【齊藤 薫さん連載 vol.51】今、心惹かれる〝オタク美人〞とは?
ひと昔前、〝オタク〞と言えば、根暗、社会性に欠ける、モテない、などネガティブな印象でしたが、昨今、〝オタク〞を自認する著名人も増え、イメージが変わってきています。そもそも〝オタク〞とは、アニメであったり、歴史であったり、と〝ひとつのことを極めるエネルギーとファンタジー〞に心惹かれる感性を持った人。人生を濃密なものにし、キラキラ輝いている彼女たち=〝オタク美人〞について、薫さん流に分析してもらいます。
美しきオタクの時代
内面に個性がキラめく女たち
長い間、〝オタク〞という表現に、良い印象はなかった。言うまでもなく、〝アキバ系〞という少々暑苦しいイメージでまとめられてしまっていた時代もあったわけで。ところが今、気がつけば周囲の女性たちにも〝オタク〞を自認する人が増えてきて、とりわけ女優やモデルの世界には意外なオタクぶりで注目される人が次々現れたのだ。
その先がけとなった杏さんは、世界的なトップモデルから女優に転身するやいなや、人気急上昇とともに、〝歴女〞としても注目された。きっかけは、新撰組を描いたマンガ『風光る』であったそうで、そのあたりには身近さも感じるけれど、それで歴史に関心を持ち、膨大な数の本を読み、NHK教育テレビの『極める! 杏の戦国武将学』などの番組に次々出演しては、学者も舌を巻く知識と含蓄を披露する。最初はスーパーモデルと歴史オタクのギャップに戸惑った私たちも、しだいに人間性の幅そのものに何やら計り知れない魅力を感じていくことになるのだ。
よく言われるのが、人間、A面とB面を持っていると、3倍魅力的に見えるということ。女優やモデルが〝美容オタク〞であるのは、やはりA面の延長にすぎなかったが、だからB面を持つ女優の存在がにわかにクローズアップされたのである。だいたいが、〝歴史オタク〞になれるのは、知的好奇心はもちろんのこと、記憶力や分析力、想像力に優れている人だけ。そもそもが学究肌でなければ、そこには行かないはずで、本来がきわめて聡明な人であることを裏づける。だいたいが普通に考えると、モデルとして世界的に脚光を浴びれば、別の野心が出てきて然るべきなのに、この人は地に足のついたキャリアの重ね方で、演技派女優としての地位を固めた。正直最近は、逆に〝オタクを売りにするタレント〞なども出現してきたが、この人は筋金入りの歴史好きであることが、とても自然にあぶり出されてくるのだ。
もっと言えば、かつてのオタクはどこか社会性に欠ける上に恋人がいない、モテない的なイメージが色濃くあったわけだが、そういうものも根底から払拭するようなキラめく結婚をさらっとすませて、新しいオタクの時代を象徴してくれた。
一方で、〝オタク〞と言えば、〝アニメ好き〞、まさにその代名詞的な使われ方をしているが、アニメオタクでよく知られるのが、栗山千明であり、本田翼。正反対のタイプでありながら、どちらもコスプレも含めての戦闘系が好きらしく、でもそれがどちらもなるほどと腑に落ちる。他の女優やモデルたちとはひと味違う、何と言うか、個性が内面でキラめいているタイプなのだ。つまり、外見が見るからに個性的というタイプではないのに、何だか内なる主張がある、まさに感性を内に秘めている印象。
そういう雰囲気を宿した女優やモデルが、今、まさに一線を画す存在となっている。それも、〝ひとつのことを極めるエネルギーとファンタジー〞に心惹かれる感性を持つオタク体質のなせる技なのだろう。オタクになるのはひとつの才能。〝人間力〞と呼んでもいい総合力。リアルな実生活が充実している「リア充」を、オタクがうらやむ時代はもう終わり。オタクの生活こそ充実している、そういう見方も生まれてきたからこそ、まさにオタク美人が輝く時代。オタク美人にこそ心惹かれる時代なのである。人間として。
好奇心と才能あふれるオタク美人は、
絶対不幸にならない女たち
オタク美人がにわかに脚光を浴びている決定的な理由のひとつは、やっぱり頭がよさそうだから。いわゆる〝アキバ系〞の男たちも、学校の成績は一様によかったはずで、ひとたびイメージがアップすると、にわかにそういうプラス要素がクローズアップされてくる。たとえば、山本美月さんへの注目度も、女優としての才能に加え、明大卒。何よりもアニメオタクというプロフィールが評価を大きく高めている。〝オタク〞であることが、そっくりその人の奥ゆきに、とりわけ才能の奥ゆきに見える時代なのだ。つまりもっと何かをたくさん秘めていそうな、潜在能力を感じるからこそ、さらなる注目を集めてしまう。
まさにそういう意味で大ブレイクしているのが、時の人、市川紗椰さん。言うまでもなく、新しいニュース番組でいきなりメイン司会を務めている。そもそもこの人に白羽の矢が立ったのは、〝高学歴〞だけじゃない。アニメオタクはもちろん、鉄道オタクでもある上に、ハンバーグ好きが興じて、〝ハンバーグのオタク〞もと幅広い。いやこの人の場合は、学者はだしとも言うのだろうか。いちいちスペシャリストになってしまうほど、奥深く緻密に物事を追究、まったく異なる分野に幅広く関心を抱き、そのすべてで限界まで造詣を深めていくのである。
そこに並外れた才能を見てしまったマスコミが、この美しい人を放っておくはずもなく、今回の起用となったわけだが、それも例の〝学歴詐称〞のイケメン・コメンテーター氏の〝降板〞で、急遽メインMCに格上げされた形。当然のこととして、自信がなければメインMCを断ることもできたはず。でもこの人は、その大役に堂々挑んできた。どんなジャンルのどんなことにも関心が持てる、どこまでも柔軟な好奇心を持っている上に、ひとたび関心を持ったら、必ず自分のものにして、それを究めていく。TVで生きている人にとっては〝ある種の上がり〞のような、究極のポジションに〝モデル〞が本職の28歳が就くという〝奇跡〞が起きてしまう。それもこの人だから起こせた奇跡なのだ。
もちろんそれがこの人の人生において、吉と出るのか凶と出るのか、まったくわからない。でも人生はこうやって切り開かれていくものなのだという見本のような展開。加えて言うならば、今や、本当に才能があれば、そしてその気になれば、いくらだって世の中に打って出られる時代だということ。イケメン・コメンテーターが、一夜にして失脚してしまうのとは逆に。でもそれは同時に、学歴詐称するほど〝自分自身に夢中な自分オタク〞だったコメンテーターはつぶしがきかないが、自分以外のどんなものにでもオタク的なエネルギーを注げる人は、人生どんどん攻めていけることを裏づけた。これがダメでも次があるという具合に、人生を進めていけるのだから。
結果、人生の密度も濃度も高まっていく。毎日がつまらなそうなオタクは見たことなく、要するに、オタクは人生を面白くする絶対のコツでもあるわけだ。オタクはなろうとしてなれるものじゃないが、〝絶対不幸にならない方法〞としてオタク人生はあり!! まさにそのやむにやまれぬ衝動こそが、人生を濃密なものにし、彼女には何かあると関心を集めるオーラとなるのだ。まさに、いちばん幸せそうな女たちだからこそ、オタク美人のオーラが今いちばん輝いていること、見逃さないで。
美的7月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環 デザイン/最上真千子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。