土屋アンナさん母娘鼎談「母と娘、それぞれの思い<最終章>」|作家LiLy対談連載「生きるセンス Season.6」第5話
「年齢を重ねるって、どういうことですか?」作家・LiLyさんが人生の先輩を訪ねて歩いた人気連載『生きるセンス』がリニューアルスタート。より楽しく、より自由に、より心地よく生きるべく、人生のヒントをさらに深掘りしていきます。第6回のゲストは、土屋アンナさんと母親の眞弓さん。LiLyさんの母親の由美子さんも招き、4人の鼎談がスタート!
第1話▶▶土屋アンナさん母娘にとっての「センス」とは?
第2話▶▶土屋アンナさん母娘鼎談「繊細な人はロックンロール!?」
第3話▶▶土屋アンナさん母娘鼎談「母娘、似ている似ていない問題」
第4話▶▶土屋アンナさん母娘鼎談「女が○○なんて、の時代」
同じ母親というステージで母と共感し合える、それが嬉しい――LiLyさん
LiLyさん(以下、L) 母と娘という関係性も年齢を重ねるにつれて変化するよね。10代の頃に母と喧嘩するたびに母が「あー早く35歳くらいにならないかしら。お話にならない」みたいに捨て台詞みたいに言うことがあって、当時はそれにもむかついてたんだけど、それこそ35歳くらいになったらその意味がすごくよく分かった(笑)。それこそ、母と私が親子という立場を超えて女同士ピタリと精神年齢の一致によりわかり合えた瞬間美があってね。多分リアルに私が35歳くらいのときだった!
土屋アンナさん(以下、A) その話、聞いてみたい!
L 私が仕事で子供を母親に預けなきゃいけないときに、もう出ないと遅刻しそうなのに子供たちは泣き喚いているし部屋はグチャグチャだし母はテンパってるし私もキャパオーバーでキレそうだし、ってとき。「なんでこんなに大変なの!? 私が泣きたいわ!」って瞬間あるじゃない?
A あるあるあるある、あの魔の時間ね…。
L そこで私がふと、「あ〜、来世は子供いらないかも」ってもらしたら、隣にいた母親が「私もよ!」って(笑)。ふたりともハッとして、目を見合わせて、心の中で人生最大のハイタッチ(笑)。それこそ、精神年齢がまだ若かったら「それって私がいらなかったってこと?」なんて傷ついちゃうかもしれないんだけど、「まったくをもってそういうことじゃない」というのがポイントで。伝わる?
A 伝わる、伝わる!
L もちろん子供がいて最高に幸せで、世界で自分より大切な存在はふたり以外にいないってくらいなわけよ。そんなのは当たり前の話なの。で、そんな大前提はお互いに理解しきったあとでのふと漏れる、〝その瞬間の本音〟の一致。わかり合えるってこういうことなんだよね。年齢と経験を重ねるって最高だなって思ったの。たまたま母と娘として出会ったふたりの人間が、母と娘という立場を捨て去って心からわかり合えた瞬間だったんだよね。「ああ、母の娘に生まれてよかった」「子供たちの母親になれてよかった」って台詞とは真逆に思って感謝したもの。
A いい話だね! うちのママは箸の上げ下ろしから何からすごく厳しかったけど、自分が母親になった今、そのことにすごく感謝してる。当時は他の家と比べようがなかったから怖いとも思わず、そういうものだと思っていたし。
土屋眞弓さん(以下、M) 娘たちは夜泣きもないから添い寝もしないし、よそのおうちに連れていっても「座っていなさい」と言うとおとなしくしているし、だから私、子育てを大変だと思ったことがないのよね。
A だって食事中に肘をついた瞬間に怒号が飛ぶからね(笑)。でもやっぱりそれ含めて感謝してるんだよね。
由美子さん(以下、Y) 私は、自分の母が大家族の嫁だったこともあって、ほかの人間が私のことを叱ることになる前に、母からピシッと言われることがすごく多くて。だから私の場合はそれを子供にしないという方針だったの。
L 大家族の嫁って、おばあちゃんも大変だったはずだよね。時代が母という存在を今では考えられないくらい怖くさせていたところはあるよね。躾って言葉も、私はちょっと怖いもん。
Y 時代は大きいわよね。で、そこでの抑圧があったからなのか、私はすごく夜泣きが激しい子供で、お坊さんを呼んだこともあったみたい。私はいい子に見えるけど「でも本当は違うぞ」って思われていたらしいわ(笑)。
A 由美子さん、私の小さい頃とやっぱり似てる! 私は「ピーターパン症候群」って言われたことがあった。ひとりで内に籠るのが好きで、歌を歌ったり詩を読んだりするのが好きだったの。
L アンナはやっぱりピュアなんだよ。動物とも心通わせられるでしょう? 私の娘とも似てるの、アンナは。動物好きって、それこそ親の影響とかあるのかなって思っていたんだけど、娘を見ていてわかった。動物好きは生まれつきなの。私は彼女と出会って動物がいる暮らしと出会ったんだもん。アンナもずっと、「人とより動物とのほうが、心が繋がる気がする」って話していたなぁって、娘を見ていていつも思い出してる。アンナも生まれつきのアニマルラバーだよね。
A そ! でもペットにお洋服着せちゃうタイプではないよ。よしよしと撫で回すのでもなく、「そこにいればいい」と思ってるし、なんなら「噛め、この野郎!」って腕を差し出しちゃうからね。
Y アンナちゃん、最高ね。やっぱり日本文学じゃないわ、あなた自身が海外文学なのよ!
L あはは! お母さんのそのコメントも個性的すぎるよ。最高! (笑)
幸せかどうかは、死に際にしかわからない。だから迎合も妥協もせず生きていく――由美子さん
L さて、今日は二組の母娘が集まっていろんな話をしたけれど、どんなことを感じたか、聞いてみたいな。
M 母と娘は距離が近いだけにお互いに「わかってくれているだろう」と思ってしまいがち。もちろんわかり合える部分もあるけれど、人間同士だから誤解が生まれるところもある。そこは丁寧に言葉を尽くすべきときもあるのかなと思ったわ。それは由美子さんの落ち着いた話しぶりを見ていて感じたことなの。
Y こちらこそ、眞弓さんと会えてすごく勉強になりました。私は自分の結婚式で、アスリートの方にスピーチをしていただいて、こんなメッセージをいただいたの。「予定調和で動いていてはだめ。本音でぶつかり合うことで、チームは強くなる」って。母娘もそうよね。これからも、迎合や妥協をしないで生きていこうと思ったわ。幸せかどうかは、死を迎えるときにしかわからないのだから。
L 先ほど、「私だってLiLyみたいにいろんなことに挑戦したかった」ってお母さんに泣かれた話をしたけれど、私こそお母さんを羨ましいと思うことがあって。それはお父さんと魂からぶつかり合いまくって今でもガチで愛し合っているところ。家庭の中に男女をもち込まれるって子供からしたら大迷惑なのよ。喧嘩が激しすぎて嫌すぎた。でも、ふたりは今でもラブラブ。とっても素敵なカップルだと思うし尊敬している。私は離婚という選択をしたけれど、お母さんは永遠の愛を手に入れてるよね。ま、私はそこを渇望しつつ、さまざまな思いや経験を小説に落とし込む運命なのかな。そのあたりもまた自分では選べないことだよね。うまくできているのかもね。永遠に続くパートナー、まだ諦めてないけどね!
A 男女の永遠の愛、か。私は「なるようになる」と思ってる。そのためには、目の前のひとつひとつに丁寧に取り組むこと。いろんな国の血が入っている私だからこそ、世の中の答えがないとされているものに、少しずつ答えが出せるような人になりたいな。最近、そんなことを考えてる。
L さすが、やっぱりアンナは愛の人だよ。私は自分の恋の話ばかり考えて喋っていたのに、アンナの目線は世界に向いているんだもん。大好き!
A うーん、でも嫌いなものは嫌いだよ。
L 知ってる! (笑)
Y 大嫌いなことがハッキリしているって、この人生に愛がある証拠だと思うわ!
M 応援してるわよ!!

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イラスト/ekore 構成・文/本庄真穂
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