ライフスタイル特集
2019.8.6

宇垣美里さん「そんなの男社会の勝手な言い分。ガチンコ勝負したほうが良くない?」…働く女性の背中を押す1冊とは

老舗百貨店の外商員として男社会のなかで奮闘する高卒、中途採用、バツイチ、アラフォー女子の主人公・鮫島静緒。顧客は日本有数の高級住宅地・芦屋のセレブたち…。ベールに包まれた外商の仕事を赤裸々に描いて人気沸騰の『上流階級 富久丸百貨店外商部』。文庫版第2巻の発売を記念して、今作を絶賛しているフリーアナウンサー・宇垣美里さんが、働く女性としての想いを語りました。

 

%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%83%88%e7%94%a8%e2%98%853v9a3681-re
男社会のなかで窮屈な思いをしている女性たちにこそ、読んでほしい1冊

 

■出たとこ勝負の突撃取材が、実を結んだ作品。

高殿さん:『上流階級 富久丸百貨店外商部』文庫版第2巻にメッセージを寄せてくれてありがとうございます。

宇垣さん(以下敬称略):第1巻の帯を拝見するとデヴィ夫人のお顔が……。その後が、私なんかでいいのかなと、恐縮しちゃいました。

高殿:上流階級の世界をよく知るデヴィ夫人に続いて、今回は物語の舞台でもあり私の故郷でもある神戸や芦屋にゆかりのある方に、ぜひお願いしたかったんです。宇垣さんのご実家はいまも神戸にあるんですか。

宇垣:はい。神戸生まれ、神戸育ちで、両親はいまも神戸に住んでいます。垂水区なので芦屋まではちょっと距離がありますが、子供の頃から馴染み深い場所。富久丸百貨店は大丸がモデルなのかなぁ、と想像しながら読ませていただきました。

高殿:私たち神戸人にとって、百貨店といえば大丸ですものね!

宇垣:私は子供の頃から百貨店が大好きで、両親によく連れて行ってもらっていました。でも上級顧客を扱う外商部とは、もちろんまったく無縁。この本でその実像に触れ、うわぁ、本当にこんなきらびやかな世界があるんだと、驚きました。高殿さんは、なぜこの本を書こうと思われたのですか?

高殿:たとえばロンドンに行くと、ハロッズやセルフリッジズなどの老舗百貨店は今なお憧れの存在です。でも、1巻を書いた当初は、関西は今のようにインバウンドの恩恵もなく、日本の百貨店は元気が無いと言われていました。それが悔しくて、何かのかたちで応援したいという気持ちがあったのかもしれません。

宇垣:しかも、舞台として選ばれたのが、百貨店の中でも特殊というか、特別な仕事を担当している外商部です。

高殿:他のすごい作家さんたちがすでに手を付けているところを、後から私が書いてもなかなか注目されないだろうと思っていました。ここに鉱脈があるんじゃないかと勘が働いたのが、百貨店の外商という仕事だったんです。

宇垣:私たちの慎ましやかな生活とはまったくかけ離れた世界なのに、まるで隣町で起こっている出来事のように感じるリアルなエピソードが満載です。読んでいて、もしかしたら高殿さんは、百貨店の外商に勤められたご経験があるのではないかと思いました。

高殿:うれしい。取材をもとに想像力をフル稼働して書いた作品なので、著者にとって一番の褒め言葉をいただきました。

宇垣:外商部はまさしく“上流階級”の方々を相手にされる仕事です。情報管理も徹底されていると思います。取材するのは難しくありませんでしたか。

高殿:私は、いつも出たとこ勝負。思い立ったらまず突撃取材をするんです。国内の有名百貨店の広報部に、かたっぱしから外商部の取材をしたいと申し込みました。でも、どの百貨店も口裏を合わせているんじゃないかと思うくらい見事に返事はNO。そんななかで唯一、ちょっとだけなら話を聞いてあげてもいいよと、門戸を開いてくれたのが大丸さんだったんです。もちろん最初から、詳しいお話を伺うことはできません。何度もしつこく足を運んでいるうちに、少しずつ教えてくださるようになって、こうじゃないか、ああじゃないかと手探りしながら書いたのが1巻です。取材先は大丸さんだけじゃなくて、三越をお辞めになったカリスマ外商員の方や、そごうや伊勢丹などで働いていらっしゃる方も個別にリサーチして、混ぜて書いています。

宇垣:義母の財産を当てに脛をかじる嫁たちやワケありっぽいセレブなども登場して、顧客の顔ぶれもバラエティに飛んでいます。ヤクザさんが出てくるのも神戸らしいといえば神戸らしい(笑)。

高殿:それでも、さすがに外商員の方を直接取材するのは難しい。そこで外商部の顧客である芦屋のリッチな方にコネクションを持っている人は誰だろうと考えました。いろいろリサーチする中で、不動産業の方ならご存じじゃないかと。たまたま、ある不動産会社の社長さんとご縁ができて、お話を伺わせていただきました。もちろんプライバシーに関わるようなことはお聞かせいただけませんが、漏れ聞こえてくるエピソードの断片をジグソーパズルみたいに組み合わせていくうちに、なんとなく芦屋のセレブとお付き合いする外商の世界ってこうなんじゃないかと見えてきたんです。一度だけ、外商さんに同行させていただいたことがあるのですが、アタッシュケースに宝石がごろごろ入っていて、その総額がなんと10億円。持ってみますか? どうぞ、どうぞ、って無造作にケースを渡されて…小市民なもんで、震えちゃいました(笑)。

%e3%81%95%e3%81%84%e3%81%a83v9a3587

■ゴージャスすぎて言葉も出ない「芦屋あるある」。

宇垣:私なら、盗まれるんじゃないかと心配で、アタッシュケースをぎゅっと抱きかかえて歩きそう(笑)。高殿さんは、現在芦屋にお住まいになっているんですよね。

高殿:この本の取材で通っているうちに、なんだかいい街だぞと思うようになって…。たまたま私でも手が届く物件があったので、6年ほど前に思い切って購入したんです。

宇垣:実際に芦屋に住んでみて、新たな発見はありましたか。

高殿:「芦屋あるある」ですね! たくさんありますよ(笑)。スケールの大きいところでは、市立美術館が閉館せざるを得なくなったときに、芦屋の住人の方々が美術館のない街に、自分たちの子供を住まわせたくないと、自分たちのコレクションを寄贈したり、寄託したりして美術館を存続させたそうです。それがまたすごい作品ばかりだったとか。

宇垣:うわぁ、なんだか桁違いで、言葉も出ない。やっぱり上流階級の街だ(笑)。

高殿:芦屋って、山の斜面に造られた街でしょう。急な坂の上に高級住宅地が広がっている。ところがフェラーリのようなスポーツカーは車高が低い。急坂を登ろうとすると、フロントをこすっちゃうらしいんですね。

宇垣:えっ? それじゃ車で家に帰れないじゃないですか!

高殿:だから、みなさん「地上の家」をお持ちなんです。

宇垣:なんですか、「地上の家」って?

高殿:私たちが勝手にそう呼んでいるだけなんですが、坂の下の平坦な場所にもう一軒ガレージ付きの家があって、そこに車を停めてから坂の上の家に帰るそうなんです。

宇垣:スケールが違いすぎ…。なんだか、芦屋の豪邸が天空の城みたいに思えてきちゃった(笑)。

 

男社会の勝手な言い分にNО! ガチンコ勝負しよう。

saito%e2%98%853v9a3606%e3%80%8c%e3%81%8d%e3%82%89%e3%82%89%e3%80%8d%e3%81%a7%e4%bd%bf%e7%94%a8
高殿:宇垣さんはこれまでTBSという大きな組織の中で戦ってきて、今年フリーランスになられたばかりでしょう。出演されている番組を拝見していると、環境は変わってもご自身の態度は変わらず忖度なく発言されている。自分の軸をはっきり持っている方だなという印象で、主人公の鮫島静緒にも通じるところがあるのかなと思いました。

宇垣:静緒が男ばかりの外商部の中でバリバリ頑張っている姿はすごく励みになりましたし、特に恋愛が二の次で何が悪いの、という彼女の生き方にはちょっと背中を押されるような気持ちになりました。

高殿:ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。

宇垣:私はこれまでの人生の中で、女性に嫌がらせされるより、男性に嫌がらせされることのほうが圧倒的に多かったんです。女性はネチネチしていて陰湿だって言われるけれど、それは違うと声を大にして言いたい。マスコミも男性中心の社会なので、古い体質のところもあるけれど、「お茶くみをしろ」だとか「セクハラなんてうまくうけながせばいい」という風潮に対しては、最初の段階から「NO」と大きな声で言っていました。それが良かったのか悪かったのかはわかりませんが、これからはもっと私のような女性が増えてくるでしょうし、そうじゃないといけない。

高殿:大賛成です!!

宇垣:だから、静緒の仕事に向かう姿勢やど真ん中から正面突破する生き方にすごく共感できる部分が多かったんです。おお、そうだ、そうだ、もっとやっちゃえと、自分に置き換えながら読みました。日本の社会では理不尽なことがあってもうまくいなすのが大人の女性だって言われるけれど、そんなの男社会の勝手な言い分。ガチンコ勝負したほうが良くない? って思いませんか。静緒のように。だからこの本は、会社や社会で窮屈な思いをしている女性たちにこそ読んでほしいと思います。

高殿:かっこいいなぁ。宇垣さんに課金したい(笑)。

宇垣:静緒は、高卒、中途採用、バツイチ、アラフォー。同僚の桝家修平は、資産家のお坊ちゃまだけど養子に出されていて、しかもゲイ。ふたりは、芦屋の豪邸で仲良く同居を始める。でも、そこには恋愛関係はまったくない。不思議な関係ですよね。

高殿:ふたりの関係には、みんなが納得するような名前がないんです。恋人でもない、家族でもない、親友でも、友達でもない。しかし周りは恋愛関係があると決めつけたがる。人間関係に限らず、今の社会は、名前がないものに対して評価がすごく低いんです。そういう風潮に抗おうと、ふたりのキャラクター設定をしました。

宇垣:私にも男友達はいますが、もしその人とふたりで食事に行って写真週刊誌に撮られたら、私はその人と付き合っていることになってしまう。それまでの友達関係も壊れてしまいます。世間が思うような恋愛や結婚という関係じゃなくても、お互いにかけがえのない存在だと思っている関係性って絶対にあるし、そういう人がいる人生ってすごく幸せだなと思います。

高殿:最近よく友だちと話すんですが、みんなでビルを建てて、そこに集まって一緒に暮らせたらいいねって。

宇垣:その気持ち、よくわかります。私も、高校時代の友人たちと一緒に遊んでいる時間が一番のストレス解消なんです。何者かになる前の自分を知っている人たちどうしだから、心を解放してすごくリラックスできる。

高殿:気心の知れた人たちが近くに集まって、なにかあったら互いに助け合う。友達が何人以上集まって暮らしたら住民税が安くなるとか…「家族割」ならぬ「近所割」も作ってほしい(笑)。社会がすこしでもそういう方向に向かっていけば、生きにくい世の中もちょっとは変わるかもしれませんね。

宇垣:何者でもない自分に戻れる時間でいうと、一人旅も好きなんです。この間は、ミラノへ行ってきました。

高殿:旅好きなところも似ていますね。私も時間ができたらすぐに、取材を兼ねていろんな所に出かけます。今回は、ウズベキスタンから帰ってきたばかり。素敵なところでした。

宇垣:うらやましい! 青の街サマルカンド。今一番行きたい場所なんです。もしよかったら詳しい旅の情報、教えてください!

 

【プロフィール】
宇垣美里(うがき・みさと)
フリーアナウンサー。1991年生まれ、神戸市出身。同志社大学卒業後、TBSに入社。情報番組『あさチャン!』、バラエティ番組『炎の体育会TV』、報道番組『ニュースバード』などを担当。2019年4月よりオスカープロモーションに所属、フリーアナウンサーとして活躍中。

高殿 円(たかどの・まどか)
神戸市生まれ。2000年に『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。『トッカン 特別国税徴収官』『上流階級』はドラマ化され話題に。ほか『政略結婚』など著書多数。

JouryuKaikyu2_cov.5ko

【作品紹介】
小学館文庫『上流階級 富久丸百貨店外商部 2』

著/高殿 円
定価:¥810(本体)+税

 

文・構成/片原泰志 撮影/五十嵐美弥

この記事をシェアする

facebook Pinterest twitter google+ Pocket

関連記事を読む

あなたにおすすめの記事