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2016.4.19

【大高博幸さん連載 vol.337】試写室便り 第114回 『追憶の森』『緑はよみがえる』『山河ノスタルジア』

名称未設定-2
(C)2015 Grand Experiment, LLC.

愛は思わぬところで、あなたを待っている。

衝撃、そして胸に沁みる感動の結末。
泣ける、ミステリー。

追憶の森
アメリカ/111分
4.29 公開/配給:東宝東和
tsuiokunomori.jp

【STORY】 舞台は 富士山の北西に広がる 青木ヶ原の樹海。そこを人生の終着点にしようと決めて日本にやって来たアメリカ人 アーサー( マシュー・マコノヒー )は、原生林が鬱蒼と生い茂る森の中で、出口を求めて さまよう日本人 タクミ( 渡辺 謙 )と出会う。怪我を負い、寒さに震えているタクミをアーサーは放っておくことができず、一緒に出口を探して歩き始める。しかし、まるで森の魔力に囚われてしまったかのように 道は どれも行き止まりで、方向感覚を失った2人は 厳しい自然との闘いを強いられる。その過酷な状況下、運命共同体となったタクミに心を開いていくアーサー。やがて彼は、樹海への旅を決意させた ある出来事を語り始める……。( プレスブックより )

映画は 片道切符を手にしたアーサーが 日本へ到着する場面に始まり、間もなくタクミと共に 樹海を さまよう場面へと続きます。やがて ふたりは 死を決意した経緯を話し始め、回想場面として アーサーと彼の妻 ジョーン( ナオミ・ワッツ )との苦汁の日々を映し出します。

全編を通じて 僕が最も興味を掻き立てられたのは、不可思議なタクミの存在でした。「事業に失敗して自殺の道を選んだ」とは言うものの、いったい彼は何者? それが 観客ひとりひとりの想像力と解釈に委ねられているところが、本作のひとつの特徴です。さらに タクミが発する言葉の中に、アーサーが後に理解するに至る〝キーワード〟が散りばめられている点も 見逃せません。

主演のふたりは、どちらも相当に難しい役どころを好演しています。
M・マコノヒーは、タクミを助けずにはいられなくなる男としての説得力を 本質的に備えている上、ラストでの晴れ晴れとした表情に 彼特有の魅力を発散しています。
渡辺 謙の演技には 意図的に細心の注意が要求されていたはずで、見せ場が用意されていない点は残念ながら、彼一流のコントロール力が 見事に功を奏しています。
N・ワッツ演ずる〝思い切りの悪い妻〟の言動には 少々辟易させられましたが、演技としては素晴らしく、彼女の最近作中でのベストという気がしました。

ゾーッとするほど忌まわしい、不気味 極まりない樹海のイメージが 何よりも強く残りはするモノの、実は 本作は 惹句にある通りの〝愛〟に関する人間ドラマ。〝追憶の森〟は 生と死の世界を繋ぐ森であり、アーサーが ジョーンへの愛情を 再発見・再確認するための 試練の森でもあったようです。

これは 興味本意で観ても、胸に沁みる感動を もたらす ユニークなエンターテインメント。
監督は、『ミルク』『永遠の僕たち』( 通信 80 )『プロミスト・ランド』等の ガス・ヴァン・サント。

P.S. 本作の舞台であり、実際にロケーションも行われた青木ヶ原は、山梨県南部・富士山北西の麓に広がる 大樹海に覆れた高原です。大規模な鉄鋼床が存在するため、コンパス等の方位測定機器は使用不可能。一度 踏み入ったら 二度と出られない、日本で最も呪わしい場所として知られています。皆さんは 決して近づかないようにしてください。でも、なぜ あれほど簡単に入れるようになっているのか? アーサーが立った入口には 標識が立っているだけで、門もバリケードも ありませんでした。

 

 

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愛する母さん、
今夜の山は
なんて美しいのだろう。

世界の巨匠 エルマンノ・オルミ監督が、
万感の思いをこめて、亡き父に捧げる物語。

緑は よみがえる
イタリア/76分
4.23 公開/配給:チャイルド・フィルム、ムヴィオラ
www.moviola.jp/midori

【STORY】 春が かならず めぐりくるように、人の世界も いつか美しく よみがえるのだろうか。
イタリア・アルプスのアジアーゴ高原。冬は雪で覆われ、夏には緑が生い茂る。かつて ここで戦争があった。1917年 冬、第一次世界大戦の さなか、イタリア軍兵士たちは 雪山の塹壕に身をひそめ、家族や恋人から送られてくる手紙だけを心の支えに、厳しい任務についていた。そんな時、まだ少年の面影を残す 若い中尉がやってきた……。( 試写招待状より )

幼少期に目にして 忘れられずにいた父の涙の意味……。本作は『木靴の樹』( 通信 332 )の世界的巨匠 E・オルミ監督が、父から託された戦争の記憶を 雪のイタリア山中に映し出した珠玉の ヒューマンドラマ。「父はヒューマニズムに駆られ、19歳で第一次世界大戦に従軍しました。しかし 過酷な戦場での体験は、その後の父の人生を変えてしまいました。戦友を思い、父が涙するのを見たのは 一度きりではありません」と、オルミ監督は語っています。

映像は、黒にアンバー、または 黒にインクブルーを重ねたダブルトーンに近い、モノクロ映画のような印象……。静謐な雪原、山の前哨地に掘られた塹壕、そして兵士たちの粗末な日用品等が映し出される導入部から、この上なく美しい場面が続きます。
上映時間は 僅か 76分( 『木靴の樹』は 3時間を超す長篇でした )。ナポリ出身の兵士の歌声に 敵軍オーストリアの兵士たちが称賛の声を送るという『戦場のアリア』や『戦火の馬』のようなシーンは含まれているものの、敵の陣内にカメラが入るコトはなく、銃後を守る家族たちの場面も出てきません。塹壕内の場面は 形式としては舞台劇的で、若い中尉を伴って訪れる少佐には いわゆるブラスハット的な非情さがなく、登場人物全員からは 仲間の痛みを自分のコトとして受け止めている様子が伺えます。物語には 劇的な展開が用意されているワケではないのですが、兵士たちが困窮と疲弊の度を深めていく姿を映し出していきます。

全ての場面が印象的でしたが、想い出すまゝに記すと……、
1) インフルエンザの薬を要請したにも拘らず マラリアの薬が届くという、情なくも ありがちな場面( 1917年は スペイン風邪が大流行して、ヨーロッパ全土で大勢の人が亡くなった年。本作には「バルカン半島が発生地」という台詞が出てきます )。
2) 4.5メートルの積雪の上に、兎と狐の姿が見える数カット。また、塹壕内では ベッドの周囲に餌を置き、それを食べに来る子鼠を いとおしげに見つめる兵士の場面もありました。
3) 照明弾がユラユラと落下しながら、落葉松(カラマツ)の木を浮かび上がらせる場面。その松の美しさについて語り合う 見張り役の中年兵ふたりの台詞。及び、その松が 砲弾によって燃え上がる場面。
4) 兵士宛の郵便( 家族や恋人からの手紙 )が一同に手渡される場面で、自分への郵便がなかったために落胆する一兵士の表情( 彼らが食糧以上に待ち望んでいるのは、愛する者からの手紙なのだと痛感させられます )。
5)「戦争は いずれ終る。それに然るべき時が来れば…」「然るべき時など来るものか。第一、あとで正義など得られても 何の意味がある? それでは遅い。私は軍位を返上し、尊厳を取り戻します」( 少佐と大尉との間で交わされる台詞 )。
6 「歌を唄え」と上官(?)に請われた ナポリ出身の兵士の台詞。
「歌は命令できません。軍規に歌は ありません。それに 幸せでなければ 歌は唄えません。幸せでない者の歌など、誰も聴きはしません」。
7) 大尉に替わって部隊を指揮するコトとなった若い中尉が、故郷の母親宛に手紙を書く場面。
8) 後退の命令が届き、死んだ兵士たちを仮埋葬するために、仲間たちが雪を掘る場面。
9) ラスト間際に挿入される実写(記録)映像。
10) ラストに映し出される、羊飼い トニ・ルナルディの言葉。
「戦争とは 休む事なく大地をさまよう 醜い獣だ」。

 

(C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano
(C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

中国の片隅で 別れた息子を想い、
ひとり 故郷に暮らす母。
息子は異国の地で、
母の面影を探している。
母と子の強い愛から浮かびあがる、
変わりゆく この世界。変わらぬ想い。

名匠 ジャ・ジャンクー監督 最新作。

山河ノスタルジア
中国=日本=フランス合作/125分
4.23 公開/配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
www.bitters.co.jp/sanga

【STORY】 1999年、山西省・汾陽(フェンヤン)。小学校教師のタオは、炭鉱で働くリャンズーと 実業家のジンシェンの、二人の幼なじみから想いを寄せられていた。やがてタオは ジンシェンからのプロポーズを受け、息子・ダオラーを授かる。
2014年。タオは ジンシェンと離婚し、一人 汾陽で暮らしていた。ある日 突然、タオを襲う父親の死。葬儀に出席するため、タオは 離れて暮らすダオラーと再会を果たす。そこで、彼が ジンシェンと共に オーストラリアに移住することを知る。
2025年、オーストラリア。19歳のダオラーは 長い海外生活で 中国語が話せなくなっていた。父親と( の間に )確執がうまれ 自らのアイデンティティを見失うなか、中国語教師 ミアとの出会いを機に、かすかに記憶する 母親の面影を探しはじめる。( プレスブックより )

カンヌ国際映画祭での上映後、5分以上にわたって スタンディングオベーションが続いたという、J・ジャンクーの最新作。別れて暮らす母と子が 互いを想い合う心、ひたむきな愛情をテーマとした 一編の叙事詩で、監督は 次のように語っています。

「『山河ノスタルジア』を作った理由のひとつに、私と母のことが関係しています。私は 2006年の『長江哀歌』を撮った前後に 父を亡くしました。その頃 私は とても忙しく、母は山西省の汾陽に一人で暮らしていました。私は 故郷へ帰る度に母にお金を渡し、着るものや食べるものに不自由しないようにしてあげました。ところが ある日、母はどこか緊張していて、楽しそうじゃないことに気づきました。母が本当に必要だったのは、お金でも物質的なものでもなく、私の存在だったのです。いつの間にか消費社会の中に私も組み込まれて、お金で人を慰められるんじゃないかという風に思ってしまっていたのです。
ある日、母は 私に突然、汾陽の実家の鍵を渡しました。「これは あなたの家の鍵だからね」と母に言われ、私はハッとしました。長いこと 故郷を離れていた私は、いかに自分が 彷徨い 漂泊する生活を送っていたのかと 強く思いました。
小さな田舎から都会へ出てくる、仕事のために点々と違う街へ移っていく。多くの人は 自分の可能性を求めて生きています。ところが、同時に失うものもあります。僕にとっては それが鍵だったのです。そして、そのことを私に教えてくれたのは「時間」だったと思います。
2013年に『罪の手ざわり』を撮影し終わって、私の興味は 生きている人たちのプライベートな気持ちへと移りました。本作では、時代の流れに影響を受けている人たちの「感情」に焦点を当てています。ぜひ、彼らの細かい心のひだに 触れてみてください」。( 2015年11月、東京フィルメックス来日時のインタビューより。一部省略 )

映画は 中国が飛躍的発展を遂げた’90年代末に始まり、2014年を挟んで 未来である’25年までを描いていますが、’99年の章は スタンダードサイズ( 縦 1:横 1.33 )、’14年の章は ビスタビジョンサイズ( 1:1.85 )、’25年の章は シネマスコープサイズ( 1:2.39 )で映し出すという、『グランド・ブダペスト・ホテル』( 通信 226 )にも使われていたような演出が施されています。

僕が感動したのは ’14年以降の章で、正直に言うと 最初の章に関しては、素直な気持ちで観るコトができませんでした。
その理由は、ジンシェンの性格描写にあります。彼の人生の目的は お金儲けが 一番 or 全てで、幼稚と感じさせる程の見栄っぱり。お金さえあれば万事が思い通りになるという考えで、幼なじみのリャンズー( タオと結婚したいジンシェンにとって邪魔な存在 )を露骨に追い払いもする 厚顔無恥な男……。そんなジンシェンを、頭が良い上に人間を観る眼も持っているはずのタオが 伴侶に選ぶという点、僕としては はなはだ疑問でした。「あの男と結婚するのか?」と父親から聞かれたタオが、その一言にほとんど反応しなかった点を含めて……。この辺り、ジャンクー監督の最高傑作『長江哀歌』の奥深さやデリカシイと比較すると( 比較するのが いけないのかも知れませんが )、相当に異質な印象を僕は受けました。

最も良かったのは、19歳になっているダオラー( タオの息子 )が 中国語教師のミア( シルヴィア・チャン、適役 好演 )に惹かれていくプロセスから、忘れかけていた母親の面影を追い求めるに至る 最後の章でした。
簡潔に言うと、『山河ノスタルジア』は『罪の手ざわり』よりは遙かに良いが、『長江哀歌』の高い芸術性には及ばないというのが、僕の正直な感想……。

しかし、この種の題材に惹かれる映画ファン、及び ジャンクー監督のファンの方々にとっては、決して見逃せない作品です。それだけは 絶対に確かです。

 

 

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ビューティ エキスパート 大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾 http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

 

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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