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スキンケアニュース
2024.5.21

日傘を使うと負けた気がする【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.9】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

夏が始まるのが早い

いまは5月ですが、半袖でも外出できる気温になり、季節はすでに初夏の雰囲気。いつ頃からでしょうか、気候の変化で春と秋があっという間に終わるようになり、ほんらい春や秋に活躍するはずの薄手のトレンチコートを着るタイミングが、年間を通して2週間くらいしかなくなってしまいました。私はトレンチコートが好きなのですが、この春は着る機会を逃しました。思うに、春もずいぶん短くなってしまいましたね。すぐに夏がきてしまいますが、もう少し春を長くできないでしょうか。ヤマザキ春のパン祭り(開催期間2ヶ月)まで長くしろとは言いませんが、せめて1ヶ月くらいはトレンチコートを着られる、ちょうどいい気候の期間があってほしいものです。日本の初夏はさっそく始まっているような感じがします。

さて、夏になると気になるのが強い日差し。今回のテーマは、男性と夏のセルフケアについてです。昨今、真夏の気温は危険なぐらいに上がりますし、太陽の光も過酷になります。夏の熱中症対策は、生命の問題になりつつあるのです。しかし、多くの男性はこうしたケアについてほとんど考えていないように見えます。思えば私が東京でひとり暮らしを始めた90年代は、まだ家にエアコンがなくてもどうにかなりました。私が初めて住んだ八王子のワンルーム(6畳)には、エアコンがついていませんでしたが、特に辛かった記憶はありません。扇風機でどうにかなっていました。当時と大幅に気候が変わった現在では、エアコンなしの生活など考えられませんよね。

日傘を使う男性は本当に少ない

こうした経緯から、紫外線対策は美容の問題だけではなくなりました。日傘は美容目的と思われがちですが、健康維持のためにもとても重要なのです。夏の日差しを直接に浴びると、体力が一気に減ってしまう感覚があります。とにかく日傘を差してほしいと、私は会う人全員にお願いしているのですが、実際に日傘をさす人はまだまだ少ない。わけても、男性に日傘を使ってもらうのは非常に難しいです。それはおそらく、男性の抱く日傘のイメージが、「母親とか祖母が使っていた、ひらひらした飾りのついたフェミニンなデザインのもの」で止まってしまっているせいだと思われますが、男性に日傘の話をすると、「いやぁ……」「俺はいいかな」といった反応が出ることがほとんどです。多くの男性が、日傘をどこか「みっともないもの」「自分が弱々しく見える道具」として考えていることが伺えます。男性は、鋲のついた革ジャンや、ガイコツの描いてあるTシャツのような、強そうに見えるものを身にまといたいと思うものです。弱そうに見えてはいけないのです。

一方、私自身は、日傘に関してはまったく躊躇がありませんでした。スキンケアを始めるずっと前から、日傘は使っていました。恥ずかしいとか、照れくさいよりも、日差しを避けたい気持ちがまさっていたためです。とにかく強い日差しが苦手で、夏の太陽を浴びていると頭がクラクラしてくるし、しんどくなってしまう体質なのです。強い太陽の光を浴びたあとって、身体がぐったりと疲れてしまうんですよね。かつては男性が使える日傘がどこで入手できるのかわからなかったので、雨の日に使う黒い傘を無理やり日傘として使っていました。無印良品で買える安価な日傘に変えてからは、そちらがメインになりました。とにかく日差しさえ避けられればなんでもよかった。スキンケアを始めるにあたっては恥ずかしさもあり、かなり躊躇したものでしたが、日傘に関してはなぜか迷いなく、すぐに始められました。

自分の身体を粗末に扱う美学

多くの男性にとっては、日傘を使っている状態がかもしだす「自分の身体を大事にいたわっている」感じが、マイナスイメージになっている可能性があるかもしれません。男性は、自分の身体を粗末に扱うことに美学を見出しがちで、「寝てないアピール」はそのいい例です。そんな調子ですから、「太陽の日差しくらいなんだ。大げさに日傘なんか使わなくても、自分は平気だ」という態度を取り、たくましさをアピールする傾向があります。ここには、男性の態度にありがちな「勝ち負け」の発想もくわわってきます。日傘をさしたら、なんだか負けた気がする。誰に、何に負けたのかはよくわかりませんが、とにかく負けなのです。しかしそんな男性でも、猛暑の屋外から冷房の効いたコンビニに入ったとたん「ふぅ〜涼しいなァ」などと声をあげたりします。彼らだって、暑いのはしんどいのです。暑さや強い日差しが苦手なら、日傘を使ったらいいのにと思いますが、どうやら彼らの美学、やせがまんの習慣がそれを許しません。美学でいいますと、ビヨンセが高いヒールを履いて、曲の振り付けを踊り切るのはカッコいいですが、中年男性が日傘をささずに猛暑の路上を歩くのは、さほど美学も感じないし、カッコよくありません。ただ、暑そうだな〜と思うだけです。

美容の側面からいえば、日傘をさして日焼け止めをつけることで、肌をきれいな状態に守ったり、しみを予防したり、肌の弾力を保ったりできます。しかし、他のスキンケアと違って、紫外線対策は「現状を保つ」ことが目的になるので、結果が見えにくいのがややつまらないところ。レチノールやビタミンのような「攻めのスキンケア」ではなく、日焼け予防はあくまで「守りのスキンケア」であるため、ややモチベーションを保ちにくいのは事実です。日焼け止めをつけて外に出るのは、私のようなスキンケア好きですら少し億劫だったりしますから、一般的な男性に日焼け止めをつけてもらうためのハードルは高いと思います。それでも、家を出る際にさっと日焼け止めをつける効果の絶大さについては、これからも繰りかえしアピールしていかなくてはなりません。日々「肌を大事に守らなければ」という気持ちを持ち続けるのは、自分を大切にするために必要なプロセスなのです。

使いやすい日傘、日焼け止め

いくつかアイテムを紹介いたしますと、日傘でオススメなのは、アウトドアブランドが出している製品。私が使っているのはモンベルの「トラベル サンブロックアンブレラ 50」で、紫外線の遮へい率が90%以上あり、軽くて持ち運びに便利な折りたたみ型。デザインも単色で実用的です。個人的には、日傘を習慣にすることを考えて、いつもかばんに入れておき、すぐに取り出しやすい折りたたみ型を推薦します。また、紫外線の遮へい率100%を求める方には、サンバリア100という製品があります。田中みな実さん愛用で知名度の上がった人気の日傘で、完全に紫外線を遮へいするという驚きのアイテム。100%遮光するってすごいですよね。それなりに値段もしますが、デザインがシンプルで男性でも使用できる製品もあるので、気になる方は試してみてください。日傘は、夏本番が来る頃には売り切れてしまっていることが多いので、早めに注文しておくのがいいかもしれません。

日焼け止めについては、どのメーカーの製品も非常に質が高いため、そこまでこだわって選ぶ必要性はなさそうです。とにかく使用することが大事です。SPFPAといった数値もわかりにくいですが、塗っておけばどの製品もきちんと肌を守ってくれますから、あまり細かく気にする必要はありません。資生堂の「アネッサ パーフェクトUV スキンケアミルクN」は、液状のミルクで肌に伸ばしやすく、急ぎのときにも便利。ロート製薬の「スキンアクア スーパーモイスチャージェルc」はクリームで、しっかり保護できそうな感じがします。ミルク、クリーム以外にも、スプレータイプで肌に吹きつけるものなど、テクスチャーの違いがあるので、SPFPAといった数値よりも、液状、クリーム状などのつけ心地で選んでみるのがいいかもしれません。

やせがまんより合理性

私は、やせがまんを捨てて合理性を取りました。日傘は大好きです。日焼け止めも、下地のトーンアップを兼ねた製品があるので、ついでに少し顔色をよくしたいといった目的に合わせて使ったりもしています。暑くて日差しが強いなら、日傘を使って身体をラクさせてあげましょう。考えてみれば、雨の日の長靴もたいへん便利で快適なアイテムですが、履くのは女性ばかり。男性は雨の日でも普段と同じ靴を履きつづけます。私は長靴も大好きなのですが、なぜ照れずに履けたのかは自分でもよくわかりません。私は、日傘や長靴の合理性や効果の高さが好きです。わざと水たまりに入っていったりして、長靴の便利さを実感しています。男性にとっての日傘や長靴は、これまでの自分を解き放つアイテムなのかもしれません。男性のみなさんも、日傘でラクになりませんか?

 

伊藤 聡(いとう・そう)
会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

イラスト/green K

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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