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2012.8.31

大高博幸の美的.com通信(114) 『ソハの地下水道』『コッホ先生と僕らの革命』 試写室便り No.30

©2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

自らを犠牲にしてまで真の教育を授けようとする教師と、心を閉ざして生きてきた少年たちの、感動の実話。
『コッホ先生と僕らの革命』 (ドイツ映画)
9月15日からロードショー。
詳しくは、kakumei.gaga.ne.jpへ。

この映画には とても好感を抱きました。サッカーに詳しくても詳しくなくても、夢や希望や信念、情熱や勇気を持ち続けたいと願っている人ならば、誰もが皆、好きにならずにはいられない愛すべき一編です。ところどころで涙がにじみ、時に微笑し、最終的には新鮮な森の空気を胸いっぱい吸い込んだような爽快感を与えてくれる映画…。「ヘンな たとえだなぁ」とは思いますが、たとえば夏目漱石、武者小路実篤、石坂洋次郎さんらが観たなら、「良かったよ。これは いい映画だから、あなた達も観ていらっしゃい」と口をそろえておっしゃるはず。そんな感じもしたのです。

以下、ストーリーをフライヤーから抜粋します。
「19世紀末、帝国主義下のドイツでは強烈な反英感情が高まる中、イギリスで生まれたサッカーは“反社会的”なものとされていた。そんな中、名門校にイギリスからドイツ初の英語教師が赴任してきた。コンラート・コッホ、後に“ドイツ・サッカーの父”と呼ばれる実在の人物である。
生徒たちは、イギリス=英語に強い偏見を持っていた。そこでコッホは英語に興味を持たせるため、授業にサッカーをとりいれた。サッカー用語を通じて英語を学び、同時に子供たちの 階級や国籍に対する差別意識に対し、公平に敵味方なく敬意を払う“フェアプレイ”の精神や、仲間を思いやる“チームプレイ”の大切さなども教えていく。外の世界に触れず、日々の生活に疑問を持つことなく過ごしていた生徒たちも、徐々にサッカーの虜となり、戸惑いながらも自らの意志を持ち、選んだ道を歩んでいこうとする。しかしコッホの この型破りなやり方は、多くの敵を作ることとなり、規律と慣習のみを信じる教師や親、地元の名士たちは 何とかしてコッホを学校から排除しようとする 」…。

上映時間は114分。コッホ先生と生徒達の間に徐々に育まれていく信頼感と連帯感…。そのプロセスが心地良かったのは、ストーリーの展開にワザとらしい強調や思わせ振りや気取りがなく、誰もが理解しやすい 誠実でストレートな脚色&演出が成されていたからだと思います。

コッホ先生役のダニエル・ブリュールは適役中の適役。生徒達もそろって好演しており、中でも、いじめられっ子だったカーリーヘアのヨスト・ボーンシュテット君(小柄ながら運動神経抜群)と、丸々と太ったオットー・シュリッカー君(体力は弱いが正義感は人一倍強い)が、特に愛らしく生き生きとしていました。
カラーの絶妙なコントラストと画面の抜けの良さに音の美しさも手伝って、ファーストシーンから観る者を物語に引き込み、観終えるまでには心の洗濯からアイロンがけまでしてくれる気持ちのいい作品です。ぜひ誰かと一緒に観てください。

©2011 Schmidtz Katze Filmkollektiv GmbH, Studio Filmowe Zebra, Hidden Films Inc.

ナチス占領下、ポーランドの地下迷宮。
その極限空間にユダヤ人たちを匿い続けた一人の男の真実の物語。
『ソハの地下水道』 (ドイツ・ポーランド合作映画)
9月22日からロードショー。
詳しくは、sohachika.comへ。

これは最高位にランクされて然るべき傑作です。まだ少し早すぎるのですが、本年度中に これ以上の作品が出てくるとは到底思えず、僕は“2012年度のベスト・ワン”と断言します。とにかく“冷徹”という形容がふさわしい脚本と演出によって、究極のパワーを持ち得た稀有な傑作。上映時間145分は想像した程には長く感じられず、全神経を集中して観ていたというのに疲労感を覚えませんでした。というよりも、むしろ観賞後、全身に気力が注がれたような充実感があって、驚かされた程でした。

昨年辺りから続々と公開されているナチスによるホロコーストを題材とした作品ですが、まず視点が新しくユニークです。主人公は迫害されたユダヤ人ではなく、オスカー・シンドラーや杉原千畝氏といったユダヤ人救済の歴史的英雄でもありません。この映画の主人公は、地下水道を職場とするポーランド人労働者。一応はクリスチャンでありながら常習的なコソ泥でもある中年の男…、名前をレオポルド・ソハという実在の人物です。

時は1943年、所はナチス・ドイツの占領下にあるポーランドの街ルヴフ(現在のウクライナ領リヴィウ)。ゲットー(ユダヤ人を隔離・居住させた区域)でのホロコースト(ナチスによるユダヤ人大虐殺)が加速する中、住居の床を懸命に掘り続け、地下水道へ逃れようとするユダヤの一団がいた。だが抜け穴が通じて地下水道へと逃げ込んだ彼らは、そこで配管工のソハと その相棒に出くわしてしまう。ナチスに通報すれば一名につき500ズチロの報奨金を与えられるが、狡猾なソハは、まずは彼らを匿う見返りに金品をせしめよう、通報は その後だと思いつく。ソハは迷路そのものの地下水道の構造を、誰よりも知りつくしている男である。ところが子供を含む一団は驚く程の人数で、隠れ場所への移動や食料の調達も容易ではなかった。しかも執拗に“ユダヤ人狩り”を続ける将校らが目を光らせ、ソハの妻と相棒は“ユダヤ人を匿った罪による処刑”の恐怖におののいていく。自らも激しい精神的重圧を感じ始めていたソハは、見返り金が底をついたユダヤ人達に「俺は もう手を引く」と言い渡す。
しかしソハの心は既に激変していた。同じ生身の人間である彼らに寄り添い、その窮状を目の当たりにしてきたソハは、「彼らを守り抜く」という強い衝動に突き動かされる。地獄さながらの暗闇と悪臭の中で、死の恐怖に戦慄する彼らの命運は、こうしてソハの手に委ねられた――。
それから14ヶ月後、ロシア軍による“解放の日”が訪れた時、果たして彼らは再び、陽の光を浴びることができたのだろうか。

観賞に耐えられない読者がいても当然でしょう。でも、この映画は人として観るべき映画です。
私事で恐縮ですが、僕は小学5年か6年生の時、初公開されたドキュメンタリー映画『わが闘争(身の毛も よだつ実写映像の連続)』と、劇映画『チャップリンの独裁者(ヒトラーとナチスに向けて投げつけられた爆弾的反戦映画)』を封切館で観ました。自分の意志で、ひとりでこっそりと観に行ったのです。その日は余りのショックに夕食もやっとの思いで済ませた記憶があるのですが、その第一歩があったからこそ、その後、目を覆いたくなるような映像も直視できるようになれたのです。
この映画には悲惨な場面が当然幾つも出てきますが、それ以上に感動的な、人間の魂の高潔さが描き出されています。観る者を精神的に強く、また優しくピュアにもしてくれる映画ですから、勇気を出して ぜひ観てください。この連載でも紹介した『黄色い星の子供たち』、『サラの鍵』、『善き人』、『あの日 あの時 愛の記憶』等に勝るとも劣らない、正しくは明らかに超越した傑作です。

この拙ない文章では不充分なので、僕が共感を覚えた映画評を6つ、最後に付記させていただきます。

ニューヨーク・デイリー・ニュース
鑑賞には苦痛が伴うが、決して忘れられない作品である。

ニューヨーク・オブザーバー
アグニェシュカ・ホランド監督の美しい演出、繊細な演技、巧みな脚本によって語られる真実の物語。戦争という暴力の中で、人類が他者を傷つけるために、あるいは他者を守るために行った並外れた行為を、深い信念を持って妥協することなく描いた、非常に重要な作品。

ウォールストリート・ジャーナル
並外れた素晴らしさ。優れてドラマティック。ここには真実ゆえに生まれるサスペンスがある。

フィルム・ジャーナル・インターナショナル
この映画は感傷に陥ることなく、忘れがたい物語を紡いでいる。

ニューヨーク・タイムズ
地上と地下の対比が、美しく、かつ感情に訴える表現で描かれており、それがまるで夢の中の出来事のような独得の効果をもたらしている。感動的で温かく、鑑賞後に満足感を得られる傑作だ。

ロサンゼルス・タイムズ
典型的なホロコースト映画ではない。演出のスタイルは冷静で、ほとんど個人的な感情を差し挟んでいない。もしも そこに語るべき物語があるのなら、余計な訴えなど入れずとも、数々の出来事そのものが自ら語り出すのだと 主張しているかのようでもある。

P.S. ラストシーン(“解放の日”の場面)でのソハと その妻の短いセリフと表情まで、気を抜かずに しっかりと聞き、観ていてください。また、その後に映し出される字幕も、しっかりと読んでほしいです。
P.S. 若い女性には あまり観せたくない雰囲気のセックスシーン(レイプシーンではなく、露骨な描写がなされているワケでもありませんけれど)が、前半に出てくるコトを お断りしておきます。しかし後半には、神々しいまでに美しい、感動的なセックスシーンも映し出されます。どちらも“人間的な営みの描写”と捉えていただければと、僕は考えています。

とても長くなりましたが、最後まで読んでくださった皆様に感謝します。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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