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2015.12.1

大高博幸の美的.com通信(317) 『サンローラン』『アンジェリカの微笑み』『リザとキツネと恋する死者たち』『母と暮せば』『スヌーピー』 試写室便り Vol.105

saintlaurant
© 2014 MANDARIN CINEMA – EUROPACORP – ORANGE STUDIO – ARTE FRANCE CINEMA – SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

女性の生き方まで変えたモードの帝王、
イヴ・サンローラン。
彼の人生で最も輝き、
最も堕落した10年間に迫る。

自分が創った〝怪物〟と生きなくては――

サンローラン』
フランス/151分/R15+
12.4 公開
SaintLaurent.gaga.ne.jp

【STORY】 1967年、イヴ・サンローランは 世界最高のデザイナーへの道を駆け上がっていた。だが、次第にイヴは 新しいデザインを生み出すプレッシャーに押し潰されていく。ブランドの経営を一手に引き受け、人生のパートナーでもある ピエール・ベルジェの保護者のような愛も 時に重かった。70年代に入り、ミューズとしてイヴを支えるルルや、悪い遊びにふけるモデルのベティ、そして 危険な愛人 ジャックらと刹那的な快楽を追い求めているうちに、遂にイヴは 1枚のデザイン画も描けなくなってしまう――。(プレスブックより。一部省略)

ドキュメンタリー映画『イヴ・サンローラン』(通信(54))とも、劇映画『イヴ・サンローラン』(通信(244))とも異なる視点で描かれた ベルトラン・ボネロ監督作品(劇映画)。サンローランのキャリアを追うというよりも、彼の創造者としての苦しみと、それ以上に 愛と性・魂と肉体の葛藤に的が絞られています。

とてもとても驚かされたのは、彼が ゆきずりの男と遊ぶために 危険な場所へと出向く数場面。さらに寝室の場面には、サンローラン(ギャスパー・ウリエル)と ベルジェ(ジェレミー・レニエ)の全裸シーンが〝ボカシなし〟であったコト(試写だからなのか否かは不明ですが、全てが鮮明に映し出されていたので 本当にビックリ。加えて、ジャックの部屋での乱交パーティシーンにも全裸の男が出てきました)。

しかし 最も印象的だったのは、スポンティーニ通りのメゾンで、サンローランが男物仕立てのスーツ(「スモーキング」)を、上顧客のドゥーザー夫人(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)に試着させる場面。上顧客でありながら謙虚で 素直で自然な態度のドゥーザー夫人と、彼女に魔法をかけていくサンローランとの やりとりの素晴らしさ。サンローランは自信を持てずにいる夫人に、①数連のネックレスと、②メタリックなベルトをつけさせ、③「髪を下ろして、ラフに ふくらませて」、④「手をポケットに」、⑤「そう。リラックスして、しなやかに歩いて」とアドヴァイスする。「赤い口紅をつけよう」とも…。
この場面、特にテデスキの演技が見事で、類まれな〝大人の女の美しさ・魅力〟が 画面一杯に溢れるようでした(あまりにも彼女が素晴らしかったので、僕は 試写をスルーした 彼女の出演作『ローマに消えた男』(11.14より公開中)を、後で追いかけて観たほどです)。

その他、忘れられない場面の数々……。
1) サンローランと母親との数場面(そのひとつで、彼が電球の換えかたさえ知らない お坊ちゃんであるコトが示される)。
2) サンローランが、お針子さんたちを心から大切にしていたと分かる数場面。
3) サンローランの命を守るために、ベルジェが ジャック(ルイ・ガレル)の部屋へ押しかける場面(「君はジゴロか売春夫か!」とベルジェが怒鳴った後、扉が閉じられる)。
4) 姿を消したジャック(カール・ラガーフェルドの愛人でもあり、後にエイズで他界する)へ、サンローランが綿々とラヴレターを書く痛ましい場面。
5) ラスト近くのコレクションの場面。アナイス・ロマンが再現した衣装の完璧さ、それらを着こなしたモデルたちの動きの華麗さ。
6) 晩年のサンローランを演じている ヘルムート・バーガーの出演場面。特に 退職した元お針子さんと雑談する場面での 満面の笑顔。たゞし、彼自身が 25歳の頃に主演した昔の映画を TVで観ているという演出に関しては、相当 疑問。あれは そうするべきではなかったと思います。

サンローラン役の ギャスパー・ウリエルを観るのは『ハンニバル・ライジング』(’07)以来ですが、歳を重ねた気がしないばかりか、特にヒップラインが信じられないほど若く美しい。しかも 観ているうちに、本物のサンローランかと錯覚させるから立派です。
ベルジェ役の ジェレミー・レニエは、ギョーム・ガリエンヌ(通信(247)(244))以上に適役好演。
ジャック役の ルイ・ガレルは、僕の印象では 柄のみの感じ。しかも サンローランとの長い長いキスシーンでは、役の退廃的な雰囲気が稀薄でした(ほゞ正面から撮られた多くの場面での顔と、キスシーンでの横顔とのイメージが、別人と思えるほど違ったのです)。
ルル・ドゥ・ラファレーズ役の レア・セドゥは 凡庸。ルル役を魅力的に演じられるのは、若かりし頃の ヴァネッサ・パラディぐらいなのかも知れません。

 

anjellicanosmile
(C)Filmes Do Tejo II, Eddie Saeta S.A., Les Films De l’Après-Midi,Mostra Internacional de Cinema 2010

夭逝した美女の最後の写真を撮った青年イザクに 信じがたいことが起きる。
不可思議な微笑みが引き寄せた ふたつの魂――。

世にも美しい愛の幻想譚

アンジェリカの微笑み
ポルトガル=スペイン=フランス=ブラジル合作/97分
12.5 公開
crest-inter.co.jp/angelica/

【STORY】 ポルトガルはドロウ河流域の小さな町。カメラが趣味の青年イザクは、ある夜、若くして亡くなった娘アンジェリカの写真撮影を依頼され、町でも有数の富豪の邸宅を訪れる。白い死に装束に身を包み、花束を抱えて横たわる かの娘にカメラを向けると、その美しい娘は 突然 瞼を開き イザクに微笑みかける。その瞬間、イザクは雷に打たれたように恋に落ち、アンジェリカの虜になってしまうのだった。(プレスブックより。一部省略)

日本の怪奇譚、特に「牡丹燈篭」あたりと相通ずる 謎めいた魔術的な世界…。これは 現役最高齢の監督として知られ、世界中の映画作家から尊敬されてきた 巨匠 マノエル・ド・オリヴェイラ(1908-2015)が、2010年、101歳の時に発表…、日本では公開が待ち望まれていた〝幻の傑作〟です。
昼も夜も 取り憑かれたかのようにアンジェリカの幻影を追い求める、品行方正なイザク青年。その恋の顛末を描くオリヴェイラ監督(脚本も)の語り口は、正に錬金術の域。特に イザクのもとにアンジェリカが現われる数場面は、『霊魂の不滅』(1920、ヴィクトル・ショーストロム監督作品)に代表される サイレント映画時代からの二重撮影法によるもので、ふたりが抱き合って空を飛ぶ夢の場面は、シャガールの絵画「恋人たち」を想い出させもする…。ちょっと奇妙で とても不可思議、ロマンティックでいて スピリチュアルでもある世界に興味を抱く方々にとって、コレは必見の作品です。

以下、印象に残った字幕と台詞……。
1) 「遥かなる天の百合よ 枯れても また芽生えよ 我らの愛が滅びぬように」(映画の冒頭に示される、19世紀のポルトガルの詩人 アンテロ・デ・ケンタルの詩の一節)。
2) 「イザク君は自分を語らない男だし、誰も彼の過去を知らない…。オルテガ・イ・ガセットいわく、〝人は 人と人との環境である〟。そう、今 起きていることは、すべて過去の延長なんだ」(イザクと同じ下宿屋に暮らす 博学の老人 マティアスが、イザクの健康を気づかう家主の マダム・ジュスティナらに言う台詞。)

よく分からなかったのは、度々画面に登場する物乞いの男。何か重要な意味があるはずですが、それが僕には分かりませんでした。彼の発する短い台詞に その意味が隠されているのでしょうが、どなたか、教えてくださる方は いませんか?

 

©33BLOCKS ALL RIGHTS RESERVED.
©33BLOCKS ALL RIGHTS RESERVED.

1970年代のブダペストを舞台に、
ヘンテコ昭和歌謡が嫉妬のリズムを誘う、
甘くてブラックな大人のおとぎ話。

ハンガリーでハリウッド映画を凌ぐ
異例のヒット!

リザとキツネと恋する死者たち
ハンガリー/98分
12.19 公開
www.liza-koi.com

【STORY】 日本の恋愛小説と、彼女だけに見えるユーレイの日本人歌手〝トミー谷〟が心のよりどころのリザ。30歳の誕生日に 住み込み先の元日本大使館未亡人に許可をもらい、素敵な出会いを求め 外出するが、その間に未亡人が殺害されてしまう。刑事 ゾルタンが捜査を命じられるが、リザに殺人の気配はない…。恋に恋する彼女が巻き込まれる連続殺人事件。その影にチラつくキツネの呪い。果たして孤独なリザに 幸せはやってくるのか――。(チラシより)

コレは とてもユニークな〝甘くてブラックな大人のおとぎ話〟。But、〝ブラック〟の度合いは強くはなく、むしろ 無邪気でキュートな内容です。日本びいきの ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督(ハンガリーで超売れっ子の CMディレクター。本作は 彼の長篇第 1作)が、短篇映画祭に出席するため 日本の那須を訪れた際、「九尾の狐伝説」(美しい狐の化身に恋をした男たちが、次々に死んでしまうという昔話)に魅せられて映画化したという作品。世界三大ファンタスティック映画祭の内のふたつで、グランプリと審査員賞&観客賞を受賞するなど、各国で絶賛を博しています。

舞台は’70年代のレトロなブダペスト。主人公は 恋愛小説のような出会いを夢見る 恋に恋する乙女のリザ(日本にも大勢いそうなタイプの女子)。相手役は ヘンテコな歌謡曲を歌い踊るユーレイのトミー谷(トニー谷にあらず)。そして映像と音楽は、ジャポニズムとヨーロピアンテイストが融合した独得なニュアンス。この映画、実は あるメッセージを隠し持っているのですが、マスコミ試写の会場では爆笑の連続…、コレは理屈抜きで楽しめる作品です。(たゞし、理屈っぽすぎる上に気難しいタイプの誰かとは、一緒に観に行かないほうがいい)。

リザ役の モーニカ・バルシャイは、撮影時の実年齢41歳前後。10歳も若い役を演じているので、クロースアップでは少々痛い感じもありましたが、少女風の30歳女子の雰囲気を自然に表現しています。「コスモポリタン」の読者風に変身する場面や、着物姿の妖艶な美女となって登場するエロティックな場面では、相当ドッキリもさせられました。
トミー谷役の デヴィッド・サクライは、日本人の父とデンマーク人の母を持つ コペンハーゲン生まれ、35歳前後の俳優(東京で10年ほどバーテンダーなどをしながら役者としての修業を積み、2008年にデンマークへ戻り、2010年にアメリカの アクション・オン・フィルム映画祭で〝ブレイクアウト・アクション・スター賞〟を受賞したという経歴の持ち主)。ジャケットもパンツも 激しく動く度に破れるのでは? と心配になるほどで、腰を振ってのダンスは デビュー当時の エルヴィス・プレスリーをダサくした感じ。そこが何ともチャーミングで、読者の皆さんの中には、彼に対して母性愛的な感覚と共に、性的魅力を同時に感じてしまう方が少なくないでしょう。

リザの一番の愛読書のタイトルは「桃色の空の下で」。モチロン、架空の恋愛小説だと思いますが、そのカヴァーに 1955年の東宝映画『浮雲』(林芙美子原作、成瀬巳喜男監督による、その年のベストワン作品)で、幸田ゆき子役を演じた高峰秀子のポートレートスティルが印刷されていたコトには、相当 驚かされました。あれ、東宝から使用許可を受け、使用料の支払いも済ませたのかしら? と、ちょっと気がかり(笑)。

 

(C)2015「母と暮せば」製作委員会
(C)2015「母と暮せば」製作委員会

やさしくて、悲しい。
山田洋次監督が長崎を舞台に描く、
母と息子の感動作。

松竹120周年記念映画

母と暮せば
日本/130分
12.12 公開
hahatokuraseba.jp

この映画、マスコミ試写会のスケジュールに合わせられず、実は未見(公開後に映画館で観るつもり)なので、今回は紹介のみで失礼させていたゞきます。
試写招待状には ストーリーが記されていなかったので 詳しくは不明ですが、キャッチコピーは「もう息子には会えないと、思っていました」。舞台は第二次世界大戦後の長崎で、吉永小百合演ずる母のもとへ 二宮和也演ずる息子が還ってきて…という話のようです。
題名がいいし、監督は山田洋次、主演は吉永小百合、音楽は坂本龍一…。きっと全観客の琴線に触れる内容であり、相当なヒット作になるだろうと想像しています。

 

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. PEANUTS © Peanuts Worldwide LLC
© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. PEANUTS © Peanuts Worldwide LLC

世界で最も愛されている
ユニークなピーグル犬、スヌーピーが、
3D/CG アニメーションとして初登場!

みんな、だれかのだいじ。

I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE
アメリカ/88分
12.4 公開
/SnoopyMovieJP

この映画も未見のため、紹介のみで失礼させていたゞきます。
原作者 チャールズ・M・シュルツが連載を開始してから65周年。本作は原画からスキャンした画像を元に「理想的なライン」を探すという途方もない作業を重ね、3Dのリアルな質感と 手書きの原画の温もりとをマッチさせた映像が セリングポイントとなっています。
大空を舞台にしたダイナミックなアクション + 胸を熱くさせる チャーリー・ブラウンとの友情を描いた内容で、脚本は 原作者の息子 クレイグ・シュルツと その息子である ブライアン・シュルツら。監督は『ホートン ふしぎな世界のダレダーレ』の スティーブ・マーティノ。
抱き合っているチャーリーとスヌーピーの表情 +「みんな、だれかのだいじ。」というキャッチコピーの あたゝかさ…。コレは観ずにはいられませんよね!

 

 

 

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ビューティ エキスパート 大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

 

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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