世紀の大誤解!マリリン・モンローは“中身が空っぽの色気のかたまり”ではなかった!【齋藤薫「大人美のマナーとルール」vol.16】
セックスシンボルといえば、時代がどんなに変わろうと、やっぱりマリリン・モンローその人の名前が上がってくる。でも、この人は本当に“ただの色気の塊り”だったのだろうか。ここに全く逆の、モンロー=知性派の説あり。【齋藤薫「大人美のマナーとルール」vol.16】
実はハリウッド女優で1番多くの名言を残した知性派?
あなたはマリリン・モンローに、どんなイメージを持っているだろうか? 世紀のセックスシンボル、ダイナマイトボディ、色気の塊り……ひたすらそういうイメージしか出てこない。セクシー以外の形容詞はほとんどなく、当然のこととして知的、賢いなどのイメージは120%なし。それが多くの人のマリリン・モンロー像なのではないだろうか。
もちろん、この人がリアルタイムで生きた時代も同じ、いやもっと露骨に、こんなふうに思われていた。ダムブロンド=中身の全くない金髪美人。もちろん今やこういう表現、完全にアウトだが、“セクシーな分だけおつむが軽い”とも……。役柄もまた本人のイメージも、この法則を体現するものだったのだ。
でも、考えてみてほしい。それが本当だったら、亡くなって60年以上も経つ今なお、ある意味の女性美の象徴として、その名が残っていたりするだろうか。ただの“色気の塊り”だったら、そもそもが当時も世界的なカリスマになったりしただろうか。冷静に考えたらありえないこと。
実は以前から、それは虚像に過ぎないのではないかと思っていた。なぜならマリリン・モンローは驚くほど優れた名言をたくさん残しているのだ。時に哲学的でもあるほどの。少なくとも、名言集ではハリウッド女優の中で1番多くの言葉を残しているのである。
「他の誰かになりたいなんて、それは“あなたという自分”の無駄遣い」
「男性と平等でありたいと求めるような女性は、野心が足りていない」
「ハリウッドは、キスにはいくらでも払ってくれるけど、人間性には1銭も払ってくれないところ」
「もし私がすべてのルールを守ってたら、成功なんてしていなかったでしょう」
これは、ほんの一部。いや、口を開けば、全てがウィットに富んだ名言という知性の持ち主だったのだ。
わざとパーティーに遅れていく計算
母親が精神を病み、孤児院や親戚をたらい回しにされるような幼少時代を経て、生きるために16歳で結婚するという壮絶な生い立ちを持ち、学歴はもちろんない。
そんな環境の中にあって、ピンナップモデルから女優へと這い上がるのも、単にバイタリティーだけでは説明がつかない、強い野心とそれを支える知性があったからこそ。
「十四歳のときから私は女たちを苛立たせる才能をもっていたの」という言葉も、自分のポテンシャルを熟知していた証。
小さなチャンスも見逃さず、映画会社などへ自分を売り込むためには手段を選ばなかったという説もある。露出の多いドレスも、とりわけバストやヒップを目立たせるデザインも、セルフプロデュースの賜物。「女であることを証明するなら、服は充分にきついほうがいいし、逆にレディーであることを証明するなら、充分にゆるいほうがいいの」という言葉を残しているほどだ。その上、パーティーにわざと遅れていって注目を浴びるような計算も、またある種の稀有な知性を物語る。
そもそも、クリクリの赤毛を、波打つような完璧なブロンドに変えたことが、女優として成功する決め手になったとも言われるし、アーチ型で栗色の薄眉と、抜けるように白い肌、そして艶めく赤い唇、時にはほくろ……という“モンローメイク”も、自らが考案、メイクアップアーティストとともに作り上げたものである。何が自分を1番美しく見せるのかを、よーく知っていた人なのだ。
色気以上に目を引くのは、じつは清潔感
ちなみに、薄眉、白肌、真っ赤な口紅……これは、少女のように清らかなイメージを作る“オルチャンメイク”にもつながる3点セットとも言えるもの、気づいていただろうか。だから、マリリン・モンローの本当の魅力は、色気ではなく、むしろ“清潔感”にあること。
世の中にはなぜだか、大口を開けて笑うマリリン・モンローもどきの写真が溢れているが、その99%がケバくて下品で、目を覆うものばかり。これこそが、最も大きな誤解である。マリリン・モンローは、大口を開けて笑っても清潔感があった。どんなしどけなく、いかに危ないポーズをとっても、やっぱり清潔感があったのだ。
そもそもが本当に、品性のない、知恵もない女性だったら、こんな清潔感など保てるいるはずがない。
それも含めて世紀の誤解だと言いたいのである。だからこそ現在もマリリン・モンロー信仰は消えない。おそらく永遠に消えないのだ。この世に、「清潔感と色気」の掛け合わせほど素晴らしくパワフルな魅力はないから。そこを絶対に見落としてはいけないのである。
しかし世の中はどうしてもそう見てくれない。もちろん成功のためにはそれしか手段がなかったわけだが、作られたマリリン・モンローと自分とのギャップにひどく悩んだのは紛れもない事実。だから先のような、世の中を皮肉る名言をたくさん残しているのだろう。
「気難しい女優」と呼ばれたのも、作家アーサー・ミラーと結婚したのも、本当の自分を知ってほしいという“もがき”のような複雑な思いがあったからだろう。
諸説あるものの、36歳での早すぎる死の理由も、やはり薬物の尋常ではない大量摂取であり、どう考えても自殺。そうした心の内を知るにつけ、何だか胸が痛くなる。
「ほら、星たちを見て。あんなに高くきらきら輝いているわ。だけど、一つひとつがとても孤独なの。私たちの世界とおんなじ。見せかけの世界なのよ」
せめて、誰よりもきらめいたことを、 喜びに感じた人生であってほしい。
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