意すると「自分は悪くないですオーラ」を出してくる。
こちらも「パワハラの人」認定されるのは困るので、それ以上の注意も指導もしない。結局その人はできが悪いままなので、誰からも仕事を振られることはなく、居心地が悪くなってやめていく」というパターンが定石だと。そしてそのあいたポジションに誰か新規の人材を採用して、その人が仕事ができればラッキー、ダメな人だと最初は指導するけれど、覚えが悪ければそのままフェードアウトの繰り返しなのだそう。それってもったいないですよね。対話不足はもちろん、本来指導する立場なのにそこから逃げたり放置していることから来ている悪循環。
結局、大事なのは
●愛情と信念をもって指導する。
●もし、パワハラだと言われたら「少し私の解釈は違います。なぜなら……」と、毅然かつ理路整然と説明できるように、自分でもいったん整理する。
●決して感情的にならない。
この3つなのではないでしょうか。
対話不足は、企業の製品やサービスだったり、アーティスト同士の作品だったり、PTAや町内会での催し物だったり、その最終形こそ違えど成果物のできに必ず表れます。「これはベストだ」「いや私は違うと思う」「ここはこうした方がいい」など、ディスカッションができないと、とたんに無難なものに落ち着いてしまいます。もっとなんでも話し合って、突き詰めていける文化が形成されれば、日本はこれからもまだまだ進化していけると信じています。それには年長者が伝え方の努力をすることが必要です。そうすれば、かつてのように、とんでもない世界的ヒット商品が出来上がったり、とてつもない天才が生まれるポテンシャルのある国に。そして「コミュニケーション不足から起こるハラスメント」は、かなり軽減する気がしてなりません。
Maki’s 今号のキレイの源
撮影/天日恵美子 ヘア&メイク/広瀬あつこ 構成/三井三奈子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。