和文化研究家・齊木由香さんに聞く、現代版歳時記から見る、女性の真の美しさとは?

「薄れゆく日本の文化を次世代に継承する」ことを目的に、2011年より和文化研究家として活動をしている齊木由香さん。鹿児島で創業130年を越える酒蔵を営む家系に生まれ、幼少期から毎日着物で過ごす祖母のもとで、土地に根差した昔ながらの日本の暮らしに親しんでいたといいます。その当時の“原体験”を改めて振り返り、執筆したのが『「和の暮らし」を楽しむ旧家の歳時記366』の出版を記念して、『美的.com』でインタビュー。
366日四季折々の年中行事や事物をまとめた現代版歳時記を、今、出版するワケ
齊木さん「祖母と幼少期に過ごした日々は、季節や場面に応じた装いや、庭に咲く花々を季節に応じて花器とあわせてしつらえるなど、歳時記をそのまま実践するような、暮らしの中にそんな生活の知恵があふれていました。大学進学で上京し生活していく中で、子どもの頃に過ごした情景と似た場所や場面に遭遇すると、とても懐かしく心地よく感じる一方で、一歩外に出ると、和の大切な文化が薄れてしまうような別世界が広がっているギャップに大きな違和感を感じるようになりました」
これを機に、次世代への文化の橋渡しができるようになりたいと考え始めたのが25歳。そこから伝統文化に関する学び直しを経て、和文化研究家として活動を開始。もてなしの心・所作を現代に伝える取り組みを行いながら、今回の書籍化へとご縁が繋がったそう。
歳時記とは、366日四季折々の年中行事や事物をまとめた、いわば暮らしの百科事典
まずは幼少期に過ごした生活を思い返し、366日分のトピックを書き出すことから始まったと言います。
齊木さん「お正月になると新たな年のはじまり、その年の平安や幸福を祈ると共に、節目として厳かな気持ちで家族そろって和服で初詣に出かけていました。日常ではお椀の持ち方や箸遣いはとても重要視して学んでいましたし、自然を五感で感じる事も常々意識づけられていたように思います。6月になると実家の敷地内に流れていた小川に複数の蛍がやってきて光を放っていた光景、五右衛門風呂から眺めていた星空や澄んだ空気、焚火の匂いは今でも鮮明に覚えていますね。こうした思い出を振り返りながらも、この内容はこの時期に相応しいのか、私が暮らしていた鹿児島での風習は、ほかの地域で手に取ってくださる皆様に参考にしていただけるのか…と、文化的背景について検証をするのに非常に時間を費やしました」
暮らしの中で日本の文化を楽しむ方法は、今の世に合わせたアレンジも少し交えています。例えば、昔から神聖な場所として大切にされてきた和室(床の間)が近年少なくなり、そのしつらいをリビングで再現できるように提案。現代の暮らしでいかに創意工夫できるかを大切にしているようです。
さらに、齊木さんが語り継ぐ歳時記のイメージを、忠実に再現して添えられたイラストにも注目。
「私の実家に残された写真を参考にして、丁寧に描いていただきました。お椀を持つ際の手の位置や、お辞儀の角度、端午の節句では菖蒲の花を生ける際には根元をぐっと寄せると美しいため、一つ一つ提示しながら何度も確認をして進める作業の繰り返し。素晴らしい絵も一緒に皆様に届けることができ、それにお付き合いいただいたイラストレーターの皆様・編集者の方には感謝の念に堪えません」
おもてなしの心が、自分を磨き上げ、美しさへと繋がる。
書籍の中では、日本人女性が持つ美しさを再認識する所作、ならわしなども多く散りばめられています。そのほとんどは、古くから相手との調和を主としてきた日本人の「おもてなし」のアイデンティティの礎から来ている、と齊木さん。
齊木さん「自分主体ではなく、相手から見た“姿”や“しつらえ”を意識することによって感性は磨かれて、他者を慮るこころを養っていけると思います。その意識だけで、ちょっとした動作や振る舞いにも現れて、様々なシーンでご自身が一目置かれることに繋がっていくはずです。私自身も以前、茶道のお茶会で亭主が一度綺麗に掃いた門にあえて2枚3枚落ち葉をしつらえて、そこに元々落ちていたかのようにしていたのが印象的で忘れられません。相手に気づかせないほど繊細に自然観を演出する亭主の姿に深く感銘を受けて、日本人が持つ美意識の奥深さを感じました」
寒さも厳しくなり、女性特有の悩みや不調も多いこの季節。毎日意識することができなくても、新年を気持ちよく迎えるために、アンチエイジングにも繋がる知恵を最後にひとつ伝授していただきました。
「人の知恵は、研ぎ澄まされた感性の中で理にかなっていることがとても多く感じられます。例えば、冬至(今年は12月21日)は節気の節目であり、陰陽の中で陰が極まり陽に転じる日。『「ん」がつくものを食べると運気がよくなる』とはよく言ったもので、この日に「大根」「ニンジン」「蓮根(れんこん)」「南京(かびしゃ)」など取り入れると運気があがると言われています。確かに根野菜に「ん」が付くものがこの時期に多く、体を温める効果があるに加え、栄養素も高いため実はとても健康にも良い、生活の知恵でもあるということです。このように、季節に応じた古くからの云われは、とても深い意味もあり、実践することで本当に気も良くなるような効果が絶大です。是非、手軽なところから生活の中に取り入れていただき、素敵な年末年始・新年度をお迎えくだされば嬉しく思います」
【書籍紹介】
『「和の暮らし」を楽しむ旧家の歳時記366』
齊木由香
定価:1980円(税込)
発行:主婦の友社
公式(https://books.shufunotomo.co.jp/book/b10087977.html))
Amazon(https://www.amazon.co.jp/dp/4074604051/)、楽天ブックス(https://books.rakuten.co.jp/rb/17980661)、
全国書店にて発売。
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
1982年鹿児島県伊佐市生まれ。日本文化に精通する祖母のもと、幼少期より着物を日常的に身に着け、四季折々の伝統行事やしきたりを実際に体験しながら育つ。大学で日本の衣食住の専攻し、2011年礼法の教授資格を取得。以降、和文化研究家としてメディアでの専門家解説、ドラマやCMでの所作指導・現場監修ほか、企業向けのマナー研修などを積極的に行う。2024年に文化庁後援事業 「日本検定(英名:Japan Quest)」を立ち上げ、若い世代や海外に日本文化の正しい知識を発信するプラットフォームをスタート。