世界的調香師、ジャン=クロード・エレナさんが語る唯一無二の香り論【松本千登世「へーっ、美容って自由なんだ!」vol.4】
年齢とともに常識という枠にとらわれがち。美容も例に漏れず。そんな私の凝り固まった価値観や美意識をがらりと変えた「ひと」「もの」「こと」をひとつひとつ丁寧に綴りたいと思います。第三回は、香りが語りかけるという視点について。【松本千登世「へーっ、美容って自由なんだ!」vol.4】
物語を紡ぐ香りと出会う、それは大人ならではの醍醐味
14年間、専属調香師を務めたエルメスのほかにも、手がけたフレグランスは数知れず、伝統あるフレグランス界のアカデミー賞と呼ばれる「Fragrance Foundation Awards」も多数受賞。そして現在は、クヴォン・デ・ミニムのオルファクティブ ディレクター。それが、ジャン=クロード・エレナさんです。じつは私、以前エレナさんにお目にかかったことがあって、なんて色っぽい人なの! と感動。以来、彼のクリエイションを心待ちにしていました。
ジャン=クロード・エレナ氏。2019年の就任以来、クヴォン・デ・ミニムで「ボタニカルコロン アブソリュート」「シンギュラー オーデパルファム」「リマ―カブル パルファム」を監修。
そして、クヴォン・デ・ミニム シグネチャー コレクションの誕生。画面越しではあるけれど、エレナさんと取材するチャンスをもらいました。「チュベローザ」「ミモザ」「アンブラ」の3種で構成されているこのコレクションは、どれも静かに語りかけてくるような香り方が印象的です。
「ネーミングのシグネチャーとは、つまり、私のサインが入っているということ。私自身の深いところで感じたものが、ボトルの中には込められています。たったひとつしかないような芸術作品を創るつもりで、誕生させたんです」
100%ヴィーガンのフレグランス。
〈右から〉シグネチャー チュベローザ(チュベローズ アブソリュート & サンダルウッド)、シグネチャー ミモザ(ミモザアブソリュート & シダーウッド)、シグネチャー アンブラ(セントジョンフラワー アブソリュート & ラブダナム) 各100ml ¥23,760、10ml ¥4,180(クヴォン・デ・ミニム)
イタリア語で「聞く」を意味する動詞「sentire」は、フランス語で「嗅ぐ」を意味すると聞き、驚きました。
「出張で中国に行ったときのこと。たまたま訪れたお寺の説明書き看板に、『自然に耳を傾けなさい』と書いてありました。なんと詩的な表現なんだろうと思いました。音を発しないものに耳を傾ける意味は、無限だと。きっと、日本の方ならわかってくださるはずです。sentireがふたつの意味を持つことは、まさに真実だと感じました。香りは語りかけてくる。花は、私たちに語りかけているんです」
語りかけてくる香りに耳を傾ける。その解釈はひとそれぞれ。思いもしなかった香りの捉え方に、はっとさせられました。
「だからこそ、香りをsentireする私たちは、香りに自分自身の物語を込め、語らなくてはいけないんです」
ちなみに、フレグランス創りにおいて、心がけているのは、詩人ルネ・シャールの「少しの驚きと、少しの反抗心、そして、少しの親切心を広めること」に集約されているとエレナさん。「少しの」が何を意味するのか、とても気になりました。
「驚きとは、私自身も皆さんもよい驚きを感じること。親切心とは、自分の素晴らしい体験を皆さんと分かち合うこと。反抗心とは、思いがけないものを表現するということ。すべてにおいて、愛を持っていれば、この3つは自ずと現れてくるのだと思います。『少しの』の意味? それは、謙虚さ。クリエイションをするときに常に考えているのは、私の存在を消すこと。私が大事なのではなく、クリエイションが大事なのだから」
「チュベローザ」も「ミモザ」も「アンブラ」も。語り出すのは、それまで思っていた画一的なものではありませんでした。10人いたら10通りの、100人いたら100通りの解釈。香りに出会うことで「私」だけの物語を紡げたら。大人ならではの楽しみがまた見つかりました。
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