中年男性は人に悩みを相談できない?【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.10】
こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。
4割が「友人ゼロ」の衝撃
以前こちらの連載で、「男性は同性の友人どうしでひげ剃りの方法について話し合わない」傾向があることについて書きました。その結果、自己流の間違ったひげ剃りの方法を続けている男性が多く、場合によっては何十年にも渡って皮膚を傷つけてしまっているケースが見られる、という内容でした。男性どうしでは、横のつながりでひげ剃りへの対処法やコツが広がっていかないのです。これはどうしてだろうと、私はずっと気になっていました。負担の多い作業だし、率直に話し合えばいいのに、と思っていたのです。ひげ剃りはその一例ですが、多くの男性は、自分自身についてざっくばらんに話すのが苦手です。その傾向は私自身にも感じるのですが、悩みや不安を抱いても、どうにも口に出して言いにくい。あるとき、知人の20代男性に「なにかスキンケアしていますか」と質問したのですが、彼は「恥ずかしいんですけど」と前置きしてから、使っている化粧水のブランドを小声で教えてくれました。自分のケアをすることに対する恥ずかしさを、男性はどこかで感じています。こうした恥ずかしさはどうやったらなくなるのだろうと、私はずっと思案しているのですが……。
こんな調子ですから、男性は人に悩みを相談したり、友だち付き合いを継続していくのも上手ではないようです。2017年のISPP国際比較調査によりますと、50代男性の約40%は「友人の数がゼロ」*1 なのだそうです。ゼロ。あらためて考えてみると、結構な衝撃ですよね。50代男性の半分近くは、友だちがひとりもいないんですから。めっきり見かけなくなった東京チカラめしの店舗数だってゼロではないですし、これはかなり深刻な事態といえそうです。ちなみに男性の生涯未婚率は28%であり、友だちゼロ40%という数値は生涯未婚率すら上回っていますから、結婚していても友だちがひとりもいない男性も存在することになります。そうしたゼロ友の既婚男性は「妻に圧倒的に依存したつながり」*2 を求めてしまうとか。いやですね~、圧倒的に依存されたくないですよね。この驚きのデータを見たときに私は、冷蔵庫から賞味期限切れの豆腐を見つけたときのような、「うーむ」というへんな声が出ました。同調査では、50代女性で友だちゼロの方は10%以下なので、その差は男女で歴然としています。自分から進んで友だちを求めたり、関係を維持するために努力したりする手間を嫌う男性は、思いのほか多いのではないでしょうか。その結果の「40%友人ゼロ」なのかもしれません。
孤独になってしまう前に
男性のセルフケア下手も、こうしたコミュニケーションの軽視と結びついているかもしれないと私はにらんでいます。今年出版された書籍、トーマス・ジョイナーの『男はなぜ孤独死するのか』(晶文社)は、タイトルの重苦しさからは想像できないほどに愛とユーモアのある1冊で、中年男性がよりよいコミュニケーションを作っていくためのポジティブな提言がなされています。私はこの本を読んですっかり感動してしまったのですが、この本によると男性は、早ければ20代半ばから、周囲との断絶や孤独が始まってしまうそうです。お金、地位、仕事やキャリアに邁進して、気がつくと友だちゼロの中年男性になってしまっている。これが小学校の頃であれば、特に何も悩まなくてもごく自然に友だちはできるものですし、学校や地域の仕組みが周囲とのコミュニケーションを保証してくれますが、大人ではそうはいきません。「男性は往々にして、幼少期の制度化された環境の中であたりまえに作り出せる友情から、成人期に獲得する、努力の結晶である友情への重要な移行に失敗している」のだと、著者は言います。ギクッとしました。多くの男性は、「人間関係を当たり前のものと見なす」傾向があり、毎年9月になれば黙っていても月見バーガーが発売されるように、人間関係は労せず自動的に成立するものだと思ってしまうようです。こうした著者の指摘も、同じ男性として「当たっているなぁ」と感じずにはいられません。
弱みを見せない、なにがあっても動揺しない、自分の身体などどうでもいいものとして扱うといった「男性らしい強さ」は、周囲とのコミュニケーションを希薄にし、人を遠ざけてしまう結果を生むようです。私のまわりにいる中年男性も、口ベタな人が多いですし、自分のケアに対してもあまり興味がなさそうです。自分自身にも興味がなければ、友人との関係を維持しようとも思っていない。痛んだ肌と身体で、ただ仕事とお金を追い求めて、気がつけば孤独になっている──。なんだかゾンビみたいで怖いですね。あるいは私も、一時期はゾンビ中年になりかけていた気がするのですが、スキンケアを通じて、どうにか人間らしさを取り戻すことができました。ありがとう、スキンケア。そして私は理解したのです。友だちがいることはあたりまえではない。健康に生きていけるのもあたりまえではない。自分が心地よく生きている環境や仲間を作り出すには、それなりの時間と手間をかける必要があるというのは、セルフケアを通じて得られたいちばんの教訓かもしれません。日々スキンケアをし、病院へ行き、友だちに連絡をして会う約束を取り付ける。どれも面倒だけれど大事なことです。
乳液ってセルフケア感がありますよね
私がセルフケアという言葉から連想するスキンケア製品は、なんといっても乳液です。ベタつく感触が苦手だという男性は多いですが、私は乳液が本当に好きで、あれこれと試しています。時間がない朝でも、乳液だけさっと塗ってから出勤してほしいですね。自分を保護しているいたわりの感覚は、乳液ならではです。最近お気に入りの製品ですと、資生堂アクアレーベル「トリートメントミルク(ブライトニング)」は、スキンケア初心者でも手を出しやすい低価格と、質の高さが魅力。過去にもアクアレーベルの乳液はありましたが、今回あらたにCICA成分も入って、より肌荒れに効く製品にパワーアップしました。香りもよくてオススメです。また、無印良品の「薬用ブライトニングUV乳液」は、これからの時期に必要な日焼け止めと乳液が一体化した便利アイテム。日傘で身体を守ることの大切さは、前回の連載でも書きましたが、単に日焼け止めだけではなく、乳液としての機能もプラスしたこの新製品も、日差しの強い季節にぜひ試してみてください。
いったいなにが「セルフケア」なのか、というのも、考えてみれば実はかなり範囲の広いテーマかもしれないと、この記事を書きながら気づきました。これまで私は、セルフケアは自分ひとりでするものだと思い込んでいましたが、気の合う仲間と集まって楽しく語らう、お互いの悩みを話し合う、といった機会を積極的に求めることも、広い意味でのセルフケアの一環なのかもしれないと思うようになりました。前述の『男はなぜ~』にも、「孤独感が強いほど健康状態は悪化する」と書かれています。それはイヤですね。なるべく楽しく健やかに長生きするためには、よき友人の存在が不可欠なようです。これからでも決して遅くはありませんので、中年男性は意識的に友だちを作って、良好な関係を維持していきましょう。人と会って話すと、ずいぶん気も晴れますしね。私も、よき友人たちと仲良くすごせるように頑張ろうと思っています。
*1 https://gentosha-go.com/articles/-/51303
*2 トーマス・ジョイナー『男はなぜ孤独死するのか』(晶文社)
イラスト/green K
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