【水野未和子の読むメイク】自分らしさを生かす「王道の赤」のこなしかた|美的GRAND

人類最古の色のひとつといわれ、古代エジプト時代から女性の顔を彩ってきた赤。今回は「赤」をテーマに、メイクアップアーティスト水野未和子さんとビューティジャーナリスト木津由美子がその色彩的効果とグラン世代が知っておきたい使いこなし方について、語り合います。
メイクアップアーティスト。London College of Fashionでメイクアップを学び、卒業後独立。帰国後は雑誌や広告キャンペーンなどで活躍。ミニマルなメソッドで最大限の魅力を引き出す〝ディファインメイク〟を提唱し、井川遥さんなど多くの俳優やモデルが信頼を寄せる。最新刊は『ディファインメイクで自分の顔を好きになる』(講談社)。
ビューティジャーナリスト。大学卒業後、外資系航空会社、化粧品会社のAD/PRを経て編集者に転身。『VOGUE』、『marie claire』、『Harper’s BAZAAR』でビューティを担当し、グローバル目線のビューティトレンドやウェルネス企画を展開。2023年独立。早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻修了、経営管理修士(MBA)。最新刊は『桃井的ことば』(KADOKAWA/編集協力)。
コスメの進化が生んだ赤メイクのトレンド
モデル左:グッチ ビューティ グッチ ルージュ ア レーヴル マット 509 ¥6,600 ワンピース ¥66,110(エンメ〈エレイン ハースビー〉)
モデル右:シャネル ルージュ アリュール ヴェルヴェット 57 ¥6,270 トップス ¥34,100(ザ・ウォール ショールーム〈ジューキフ〉) ピアス ¥19,800 〈イー・エム〉
木津由美子(以下、木津) 今回のテーマは「赤」。永遠の定番カラーですが、苦手とする人もいますね。
水野未和子(以下、水野) 「赤は敷居が高い」と感じる人は多いですね。帽子やサングラス同様、なんか目立つんじゃないかと思うみたいで。私も帽子はかぶり慣れていないので、なんか自分がセレブリティみたいな気がしちゃうんだけど(笑)。
木津 私は日傘より帽子にサングラス派ですが、慣れですね。
水野 「赤」は私にとって若い頃から身近な色で。ケサランパサランの19番だったかな、真っ赤なマットの口紅が大好きだったんです。
木津 懐かしい! ヴィヴィッドでパウダリーなケサパサの代表色。
水野 あの口紅をつけてヴィヴィアン・ウエストウッドの服を着るみたいな時代で、ちょうどM・A・Cも出てきた頃で、よくつけてましたね。
木津 私はどちらかというと、ピンクだったな。YSLの19番に代表されるような青みピンク。
水野 私はそっちに行かなかったから、ピンクには弱い。だから赤のシェードの中でもピンク寄りではなく、ボルドーとかブラウンとか、M・A・Cの限りなく黒に近いゴスのような赤とか。そういう色でパキッとさせることで顔が整うっていうイメージがあって、お助けアイテム的に赤を取り入れてましたね。ファッションもそうだけど、ソックスとかクラッチとかマフラーとか、赤を差し色に使うと全体が整う力が赤にはあると思うんです。だから王道の色。流行色という感じではないんですよね。
木津 でも日本の場合、赤よりもピンクのほうが万人受けする色として長らく捉えられていて、国産ブランドはもちろん、外資ブランドもピンク系以外のリップカラーをほとんど日本で展開しなかったんですよね、売れないから。だから「赤」で最も印象に残っているのは、ルチア・ピカがシャネルのグローバル クリエイティブ メークアップ&カラー デザイナーに就任して最初に出した2016年の「ル ルージュ コレクション N°1」。この時の赤のアイシャドウが大ヒットして、一気に赤のハードルが下がった記憶があります。
水野 確かに、眉にも赤を使うようになったり、いきなり流行りましたね。昔ロンドンでカメラの勉強をした時に、モノクロームの中でどの色がどう映るかを確認するセッションがあって。黒が最も強いかなと思いきや、濃紺が黒よりも強く出たりする。そして、赤。ピンクは出てこない。そういう意味でもやっぱり赤はパワーカラーだと思うんですよね。色をポンとのせて顔も気持ちもグッと引き上げるんだったら、口紅やマニキュアに赤を持ってくるのがいい。肌をパンと照らしてくれるというか。
木津 しかも化粧品のクオリティが格段に上がったから、昔の不透明な赤と違って使いやすくなっています。
問題は赤口紅ではなく、ベースだったりするんです
水野 そうなんです。赤の中でもいろんなシェードがそろうし、質感もいろいろ出てきている。真っ赤は苦手なんだよねという人はシアーマットとか、重ねると濃くなるスフレタイプとか、バームとか、血色から入れるようなシェードと質感から始めればいい。特に年齢を重ねたら色よりも質感のエフェクトは大きいから。そして赤を使うには、ベースをやりすぎないことがポイント。だからまず、赤い口紅から塗ってみるのが、やりすぎを避けるコツだと思います。下地で肌全体をトーンアップさせて、そこからファンデーション、コンシーラー、パウダー、チークと重ねると顔料のレイヤーで、それだけで古くさくなる。老けている人が赤口紅を塗っているから老けて見えるのではなく、そのやり方が老けて見せている。だから問題は赤口紅ではなく、ベースだったりするんですよね、話を聞いていると。
木津 「赤口紅をつけると老けて見える」と思っている人がいる、っていうこと?
水野 そうなの、ちょうどグラン世代あたりに多いかも。「大人の赤リップって素敵、カッコいい」と憧れた世代がリアルに中年になって「赤ってなんか古いじゃん、私も年だし、昭和のママみたいになっちゃうもん」って言う人が多いんですよね。あとは唇が薄いからヤダって言う人も。でも薄いカラーよりも赤のほうがふっくらと見せられるんですよね。
木津 ベースの仕上げ方は重要ですね。ベージュ系リップと同じプロセスで肌を仕上げたらとんでもないことになりそう。
水野 そう、ベースとの掛け合わせで肌印象はずいぶん変わるんです。だからまずは口紅から塗ってみる。それだけで肌全体の色補整がされたように見える。そこから必要なものを足していくのがいい。シミがあったとしてもすっぴんで赤口紅だけのほうが、肌の質感的にフレッシュに見えたりします。決して口紅だけの問題ではないんですよね。
キャラクターが違うから似合う色も違う
木津 今回も歴代セレブリティを「赤リップ」で振り返ってみたんですけど、「赤リップ」だけでキャラクターを出せることがよくわかります。赤口紅の色と質感にそれぞれのキャラクターを引き立てる力があるから、選び方がすごく重要になってくる。例えばツヤッツヤの真紅はマリリン・モンローだから魅力的に見えるのであって、それをジェーン・バーキンがつけたところで全然イケてないはず。現代のおしゃれアイコンでいえば、まずレディー・ガガ。髪型も髪色も自由に変える彼女は、スタイルに合わせて赤口紅の色調も変えている。それから、テイラー・スウィフト。彼女も常に赤だけど、ステージでは真っ赤、プライベートではややダークに落としている。このふたりは赤の使い方をすごくわかっているように見えますね。
1950年代を代表する永遠のビューティアイコン、オードリー・ヘプバーン(右)とマリリン・モンロー。ジバンシイのミューズだったヘプバーンの可憐な美しさを彩ったのはマットなトマトレッド、ブロンドヘアに赤リップと口元のホクロが印象的なセックスシンボル、モンローはツヤツヤの真紅一択。
1960年代のファッションアイコン、ジェーン・バーキン。彩度を落とした赤リップにたっぷりのマスカラと太めのアイライナーで強調した目元の組み合わせは今なお新鮮。
水野 なるほど確かに。2023年のスーパーボウルのリアーナのハーフタイムショー、見ました?
木津 見た見た。全身赤のリアーナ。
水野 妊婦で結構お腹が大きかったのに、全身赤のロエベでワオ!って思いましたね。あの隣にただ美しいモデルがいたところで負けちゃうよね。発言もとってもクールで、まさに現代のアイコンだと思う。
左/レディー・ガガはスタイリングに合わせて口紅のトーンも完璧にコーディネート。右/90年代を華やかに彩り、今なお活躍するスーパーモデル、ケイト・モス。2011年、自らプロデュースしたリップスティックコレクションの発表イベントにて、コレクションの中からクラシックディープレッドを纏って。
2023年、NFLスーパーボウルのハーフタイムショーにて、全身赤を纏って圧巻のパフォーマンスを見せたリアーナ。
木津 赤は大人こそつけこなせる色。そういう意味ではマリオン・コティヤール、ジュリエット・ビノシュ、イネス・ド・ラ・フレサンジュなど、フランス人はやっぱりうまい。
水野 自分のものにしちゃいますね。肌を作り込まないから、あるがままになじんでいる印象。グラン世代にありがちなのは、肌が均一じゃないといけないみたいに囚われてシミやくすみを隠しすぎて、それがかえって古くさくなる。あれやこれやとカバーしなくても、赤口紅だけで肌は断然キレイに見える。そしてハレの日に赤を完璧につけるのではなく、日常生活の中にカジュアルに落とし込むことができたら素敵だなと思うんですよね。色の見え方は人それぞれなので「自分にはこの1本」という赤があればいいと思う。
左/今年1月、NFLスーパーボウルにて恋人に寄り添うテイラー・スウィフト。チームカラーの赤を唇とタイツにも取り入れている。右/カール・ラガーフェルドのミューズとして長年にわたりシャネルの顔を務めたイネス・ド・ラ・フレサンジュ。写真は2024年、パリ オートクチュールコレクションにて。赤のリップ、ベルト、フラットシューズをアクセントに効かせた、エフォートレスシックのお手本。
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