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2012.11.23

大高博幸の美的.com通信 (127) 『桃さんのしあわせ』『マリー・アントワネットに別れをつげて』etc. 試写室便り NO.33+映画館便り★

© 2012 GMT PRODUCTIONS – LES FILMS DU LENDEMAIN – MORENA FILMS – FRANCE 3 CINEMA – EURO MEDIA FRANCE – INVEST IMAGE ©Carole Bethuel

フランス革命勃発――。
宮廷朗読係の少女は、心酔するマリー・アントワネットから〈身代わり〉の命を受ける。フランスで最も権威あるフェミナ賞に輝いたベストセラー小説の映画化。
少女とベルサイユ最後の3日間――。
『マリー・アントワネットに別れをつげて』 (フランス・スペイン合作映画)
12月15日からロードショー。
詳しくは、myqueen.gaga.ne.jp/へ。

上映時間100分は、マリー・アントワネット物としては相当短かいと思いつつ観に行きました。
本作の第一主役は王妃マリー・アントワネットに任える朗読係の少女シドニーで、王妃は実質的に第二主役…。従って宮廷の使用人達の粗末で殺風景な個室や食堂の様子まで見学するコトができるのですが、バスティーユの襲撃や暴動の場面は表われず、スペクタクル的要素を第一に期待して観に行くと少々ガッカリさせられるかも。
しかしベルサイユ宮殿でのロケーション場面は見事だし、セットで再現された王妃の部屋の夜の場面など、卓越した照明技術の力もあって目を見張る程の美しさ。衣裳や調度品も絢爛豪華で、マリー・アントワネット物として観る価値は大いにあります。

美容業界人のひとりとして興味深かった場面を5つ、メモしておきます。
① 王妃は毎朝、お目覚めの寝台の中でシドニーの朗読を楽しむのですが、7月14日の朝は、「今日は小説よりもコレがいい」と言って”ファッション通信”的な印刷物を広げます。「中国風のボタンでポイントをつけるのが新しい流行です」などと書かれていて、この種の情報は昔から本質的に変わっていないと感じさせられました。
② ある時、不意に王妃から呼ばれたシドニーがオーデコロンを使う場面。彼女はコロンを胸と首すじにサッと撫でつけた後、手のひらについているコロンを二度、舐めます。当時の貴族達はコロンで”うがい”もしていたという話を何かで読んだ記憶があるのですが、ペロッと舐めて息を美化するという方法もあったんですね…。
③ 蚊に刺された腕を、朗読中にシドニーが ついポリポリと掻いてしまう場面。王妃は それに気づき、「ローズウッドの精油をここへ」と侍女長のカンパン夫人に命じます。そしてシドニーの腕に精油を擦り込みながら「これで腫れは引くはず」と言うのです。王妃は案外、優しい人だったのかも。
④ 王妃の あの髪はカツラです。この映画には、王妃がカツラを脱いでブラッシングを始める場面も出てきます。
⑤ 王妃が口紅を拭き取る場面。ティッシュペーパーのような何かでグイッと横に引っ張って、口角から頬までを汚していました。コレは真似してはいけません。唇を傷めてしまうのでNGです。

シドニー役のレア・セドゥ、王妃役のダイアン・クルーガーは共に好演。ポリニャック夫人役のヴィルジニー・ルドワイヤンは”顔立ちは美しいが心は野卑”という雰囲気が表情と動作に にじみ出ていて、それが意図的な演出であるなら功演です(ただし、あのような品のない女性を王妃が愛し、庇護した理由が よくわからない)。脇役で特に良かったのは、カンパン夫人役のノエミ・ルボフスキー。個人主義的な言動の中に、それとはベツの気質が見え隠れするところなど秀逸でした。また、衣裳係のベルタン夫人(女優名は不明)の微妙なキャラクターも面白かったです。

 

© 2010 Mediapro, Versátil Cinema & Gravier Production, Inc

懲りない大人たちの おかしさ、切なさ、愚かしさ!
ウディ・アレンが贈る軽妙酒脱なラブ・コメディ。
『恋のロンドン狂騒曲』 (アメリカ・スペイン合作映画)
12月1日からロードショー。
詳しくは、koino-london.jpへ。

『星に願いを』のボーカルと共に始まる この映画は、2組の結婚生活が破綻し、あれよあれよと言ううちに”4つの恋”へと枝分かれして行くという、一種の大ふざけ型ラブ・コメディ。ナレーションのうまさも手伝って、軽妙かつ辛辣なタッチで展開する98分の作品です。

数日前に『桃さんのしあわせ』を観て感動したばかりだったせいもあってか、僕は この映画の登場人物達には、ちょっと付き合いきれませんでした。
サイテーだったのは売れない作家のロイ(ジョシュ・ブローリン)で、悪い奴ではないにしても周囲に迷惑ばかりかけているし、おそらく彼の作家人生は○○の一件で一巻の終りでしょう。かなり気の毒で助けてあげたくもなったのは、バイアグラが必需品のアルフィさん(アンソニー・ホプキンス)。女子にありがちなカン違いから人生の軌道修正を余儀なくされる美人のサリー(ナオミ・ワッツ)。インチキ占い師の予言だけにすがって新たな人生へと突き進むヘレナさん(ジェマ・ジョーンズ)。以上の4人に、赤い服の女の子(フリーダ・ピント)、ド派手なコールガール(ルーシー・パンチ)、ラテン系のリッチな色男(アントニオ・バンデラス)、オカルト系ショップの経営者(ロジャー・アシュトン=グリフィス)が絡んで一騒動×4という按配…。

ひとつ深読みすべきは、”女子にありがちなカン違い”です。詳しくは書けませんが、こういうシチュエーションって若い女子群には よくある話。①相手の男の言動を勝手に解釈して心をときめかせ、②それがカン違いだったと後で気づき、③相手の男を勝手に恨むor憎む…というパターン。相手の男も想像力不足×不注意でいけないんですが、その点、この映画のサリーは聡明な女性だったので、③のパターンにまでは陥らなかったところが せめてもの救いでした。
エンドロールには、再び『星に願いを』が流れていました(流れていたはず…)。

 

《以下、映画館便りです》

その6 『バレエに生きる パリ・オペラ座のふたり』 (フランス映画、95分。ル・シネマにて鑑賞。詳しくは、alcine-terran.com/ballet/へ。)
バレエの名手ピエール・ラコットとギレーヌ・テスマーの軌跡を辿るドキュメンタリー。

記録と確認のためだけに撮影されたと想われる過去の映像(16&8mmフィルムとVTRによる)の数々は、画質としては決して良い状態ではないのですが、それでも演技・装置・衣裳の素晴らしさを、観る者に はっきりと伝えてくれます。相手役との距離を正確に保つ、体を預ける・支えるといった緊張の一瞬にも、顔の表情にまで神経を行き届かせたプロならではの姿を”接近した形”で観るコトができるのは、やはり何と言っても映像のおかげ。

特に印象に残ったのは、娘役を演ずるテスマーの可憐そのものの演技。バレエを踊る・踊らないに拘らず、体の動きと仕草の美しさについて教えられる点が多々あると思いました。

また、テスマーと共演した故ルドルフ・ヌレエフの演技の機敏さ・スピード感・切れ味の良さには、改めて感服させられました(ただ心残りは、予告編に捜入されていたはずの”ヌレエフが舞台に登場した瞬間、晴れやかな笑顔を客席に向けて贈る魅力的なワンカット”が本篇中になかったコト。まさか見落としたとは思えない…)。
ラスト近くには、素顔のマチュー・ガニオ(現代の若手人気No.1、王子様のような美しい顔と繊細な体形の持ち主)のレッスン風景が映し出されます。テスマーの指導に応じる彼の声を聞くコトもでき、このシーンはファンにとって最高のプレゼントとなるでしょう。もうひとり、名前を忘れてしまい恐縮ですが、若い男性エトワールのエネルギッシュな仕上げリハーサルのシーンが、また実に良かったです。彼はヌレエフの後継者的存在になって行くのでは?と感じました。

 


その7 『桃(タオ)さんのしあわせ』 (中国・香港映画、119分。ル・シネマにて観賞。詳しくは、taosan.netへ。)
この映画は淡々としていて感情の押しつけが全くなく、非常に良くまとまった優秀作だと感じました。エンドロールも終って場内が明るくなった時、観客の多くは まだ涙を拭いていましたが、いわゆる”お涙頂戴”的な作品ではありませんでした。脚本も演出も撮影も総合的に素晴らしく、本年度ベストワン級の作品であるコトは絶対に確かです。僕はチラシの文面と二枚の写真に惹かれ、都合がついたら観ようという程度に考えていたのですが、コレは とにかく観に行って本当に良かった…、できれば もっと若いうちに、30代前半ぐらいまでに観ておきたかったとも思いました。
ヴェネチア国際映画祭で、桃さん役を演じたディニー・イップが主演女優賞を受賞…。そのニュースが世界中に配信された後、この映画は各国の映画祭に招聘され続け、中国語圏では非アクション映画として異例の大ヒットを記録したそう。
13歳の時から60年間もリー家のメイドとして働いてきた桃さんは、生まれ落ちた時から天涯孤独の身でしたが、親から授かった性格が とても良かったようです。自分の境遇と立場を素直に受け入れ、メイドの仕事に誠心誠意打ち込んできた…。それが雇い主側にも十分理解されていたところに、桃さんのしあわせの種(タネ)があったのです。そして、この桃さんのしあわせが、そのまま観客のしあわせになってくるところが、この映画の最も素晴らしいところだと僕は思いました。
桃さんの穏やかさ・慎み深さ・思いやり・デリカシー・芯の強さ、そして人としての誇りの高さを自然な演技で表現したディニー・イップの素晴らしさ。そして もうひとり、桃さんが”かけがえのない人”だったと気づき、病に倒れた桃さんに献身的に尽くすロジャー・リー役(雇い主の息子で50歳ぐらい、独身の映画プロデューサー)を演じたアンディ・ラウの抑えた演技も、また とてもとても良かったです。
この映画は、ひとりでも多くの方に観てほしい。皆さんは友達と一緒に観に行ってください。男性諸君もぜひ!! そして観た人ひとりひとりの心の中に桃さんとロジャー氏が住むようになったら、それこそ最高のしあわせだと思えるのです。

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴45年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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