臨床医、研究者が説く! 脳と肌、マインドと美容との関連とは?|美的GRAND

せめて肌くらいは〝陽キャ〟でいたい! 控えめに願ったはずが、美容の力ってスゴイんです。肌を明るくすると心も明るくなって体も元気になって人生の幸福度まで高まっちゃう夢のような話。肌と脳とが相互に関連して高め合うメカニズム、最前線のエキスパートに話を聞きました。
心と肌、同時に上向く!陽キャ肌のためのスキンケア学
“キレイになると、外に出かけたくなり、人と会いたくなる。行動が変わる。つまり人生が豊かになっていく”
美容はパワー。行動を変えるスイッチが内面から入る
闘病のため休職していた女性へ施術を行ったことが、美容医療を追求する大きなきっかけとなったと語る中村さん。
「つらい治療がひと段落したので会社に復帰したい。でも闘病でやつれてしまって外に出る自信がないという患者さんに、ヒアルロン酸注入で肌をふっくらとさせる施術をメインに行いました」
ひと通り治療を終え、無事社会復帰して再発もなくめでたし、めでたし。でもこの話には続きがあるのだという。
「キレイになってうれしいと、彼女はその後もクリニックを訪ねてくれました。その度に、髪型が変わったり服装が華やかになったりとおしゃれになっていきます。初診のときはすっぴんで覇気のなかった方が、メイクをして楽しそうにされています。『今度同窓会に出るから、パーソナルトレーニングも始めたの』と歩く姿までハツラツと若々しく。自信を取り戻したことで、どんどん前向きに行動が変わっていったのです」
それまで整形外科専門医として、ひざが痛い、腰が痛いという患者さんにリハビリ指導を行っていた中村さん。
「『この体操を1日10回だけでもするといいですよ』とプリントアウトして渡しても、続けられる人はなかなかいません。周りの人がどれだけ熱心に勧めても、本人のやる気スイッチが入らない限り、行動は変わらないのです。でも、美容はそのハードルをやすやすと越えます。キレイになってうれしくなると、誰に強制されることもなく行動が変わっていきます。外に出かけたくなるし、人と会いたくなる。結果、行動範囲や人との交流が広がって人生が豊かになります」
近年、喫煙や肥満よりも孤独こそが老化リスクを高めるという研究報告も。
「人間というのは、団体生活で生きる動物です。外に出かけて人と交流し、社会とのつながりを維持することは健康長寿に直結します」
美容を味方につけると、健康になるための努力が義務ではなく喜びとして感じられるようになるのも大きなメリット。
「充分な睡眠、栄養バランスのとれた食事、適度な運動、ストレスケア……美容のために行うことは、すべて健康長寿につながります。心も体も元気になり、幸福度が高まることは間違いありません」
“幸せホルモンは、脳だけでなく肌からも分泌される。しかもそのホルモンには、肌を再生させる力がある!”
幸せになるためのスキンケア研究が進んでいます
資生堂では、心理的・肉体的ストレスが肌にどんな悪影響を及ぼすかを長年にわたり研究しています。たとえば下で紹介している一例がそう。このような研究知見をもとにクレ・ド・ポー ボーテの『セラムヴィタリテオープレシュー』や免疫美容の元祖的存在としておなじみ『アルティミューン』など、ストレスに負けない肌を育む大ヒットアイテムが数多く誕生しています。
「研究の現場では今、マイナスをゼロにする研究から一歩進んで、ポジティブを増やしていくにはどうしたらいいのだろう、という視点に転じつつあります。たとえば、肌・心・体の健やかさや機能について考えるとき、自分の意志や選択、行動によって増やしていける要素を考えるのです。生まれつきもった遺伝情報や年齢は、自分の意志でコントロールすることはできません。でも、『環境』『ストレス』『睡眠・休息』『運動』『栄養』といったものは、自身の工夫次第で調整することができます」
そこで一見さんは今、スキンケアを通じてより積極的に心身のコンディションにアプローチする研究を進めています。
「たとえば大切な人とハグしたりペットを撫でたりするときに分泌される、幸せホルモンとも呼ばれる『オキシトシン』は、一般的には脳内で合成されて血中に放出されて全身へ巡る物質だといわれています。でも実は、肌に優しく触れるとその刺激によって肌そのものからも合成されることが判明したのです」
しかも肌で作られるオキシトシンには、肌の再生を促すダイレクトな美肌効用があります。
「つまり、心地のよいタッチで肌に触れると、その刺激によって肌自体が美肌ホルモンを生む。結果、内側から肌が健やかに美しくなっていくのです」
スキンケアで自身を心地よくする時間をぜひ大切にしてほしい、とも。
「更年期を迎え体調が揺れがちな40〜50代女性は、資生堂の研究でも幸福度が下がる傾向にあります。年齢によるホルモン変動は避けられないこと。だからこそ、日々のスキンケアを楽しく充実したものに進化させる提案をこれからもしていきたいと思っています」
ストレスは、確実に肌を“陰キャ”化させる
働く女性の1週間を模してストレスのかかる生活を敢えて行い、そのときの心や肌の状態を観察する試験を行った。その結果、ストレスが肌状態を悪化させるプロセスが明らかに。
【疲労を感じる金曜日】肌のバリア機能低下
月曜から働き、5日目の金曜日。疲労実感とともに肌のバリア機能が低下。
【翌週の月曜日】エイジングファクターが増加
肌の中に、酸化ダメージ要因の1つであるポリフィリンが増加。
【2週間後】実際に角層細胞が変化してしまう
悪い影響が肌の細胞に変化として現れてしまう。実験では、正常ではない角層細胞の割合が増加。
細胞が肌の最表層の「角層」となるとき、細胞の核が消失する。ストレスを受けた肌では、不完全な状態で表皮へと押し上げられた細胞が増える。写真提供/資生堂
スキンケアするだけで、心も肌も“陽キャ”に
軽いタッチで肌に触れる実験。刺激を与えた肌では幸せホルモン・オキシトシンが合成され、赤い印(肌再生の指標= KI67)が増えている。
\何もしない肌/
\軽く刺激を与えた肌/
オキシトシンが合成されて肌、再生中!
『美的GRAND』2025春号掲載
撮影/宗高聡子 スタイリスト/山本瑶奈 構成/もりたじゅんこ
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
整形外科専門医であり、ヒアルロン酸注入などを中心としたメスを使わない美容医療を追求する美容ドクター。健康寿命を伸ばす一環として、美容の力を大いに重視している。