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健康・ボディケア・リフレッシュニュース
2023.5.18

普通の会社員だった彼が、伊勢丹1階フロアの中心で「コスメが好きだー!」と叫びたくなるまで(後編)【インタビュー】

SNSで話題のエッセイ『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。」(以下、「電父」)の著者・伊藤聡さんは、まさにこのタイトル通りのきっかけで、コスメを使い始めたという。 前編では、ドラッグストアのスキンケアコーナーにすら立ち入るのを「恥ずかしい」「わからない」と躊躇していた伊藤さんが、美容の深淵へと溺れていった過程を伺ったが、後編では、デパートのカウンターで「デパコス」を買う程までハマった心の変化を教えてもらった(聞き手:本誌編集長)。

キラキラしてて、おまけまでもらえるとは

著者の伊藤 聡さん。

美的編集長・中野瑠美(以下、中野) どちらのカウンターに行かれたんですか?
伊藤 聡さん(以下、伊藤) 今回は伊勢丹の1階です。やはりまだ男性は入りづらいですし、緊張もしますが、キラキラしていて、いい香りがして、なんて幸せな空間なんだ!と気分が良くなります。
中野 わかります! 日常の非日常ですもんね。ネットで欲しいものを買うのも便利ですが、やっぱりBA(ビューティアドバイザー)の方にあれこれ教わりながら買う楽しみってありますよね。
伊藤 美容誌で仕入れた情報を元に、たるみに効く美容液を購入しにカウンターに行ったのですが、最初は必ず「贈答用ですか?」と聞かれるんですよね‥‥わかるんですが、性別や年齢に関係なく、買いに来た人が使う前提で接してもらえると嬉しいなと思います。
中野 そうですね、そのほうが入りやすい。
伊藤 BAの方も、私のような中年男性が自分で使用するために購入するとわかって緊張されたのかもしれません。お会計を済ませて、キレイなショッピングバッグに包んでいただいたのに、袋の中に商品を入れ忘れてしまうといったハプニングもありました(笑)。
でも、肌の状態を聞いてもらって、素敵なデザインのアイテムを色々見せてもらって、ちょっとずつサンプルの“おまけ”までいただけて。男性って、これまでの人生で“おまけ”ってあんまりもらったことがないと思うんですよ。
中野 なるほど。美容ってお試し文化なので、気にしたことがありませんでした。
伊藤 帰る頃には、キラキラした空間に多幸感でいっぱいになって、伊勢丹の1階で「私はコスメが好きだ!!!!!」と叫びたい衝動に駆られました。
中野 電車の窓鏡から、そんなところまでに‥! すごい変化ですね。
伊藤 最初、なんでデパートのコスメはこんなに高いんだ?と思っていたのですが、凝った容器やデザインを見ると、本当にすごいなと思います。
余談ですが、自分で使うわけではないですが、シャネルからツイードの限定アイシャドウが出たのを見た時、なんて美しいんだろう!と思いましたから。それに、値段が張る製品って、使うとすごくいい香りに包まれますし、テクスチャーがすごくよくて‥。
でも、プチプラコスメも、ドラッグストアのアイテムも、デパコスも、全部それぞれの良さがあって、どちらも楽しい。本当に多くの人に、美容の良さをわかっていただきたいです。

「こっくり」って一般にはほとんど言いません!

中野 本書には、購読していた美容誌七誌の書評がありましたが、今も毎号、買われているんですか?
伊藤 はい。当初は本を書くための資料として買い始めた美容雑誌ですから、書き終わった今となっては、もう買わなくてもいいんでしょうが、純粋に楽しくて読みたいので購入しています。
『美的』は王道でキラキラしていて、読んでいるだけで「ハレの日」の気分が味わえます。
中野 「こっくり」「モロモロ」などのスキンケアでよく出てくる表現は独特、と本書にご指摘があって、そういえば一般にはあんまり言わない言葉なんだな、と改めて気づきました(笑)。
伊藤 言わないですよ! 普段の会話で「こっくり」なんて言ってる人、会ったことありませんから、新鮮でした。
テクスチャーにまつわる表現は、本当にいいですよね〜。
最初は全くわかりませんでしたが、今は「こっくりしたクリーム」の良さも、「下地などがよれてモロモロする」知識も身につけました。

伊藤さんの愛用コスメ。スニーカーの箱に入れて保管。

通販系もチェック!伊藤さんのスタメンコスメ

中野 今日は、現在のスタメンコスメ、お気に入りコスメをお持ちいただけたということですが‥?
伊藤 私はスニーカーも好きなんですが、箱を取っておくんですよ。
最初、このスキンケアアイテムという自分にとって未知のものを、どうしたら「自分のもの」にできるか考えたんです。自分の好きなものに寄せたらさらに愛着が湧くのでは?と考えて、スニーカーの箱に入れることにしました。
中野 なるほど、面白いですね! 確かに整理に困りますしね‥。にしても、幅広い。仕事柄かなり見ている方ですが、初めて見るコスメがあります!
伊藤 「SIDEKICK」ですね? これは資生堂がZ世代の男性向けに開発したブランドで、中国ではECで販売しているようなのですが、日本では東京・原宿の「資生堂ビューティ・スクエア」でしか取り扱いがないんです。ちょっと気になって見に行ったら、デザインも歯磨きや整髪料っぽくてオシャレだし中身も良くて。とろみのある化粧水が好きですね。
中野 ベスコス受賞のデパコスもずらり。
伊藤 B.Aのイマース(化粧水)はこの佇まいから素晴らしい。見てくださいこのデザイン。容器の曲線が‥(以下2人で良さを語り合う)。ランコムのクラリフィックは、これが私のベースの化粧水です。色々使うけど、これが基本ですね。
中野 IHADAの乳液も iPの洗顔料も、名品ですよね。そしてトゥヴェール! ツウな通販コスメまで‥私は原液シリーズが好きです。
伊藤 私は、肌が揺らいだ時にこのミルク(乳液)ですね。本当にいいんですよ。
(コスメ談義が続くので割愛)
中野 伊藤さんは、もうすっかり美容が趣味でいらっしゃいますが、美容の良いところはズバリ?
伊藤 そうですね。私はそれまで本当にその機会がなかったんですが、自分を労って顧みる行為ですよね、スキンケアって。自分に優しくする行為だから、人にも優しくなれる気がします。美容に目覚めてからは、男性のあいだにスキンケアの習慣が広がっていけば、世界がちょっと良くなるんじゃないかと本当に思っています。「やらないと老ける」みたいな脅しではなくて、一緒に美容を楽しめるといいですよね。美容誌を読めば、その楽しさもより広がっていくと思います。
中野 美容誌に携わる人間としては嬉しい言葉です!
私は、メイクも含めるとやはり美容は趣味でエンタメな部分もあると思っていて。『美的』の私が言うことじゃないかもしれませんが、やっぱり面倒になる時もあるじゃないですか。スキンケアもメイクも楽しくないと続かないので、楽しみたい時に思いっきり楽しめるといいですよね。男女ともに。
伊藤 エンタメ! 確かに。楽しくないと続かないのはその通りです。義務的じゃなくなるといい。コスメも、メンズ用であることで初心者が書いやすいという利点はありますが、やっぱりいずれは男性用、女性用ではなく、人間用になるといいなと思います。
中野 美容好きの男性から、メンズのいいアイテム、ではなく、全てのいいアイテムの中からお勧めして欲しい、と言われたことがあります。
伊藤 だからやっぱり、男女関係なく『美的』を読むべきですよ! 男性も一緒にキラキラを楽しんで欲しいです。可愛いものを見るのって、それだけで楽しいじゃないですか。
中野 「やらないと老ける」みたいに脅すのではなく、誰もが一緒に楽しく美容ができるように誌面も考えなくてはですね。
ところで、伊藤さんは、メイクには興味はないんですか?
伊藤 かなり興味があって、本を読んだりして勉強しているのですが、スキンケアとはまた全然違うジャンルだと思うんです。モチベーションもだし、テクニックも必要ですし。ベースメイクやアイブロウに興味はありますが、メンズメイクの「ちょうどいい塩梅」がわからない。メイクしたい! というより、整えたい、という希望の場合、どこまでやるのが正解なのか、探しあぐねています。
中野 なるほど(メモ)。そういう需要は確かに今後ありそうですね。実はこれから、男性を含む美容初級者向けに、特設サイトの立ち上げを企画しておりまして、伊藤さん、ぜひ連載お願いできませんか?
伊藤 え! じゃあ私、本格的な美容ライターになれるってことですか?
中野 美容賢者も夢ではないです!

著書紹介


『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』
(伊藤 聡著/平凡社刊)
「男がスキンケアなんて恥ずかしい」。そう思っていたアラフィフ会社員が、あれよあれよと美容沼にハマっていく過程を描いた体験記。男性美容とセルフケアをめぐる心の機微を描いたエッセイは、中年男性が自らのスキンケアに初めて真剣に向き合った記録というだけでなく、なぜ男性はセルフケアを敬遠するのかという問いからジェンダー・バイアスにも触れており、美容を介して、「世界」が変化していく姿が描かれている。

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撮影/フカヤマノリユキ

 

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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