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2018.4.22

敵をも愛せる女は誰からも愛される【齋藤 薫さん連載 vol.73】

平昌オリンピックのスピードスケート女子500m決勝後、小平選手と李選手のライバル同士の抱擁に世界中の人が感動し、あったかい気持ちになったのは記憶に新しいところ。今までライバルといえば、敵対視したり、嫉妬したりすることばかりクローズアップされてきましたが、今回のお互いをリスペクトして仲良くしている姿こそ、愛される女性像そのもの。薫さんがその理由を語ります。

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人間が、“嫉妬”を最も激化させるのは、ライバルの「才能」に対して。
だから、知性ある、才能ある女性ほど嫉妬深い?

カヌーの選手がライバルの飲み物に、ドーピングの禁止薬物を密かに混入させていたというショッキングな事件が起きたこと、まだ記憶に新しい。そういうことが日本で起きること自体、衝撃だった。日本人のメンタリティーでそこまではできないと思い込んでいたから。
ましてや陥れようとしたのは、ライバルでありながらも最も親しい選手。何かあると真っ先に相談を持ちかけてくる後輩を、致命的に裏切る形となった。こんなことがあるのだろうかと、何だかひどく哀しい気持ちになったもの。スポーツの世界にそんな卑劣極まりないことが起こるものなのかとそこに驚いたが、よく考えればスポーツの世界だからこそそういうことも起きがちなのかもしれない。

実はこの時に思い出したのが、女子フィギュアスケート界で起きた“スター選手襲撃事件”。アルベールビルオリンピックの銅メダリスト、アメリカのナンシー・ケリガン選手が何者かに膝を殴打されたのだ。犯行を疑われたのが、まさにこの時4位に終わったトーニャ・ハーディング選手。その4年後のオリンピックを目前に控え、アメリカ代表選考を兼ねた全米選手権で起きた出来事である。
後に逮捕されたのは、なんとハーディング選手の元夫だった。トーニャ自身は関与を否定したが、限りなく黒に近いグレー。日本でも連日報道されたが、誰がどう考えても、ハーディング選手が、ケリガン選手のオリンピック出場を阻もうとする犯行としか見えなかったのだ。少女漫画には、バレリーナがライバルのトウシューズにガラス片を入れたり的なストーリーが昔からあったけれど、現実にそういうことをやらせてしまうのが、ライバルへの競争心であり嫉妬、なのである。ちなみにこの事件、映画化され、近々上映されるので、ぜひ。

人間の嫉妬心を最も激しくかきたてるのは、相手の“才能”であると言われる。才能とは数値で表すことができないもの。試験の成績は点数できっちりと勝ち負けが決まるから嫉妬も及ばないけれど、才能はなかなか数字で示せないからこそ嫉妬を激化させるのだ。特にフィギュアのような採点競技だと、なぜ彼女の方が上なのか? とまともな判断力を持てなくなる。一般の職場でも同じこと。どちらがどれだけ仕事ができて、会社にとって必要なのかなどは数値では表せない。だからこそ、嫉妬が生まれやすいのだ。

不思議なことに、美貌に対してより、才能に対する嫉妬の方がエスカレートしやすく、心のバランスがくずれやすい。美貌だって点数にはできないのになぜ?目に見えるものは差が明快になりやすい上に、美しさは工夫と雰囲気次第でいくらでもカバーできるから、嫉妬の逃げ場が結構あるのだ。一方で才能への嫉妬は、自分にもそれなりの才能のある者しかもたないもの。そもそも嫉妬は知性がないとあまり生まれないものとも言われる。だからこそ才能への嫉妬が最も エスカレートしやすくなるのだ。

ライバルは切磋琢磨し、お互いを高め合うもの、と言うのはやっぱりキホン綺麗事。そう考えるのは仕方のないことなのである。ただここで、しかと見ておかなければいけないのは、嫉妬は何も生まない、何も得られない、それどころか全てを台無しにする感情。ライバルへの激しい嫉妬から一線を超えてしまった元選手たちは、当然のように選手生命を失い、人生設計は大幅に崩れている。嫉妬するだけ無駄、本当に無駄な感情だと言うこと、改めて肝に銘じたい。

ライバルを心からリスペクトし、仲良くできる精神性を持つ女こそ、
みんな大好きなのだ

そう、だからこそ、あの光景は世界中を感動させたのだ。ライバルへの嫉妬心は、どうにも人間の心のバランスをくずしてしまいがちだからこそ、今回のオリンピックでのスピードスケートで日韓メダリストがお互いを支え合う姿は、五輪史上に残る素晴らしいシーンとなった。

日本と韓国の間に澱のように溜まってきた積年の確執は、自分たち日本人と韓国人にしか実感できないもの。世界中が感動したと言ったけれど、それがいかに心打つことだったか、これは自分たちにしかわからない。ライバル同士の抱擁に感動したと言う以上に、何だか無性に嬉しくなった人が少なくないと思うのだ。私自身何だか異様に嬉しかった。何度も飽きもせず、あの映像を見続けたりして。
このシーンに日本以上に大きく反応した韓国はこれを、「リンクの氷も溶かす友情」と言うふうに表現したと言う。常に競い合っているように報道されがちな者同士が素直に心を通わせる姿は、見ている人すべての心をあったかくしたのは確かだった。

西洋の古い諺に「拳では絶対に握手ができない」と言うのがあるが、知らず知らず頑なに握り続けてきた意識の中の拳をちょっと開いてみる気になった人は少なくなかったはず。そうしたら急に体があったかくなり、嬉しくなる。人間みな本来は仲良くなることが大好きなのだ。
だから何より、私たちはあの2人が大好きになった。ライバルを愛せる精神性を持つ人をみな大好きだからこそ、あのシーンを飽きもず、何度も何度も何度も見続けられたのだ。その度に感動できるからもあるが、大好きになった2人を何度でも見たいと言う心理に他ならないのである。私たち日本人もあの韓国の選手を好きになり、韓国の人々も小平選手を好きになる。それ以上の日韓友好のエネルギーは無いわけで、お互いのトップ同士の会談と握手1000回分ぐらいのエネルギーがそこにはあった。それも、ライバル同士が嫉妬を乗り越えて友情を育むためには、心の広さはもちろんだが、お互いの才能をリスペクトできる知性と理性、バランス感覚が不可欠であることも教えられた。つまりぐるりと総合的に素晴らしい人間同士の関わりだからこそ、みんな何度でも目にしたかったのだ。

厳密に言えば、自分は金メダルを取れなかったのに金メダリストの懐に飛び込んで行けた李選手の心の広さが素晴らしいし、小平選手が自分に声援を送る日本の応援団に、次に滑る李選手たちへの気遣いから応援席に「静かにしてください」と言うジェスチャーを送った知性と理性ある対応も素晴らしい。何がどう素晴らしいか、ここはきっちり目を開けて見ておくべきだろう。

ちなみに、小平選手は今、男性たちの間で“最も結婚したい女性”に躍り出ているらしい。韓国でも李選手はそういう熱視線を浴びているはず。男は、女同士がライバル心をむき出しにすることを面白がっているはずなのに、逆にライバル同士がリスペクトし合い仲良くしているのを見ると、そういう女性には男として惚れてしまうのだそうである。

今回のことで学ぶべきは、嫉妬や悔しさを抑えて敵をも愛すことができる女性は、とにもかくにも愛されるということ。結婚したいと思わせるということ。今回の感動シーン、そこまで深く心に刻み、学びたい。

 

美容ジャーナリスト/エッセイスト
齋藤薫
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。「Yahoo!ニュース『個人』」でコラムを執筆中。『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)他、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)、『The コンプレックス 幸せもキレイも欲しい21人の女』(中公文庫)など多数。

『美的』5月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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