ライフスタイル特集
2025.10.16

「宝塚版とは別物」明日海りおが挑戦する“愛の物語” ミュージカル『エリザベート』への思い【前編】

10月10日に幕を開けた『エリザベート』。ミュージカル界を席巻するキャストが総出演する勢いで、大きな話題を呼んでいます。今回はエリザベート役のひとり、明日海りおさんにお話をうかがいます。

錚々たる顔ぶれの共演者と舞台を作るのが楽しみ

10月10日に東急シアターオーブで幕を開けた『エリザベート』。宝塚歌劇で再演を重ね、東宝ミュージカルの中でも絶大な人気を誇る作品のひとつです。

今回はトートに日本ミュージカル界を代表する古川雄大さん・井上芳雄さん・山崎育三郎さんを迎え、さらにタイトルロールのエリザベートは、宝塚歌劇団の同期として切磋琢磨してきた明日海りおさんと望海風斗さんのダブルキャスト。

宝塚歌劇時代は花組トップスターとして『エリザベート』のトート役を務めた明日海りお(あすみ・りお)さんが、今回はエリザベートに転身。明日海さんの作品に対する思いや、共演の方々とのエピソードを深掘りします。

素晴らしい楽曲と重ねてきた年月が『エリザベート』の愛される理由

——『エリザベート』のお話は早くからいただいていたのでしょうか?

明日海さん:お世話になっているマネージャーさんから電話でお話をいただき、すぐに教えてくれたんです。びっくりして、気づいたら涙があふれていました。

実は、声をかけていただいて、オーディションのような歌唱をする機会があったんです。そのとき、役の気持ちに寄り添えず歌にのせることもできないまま終わった感覚があり、すごく残念な気持ちでいたんです。

そのときの歌唱を録画していたのですが、それを観て、 自分に足りない部分を突きつけられた思いで、その日の夜はずっと泣いていた覚えがあります。

そのくらい悔しかったと同時に、私は 『エリザベート』という作品にも「エリザベート」という役にとてつもなく惹かれていたんだ、ということを自覚しました。

こんなに大きな作品のタイトルロールを「やりたいです」とはなかなか言えるものではなく、でもきっとそういう気持ちはあって、そのあたりは怖くて自分の中ではっきりさせずにいたんだなと思いました。

——実際に出演のオファーがきてどう思われましたか?

明日海さん:驚きもありつつ、とんでもないことになってしまったという気持ちもありました。連絡をいただいた翌日の朝には、ドッキリだったらどうしようという気持ちが出てきて。『エリザベート』について何も発表されていない状況でしたから、ある日突然「実は間違いでした」と言われる可能性もなくはないじゃないですか(笑)。

——何度も再演されていてファンの多い『エリザベート』の魅力はどんなところだと思いますか?

明日海さん:出演したことのある 宝塚版と今回の東宝版は、演出も歌詞も、構成も違うため私はもはや別物だと思っています。 でもやっぱり、“愛の物語”という根っこは同じ。

素晴らしいラブソングの数々があり重ねてきた年月があるから、絶大な人気を誇っていると私は思います。

観る方の年齢や回数、どの人物に重きを置いて観るかでまったく感じ方が変わると思うんです。さらにいろいろな方が演じてこられたからこそ数々の解釈や表現方法があって、それはこれからもまだまだ続くこと。その永久さは『エリザベート』ならではですよね。

トート役の古川雄大さん・井上芳雄さん・山崎育三郎さんとのエピソード

——トート役はご縁のある3人ですが、何かエピソードはありますか?

明日海さん:古川雄大さんは春に『昭和元禄落語心中』で共演して、それ以来の再会でした。そのときのお互いの役の印象があるから、実は少し身構えていたんです。楽しい恋愛ではなく悲恋という感じでしたから。

でも、初めての方もたくさんいる『エリザベート』のカンパニーの中に、 知っている古川さんの顔を見つけたときになんだかホッとして(笑)。 見るたびに新しいチャレンジをされていて、古川さんならではのトートを感じるのが待ち遠しいです。

井上芳雄さんは舞台に限らずいろいろなジャンルに挑戦されていて、常に第一線を走っている方。初めて共演させていただいたのが2022年の『ガイズ&ドールズ』で、ことあるごとに温かい言葉をかけてくださいます。

ミュージカル界の大きな存在ではありますが、 “お兄さん”的な親しみを感じています。 …とってもあつかましいのですが(笑)。今年、菊田一夫演劇賞をいただいたときにも連絡をくださいました。頑張りを肯定してくれて明るい未来に導いてくださる方です。

次に芳雄さんと共演できる機会があるなら、必ず成長した姿を見ていただきたいとずっと思ってきたので、どう感じてくださるか怖くもあり楽しみでもあります。

山崎育三郎さんとも『昭和元禄落語心中』以来です。舞台人として持っていらっしゃるものや表現方法が、おふたりとはまた違うじゃないですか。落語心中の育さんしか知らないので、今回違う作品で、そして トートになった育さんと対峙したときにどんな感情になるのか楽しみです。

育さんは北海道公演からなので、お会いするのはもうちょっと先かな。それまでに、シシィ(エリザベート)としてさらにレベルアップしておきたいと思います。

宝塚時代からの盟友・望海風斗さんとのエピソード

——エリザベート役でダブルキャストの望海風斗さんは、宝塚歌劇団で同期、そしてともにトップスターを務めた間柄です。どんなお話をされましたか?

明日海さん:発表されたときに 「こんな未来が待っているとは信じられないね」というやりとりはしました。 きちんと話したのは、だいもん(望海風斗さんの愛称)のラジオ(NHKラジオ『望海風斗のサウンドイマジン』)に出演させていただいたとき。それから稽古場で久しぶりに会って話しました。

ダブルキャストなので稽古場では協力体制です。 同年代で今のミュージカル界を牽引していると言ってもいいほどの唯一無二の存在で、大尊敬しているだいもん。 稽古場ではお互い鏡のような存在で、「今のシーンはこうだった」とか「ここが素敵だったよ」というのをいちばん早くに見られて、いちばん早くに伝えられるのはとても幸せなことだと感じています。

でもあんなに素晴らしいだいもんですら、ちょっと緊張しているように見えたり、心細そうにしているのを垣間見たときに、改めて『エリザベート』という作品の偉大さを感じました。だいもんが歌っているのを見ながら、「この背中に『エリザベート』を背負っているんだ」と。

そこに自分を重ね、 大きな作品のタイトルロールを務めることのプレッシャーや怖さを感じてなんとも言えない気持ちになりました。 そんな中で、10代の頃から知っている家族みたいな彼女は、本当に心強い存在です。

私たちが出会ったのは、『エリザベート』でいうとシシィが「パパ」と甘えている年齢の頃なんですよね。緊張感のある現場で、ホッとリラックスできる時間が持てたり、ちょっとした手助けができたらいいなと思っています。『ガイズ&ドールズ』で共演したときに 田代万里生さんが、「ふたりは稽古場でタンポポみたいに寄り添っているね」と言ってくださった のがうれしかったです。

明日海さんが目指す「エリザベート」像とは?

——明日海さんご自身は、どんな「エリザベート」を目指したいですか?

明日海さん:生きとし生けるものすべての終着点となる“死”そのもの(トート)が、ひと目見たときから心を奪われて追い求める存在がシシィ(エリザベート)であるわけじゃないですか。

「凍った心を溶かす」ってどんな魂を持っているんだろうと、いつも考えています。トート役の3人とそれぞれで生まれるものは違うと思いますが、トートにそこまで思わせるシシィの魂をどう演じたらいいのかを自分なりに突き詰めていきたいです。

ミュージカルファンなら一度は触れたことのある大作であり、名作。出演する方々も魅力にあふれていて、「早く観たい!」とうずうずしている人も多いのではないでしょうか。

美容にもこだわりがあったというエリザベートになぞらえ、後編は明日海さんの美容についてお話をうかがいます。

明日海りおの〈透明感〉の秘密を探る! 宝塚退団後のスキンケア&ベースメイクのこだわりと美の習慣〈後編〉

宝塚OG連載 過去の記事一覧はこちら

ミュージカル『エリザベート』

【Story】
自由を愛し、類なき美貌を誇ったハプスブルク帝国最後の皇后エリザベートと、彼女を愛した黄泉の帝王「トート=死」。トートはエリザベートが少女の頃から彼女の愛を求め続け、彼女もいつしかトートの愛を意識するようになる。しかし、その禁じられた愛を受け入れることは、自らの死を意味した。滅亡の帳がおりる帝国と共にエリザベートに「運命の日が訪れる——。

【クリエイティブ】
脚本/歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出/訳詞:小池修一郎(宝塚歌劇団)

【出演】
エリザベート(ダブルキャスト):望海風斗/明日海りお
トート(トリプルキャスト):古川雄大/井上芳雄(東京公演のみ)/山崎育三郎(北海道・大阪・福岡公演のみ)
フランツ・ヨーゼフ(ダブルキャスト):田代万里生/佐藤隆紀
ルドルフ(タブルキャスト):伊藤あさひ/中桐聖弥
ルドヴィカ/マダム・ヴォルフ:未来優希
ゾフィー(ダブルキャスト):涼風真世/香寿たつき
ルイジ・ルキーニ(タブルキャスト):尾上松也/黒羽麻璃央

【東京公演】
20251010日(金)~1129日(土)
会場:東急シアターオーブ

【北海道公演】
2025年12月9日(火)~18日(木)
会場:札幌文化芸術劇場 hitaru

【大阪公演】
20251229日(月)~2026110日(土)
会場:梅田芸術劇場メインホール

公式サイト

明日海りお
あすみ・りお/2003年、宝塚歌劇団に入団し、14年に花組トップスターに就任。『エリザベート−愛と死の輪舞−』『ポーの一族』など数々の話題作で主演を務める。5年半のトップ在任期間を経て、19年11月に惜しまれながら退団。退団後は、NHK連続テレビ小説『おちょやん』、ミュージカル『マドモアゼル モーツァルト』『ガイズ&ドールズ』などに出演。近年の出演作は、ミュージカル『王様と私』『9 to 5』『昭和元禄落語心中』『コレット』、ドラマ『下剋上球児』『推しを召し上がれ~広報ガールのまろやかな日々~』『グレイトギフト』など。2026年『エリザベート TAKARAZUKA 30th スペシャル・ガラ・コンサート』へ出演予定。
▶︎公式サイト
▶︎Staff X:@asumirio_staff

ワンピース¥61,600(ランバン オン ブルー) 0120・33・8868 
イヤリング¥19,800(ドレスアンレーヴ<1DKジュエリーワークス>) 03・5468・2118
シューズ/スタイリスト私物

撮影/天日恵美子 ヘア&メイク/山下景子 スタイリスト/大沼こずえ(eleven.) 構成・文/淡路裕子

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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