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2022.6.24

ゲスト・吉本ばななさん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第2話「コンサバor吉本ばなな」

「年齢を重ねるということはどういうこと?」。楽しいことばかりではないし、かといってつらいことばかりでもない。人生の先輩に訊いてみました。「 私たちに生きるヒントを授けてください」と。40代からの人生が輝く"読むサプリ"。 2人目のゲストは、作家の吉本ばななさんです。 【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第2回ゲスト・吉本ばななさん 】

>>第1話「小説に救われた夜」はこちら

「無理」だと思ったから。いつも探していた自分の居場所と生き方

人生の未知なる領域に足を踏み入れ、
不安になると“コンサバ”が顔を出す。

私の中にそういう一面があったのは意外だという顔をして、「どこに入っているんでしょうねぇ」と不思議がるばななさんに、ずっと聞きたかった質問をした。

「ばななさんの中には、ありますか?」

ばななさんの小説を読めば、その答えは明確なので愚問であることは分かっていた。でも、ふとした瞬間に自分の中から保守的な価値観が顔を出す、みたいなこともないのだろうか。

「ないです」即答だった。
「一欠片も」
自分の中には見当たらない、と
ばななさんは言い切った。

「す、凄い……!」
圧倒されて、
歓声まで漏れてしまった。

自分の意思とは関係ないところでも、保守的な思考というのは勝手に自分の中に刷り込まれてしまうものでもある、と私は感じてきたからだ。

「実は、ばななさんのとあるインタビュー記事の中で、義務教育は刷り込みを含めて感性にとって害である、と言い切られていたのを拝見して救われたことがあるんです。というのは当時、娘の不登校に悩んでいて。

彼女の場合は、大好きなお友達もいて勉強も好き。だけどハイリーセンシティブで、感受性が人より強い。それは魅力でもあるけれど、集団生活を送る時にはハンデにもなる。集団が苦手な感覚は私もそうなのでとてもよくわかるし、繊細な感性は尊いもので大切にするべきものだということも、また心から思っていることで。

ただ、それでも、まだ小学校一年生の時点でここから先はもう学校には行かなくていいよ、という勇気もなくて。何が正解なのかが本当に分からない中、とにかくそこからの二年間はただただ彼女とずっと一緒にいました。

素晴らしい先生方とお友達に恵まれたことで今はまた通えるようにはなっているのですが、育児を通して本当に色んなことを切に考えさせられます」

「無理、という感覚、すごくよくわかりますよ。無理ですよ」と、目の前のばななさんが我が子の気持ちを理解してくれる。

私はまた救われる。「そうですよね」ってすごく思う。それでもまだ、どんな学校なら彼女に合うだろうと考え続けているのも、また事実。

そんな迷いと葛藤の渦中にいたからこそ、ばななさんの小説『ミトンとふびん』を読みながら、私は深く長く泣き続けた。浄化されてゆくような感覚だった。

育児を通して深入りした社会の中で、
自分の軸がグラついてしまっていた。

揺れて、揺れて、でもギリギリのところでばななさんの小説は「そうだ、そうだった、私の信じている世界線はここだった」ともともとあった自分軸の位置を再確認させてくれる。私にとって聖書のようなもの。

「吉本ばなな」は一つのジャンル。
現実以上にリアルなスピリチュアル。

一方で、ばななさんはそのような圧倒的な感性を持ちながら、
社会の中での生きづらさとはどう折り合いをつけているのだろう。

「社会で生きていませんから。
幼稚園の頃にはもう、無理―ッ! となって。
絶対に無理!と思って。この言葉でしか言えないんですよね。
あれがどうでこれがどうだから無理、というものじゃないんです。だから、ずっと諦め続けてます。
キャリアだけは長いんですよ、諦めているキャリアだけは(笑)」

パートナーとは事実婚。
息子さんはホームスクール。
ばななさんの「私は社会では生きていない」は
強い説得力を持って私を圧倒した。

多数派とは異なる道を自ら選択してすすむのは、“なんとなくコンサバ”でいるより茨の道ではあるわけだから。
「無理ながらも、バイトはしていましたよ。会社で事務を。できないこともありましたけど、ムードメイカー的な立ち位置でなんとかやることはできて。ああ、他のところにいっても、自分はこんなふうなポジションになるんだろうなぁ、と。(精神的には)絶対無理だけど(現実的には)やればできる、と分かったことはよかった。自信にはなりました」

「……ムードメイカーのポジション、すごくわかります。というのも実は、私自身も色々と無理なんですね。組織に所属する、ということとか」

意外だと思われるかもしれないですが…というニュンアンスで打ち明けたつもりだったのに、
「絶対に無理だと思いますよ!」。
とっくに知っていますよ、何を今更!みたいな感じでばななさんは言った(笑)。

「はい…(笑)。今でこそ集団が苦手なんて言っていますけど、当時は自ら立候補して学級委員をするような小学生だったんですね。ただ、立候補しているところからもわかるように、自分の考えをいちいち伝えないといられない性質で。
納得がいかないのに黙っている、ということが子供の頃からできなくて。つまりは協調性がなくて。校則に納得できないから理由を教えてくれ、と職員室に聞きに行ってはよく先生たちと揉めていて(笑)。
それで日本が嫌になって留学して。アメリカは向いていたんですが、日本に戻ってきた大学一年の時に、集団と共に流れに沿わなくてはならないことへの苦痛をまた体感して。
こうなると会社に就職する、ということが“向いていない”を通り越えて“私には無理だ…”と痛感したところから、それならフリーランスでなんとか生計を立てられるようにならなければ私はこの日本社会では食ってはいけないぞ、と猛烈に焦り始めて」

私は話しながら、ポジティブな動機よりも
「無理なことがある」という
ある意味ネガティブな抵抗力のほうが、
別の道を開拓するための原動力になるのかもしれない、と考えていた。

「だから、まわりからは夢を追っていて熱いね、と
言われたけれど私にとっては死活問題だったんです」

「そこまで強い抵抗感がないとここまで独立しない、
というのもあるかもしれないですね。“無理、から始まる”というような。

あとは、(学校を含めた社会の中に居心地の悪さを感じる人は)自分が好きなカルチャーから居場所を見つけられたらいいですよね。
私の場合はロック系で。ライブハウスでいろんな大人たちに出会って。あ、こんな生き方もあるんだって(そこで)思ったのはありましたね。音楽関係の人たちを見て。
だから、いくつか(居場所)を持っているといいですよね。ただ家にいるだけだったら何も起きないから。クラブなのかクラブハウスなのかヤンキーなのか、どっか自分と近い人がいる場所を。

HIPHOP界にも、
沢山いるじゃないですか。
独自の生き方をしている人が」

>>第3話「コンサバ or 吉本ばなな, and HIPHOP.」

吉本ばなな:‘64年生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。1987年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30カ国以上で翻訳出版され、国内のみならず、海外の文学賞も多数受賞。近著に『ミトンとふびん』『私と街たち(ほぼ自伝)』など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。noteはこちら

LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.とフロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。小説、エッセイなど著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら

文/LiLy 撮影/須藤敬一 ヘア&メイク/YOSHIKO(SHIMA)(吉本さん)、伊藤有香(LiLyさん) 構成/三井三奈子(本誌)

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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