スキンケアは男女を分けない方が楽しい【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.5】
こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。
雪肌精の羽生結弦、コスメデコルテの大谷翔平
スキンケア製品の宣伝に男性が起用されることが多くなってきた昨今。雪肌精の羽生結弦、コスメデコルテの大谷翔平など、話題になったコマーシャルも増えています。わけてもコスメデコルテは、大谷選手のコマーシャルで一気に売り上げが伸び、新規購入者数が過去最高の70%アップ(キャンペーン開始から1週間単位)となったそうです。まさに大谷効果。こうした宣伝は、製品の認知度を上げると同時に「スキンケア製品を買うのが恥ずかしい」という男性の不安を取り除く効果もあったかと思います。かつての私もそうでしたが、多くの男性にとって、スキンケア製品を買いに行くのはやや恥ずかしいのです。大谷選手が宣伝していた「リポゾーム アドバンスド リペアセラム」が男性用ではなく、誰が使用しても効果のある美容液で、女性にファンの多い製品だったというのも嬉しいですね。私は、スキンケアはあまり男女を分けないで考えた方が楽しいジャンルだと思っています。コスメデコルテを買った男性が、友人の女性と「あの美容液、すごくよかった」と語り合うきっかけになれば楽しそうです。
以前から考えていたことなのですが、多くの男性には、女性と同じモノを使うことに抵抗感や恥ずかしさを覚える傾向があると思います。これはいったいなぜでしょうか。女性はメンズの服を着たり、メンズの靴を履いたりすることにさほど抵抗がないようですが、男性がレディースの服を着ることには大きなハードルがあるのです。あらためて考えてみると、理由がよくわかりません。「ボーイッシュな女性」は比較的よく見かけますが、「ガーリィな男性」は肩身が狭く、ときには奇異の目で見られる場合もあります。私は、女性用のカバンにはステキなデザインが多いと思っているのですが、実際に持ち歩くには勇気が要ります。そこには、乗り越えるのが難しい心理的な壁がある。この「心理的な壁」が今回のテーマです。考えてみれば、私の世代はグリコのおもちゃも男の子用、女の子用にわかれていました。記憶を辿ってみると、なにも知らない子どもながらに「女の子用のおもちゃに興味を持つことは間違っているのではないか」というタブーの意識がありました。私は、女の子用にはどんなおもちゃが入っているのか気になっていたのですが、もしお店の人に「それは女の子用だよ」と注意されたらどうしようと思うと、レジへ持っていく勇気が出ませんでした。
「こんな形や色のモノを使っていいのだろうか?」
他にも小学校の教室には、少女漫画やファンシー文具など、男子生徒が立ち入ってはならないとされる「女の子カルチャー」がありました。男子生徒は、そうした文化の華やかな雰囲気を感じつつも、あくまで無関心を貫く必要があるのだという暗黙のルールに従っていた気がします。なぜ、興味を示してはいけなかったのでしょうか。一方、私はファンシー文具のかわいらしさに気持ちが揺れ動いてしまい、となりの席の女子生徒に「この消しゴムとかペンケースはどこで売っているの?」と質問した記憶があります。当時の小学生男子は「BOXY」という、黒や銀色を多用した文房具ブランドでキメるのが粋とされており、真っ黒のペンを真っ黒の筆箱に入れて持ち歩いていました。女子生徒が持っていたペパーミントグリーンの下敷きやピンク色のシャープペンは輝いて見えましたが、私は無意識のうちに「ファンシー文具に手を出すべきではないのだ」と自分を戒めており、気がつけば「BOXY」の軍門に下っていました。小学生の頃から続く、こうした心理的な壁は、形を変えつついまも私の内面に残り続けているように思います。なにかを手に取るとき、いつも「こんな形や色のモノを使っていいのだろうか?」というセンサーが過敏に働いてしまうのです。誰に禁止されているわけでもないのに……。
いまの小学生が色とりどりのランドセルを使っているのを見ると、本当に世の中は変わったのだなと感じます。あれ、すごいですよね。これからの世代は、身につけるモノの色を自由に選び、楽しんでいくのだろうなと嬉しくなるのです。私が小学生だった頃は、ランドセルは黒と赤しかありませんでした。それ以外の色のランドセルなど存在しなかった。中学へ進むと、靴や靴下、上着などの色に関する妙にうるさい規則がたくさんありましたが、あるいはそうした価値観が染みついていて、自分が服や持ち物の色を選ぶときに生じる心理的なブレーキになってしまっているのかもしれません。人生を楽しくしてくれる「色彩」に対する関心を、私は小さな頃に失ってしまっていたような気がするのです。もったいないと思いました。何色を身につけてもかまわないし、いちいち性別で分ける必要もない。そういった意識が生まれたのは、スキンケアがきっかけだったと思います。
男性用スキンケア製品の利点とは
スキンケア製品を買うのが恥ずかしい男性にとって、「男性用スキンケア」というジャンル分けは購入時の心理的なハードルを下げてくれるし、製品を手に取りやすくなりそうです。とはいえ、ドラッグストアやデパートで一般的に売られている製品は、性別にかかわらず効果のあるものばかりです。もっと自由に選んでみてもいいのではないでしょうか。いまでは、グリコのおもちゃも性別はなくなりました。スキンケアも同じでいいような気がします。私は、あえてメンズのスキンケア製品を選ぶことはしてきませんでしたが、男性用のアイテムで気に入っているものもいくつかあります。男性と女性のスキンケアでひとつだけ違う点があるとすれば、ひげ剃りでしょう。男性は毎日ひげ剃りをしなくてはなりません。ここは大きな差で、男性用のスキンケアではひげ剃りを前提に製品を選ぶとより快適さが増します。いくつかアイテムを紹介してみますね。
ジャンルでいえば、洗顔と乳液。まず洗顔ですが、泡がシェービングクリームの役割を果たし、ひげ剃りと洗顔が同時にできるアイテムが便利です。「洗顔とシェービングがこれひとつで可能」は、これまで多くの男性用洗顔料がセールスポイントとして強調してきたのですが、実際に使ってみると、泡が充分に肌を保護しきれておらず、出血してしまうといったケースが多くありました。洗顔料とシェービングフォームの両立は、意外に難しいのです。過去に何度も失望してきた男性ユーザーにとって「洗顔とシェービングがこれひとつで可能」の売り文句は、「こちら側のどこからでも切れます」と同様に信用できないワードだったのですが、資生堂の「SHISEIDO メン フェイス クレンザー」は、誇張ではなく本当に、快適なひげ剃りを可能にした洗顔料なのです。これには驚きました。フォームを泡立てると、とても濃厚な状態になり、スムーズなシェービングができます。厚い泡の層がカミソリから肌を守ってくれる上に、さっぱりと洗顔ができるのです。
男女の垣根をこえて
著者私物・左からSHISEIDO メン、クラランス メン、資生堂のSIDEKICK。
また乳液はもちろん、ひげ剃り後の肌荒れをやわらげる目的で使用するのですが、男性用の乳液には「ひげ剃り後の使用に適しています」と謳っている製品も多く、使ってみると確かにヒリついた肌が落ち着く感覚があります。クラランスの「クラランス メン モイスチャー バーム SP」をひげ剃り後に使えば、肌がしっとりとなめらかさを取り戻す感覚がありますし、資生堂「SIDEKICK ハイブリッド エッセンスイン モイスチャライザー」(※販売店舗が限定されています)は、ベタつく感覚が苦手な男性にも使いやすいサラッとしたクリームタイプの乳液で、香りもよくオススメです。ひげ剃り後のひりつきには、男性用の製品が効果的な場合が多いと思います。
私個人は、容器のデザイン、香りのよさ、見た目のかわいらしさといった点で、一般用のスキンケア製品を使うことがほとんどですが、男性であればメンズのアイテムも織り交ぜて使ってみるといいかもしれません。ひげ剃りは肌の負担も大きいので、ぜひ自分に合う製品を試してみてほしいです。いずれにせよ、あまり性別にこだわらずに製品を選び、自由に使ってほしいという気持ちがあります。男女の垣根をこえて同じアイテムを使い「あのスキンケア製品、いいよね」と語り合うのは、本当に楽しいからです。そしてスキンケアをきっかけに、小学生の頃に植えつけられてしまった「心理的な壁」をなくしてほしいと切に願うのです。
イラスト/green K
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