「シングルファーザー、美容学校へ行く」が教えてくれたこと【松本千登世「へーっ、美容って自由なんだ!」vol.8】
年齢とともに常識という枠にとらわれがち。美容も例に漏れず。そんな私の凝り固まった価値観や美意識をがらりと変えた「ひと」「もの」「こと」をひとつひとつ丁寧に綴りたいと思います。第八回は、シングルファーザーとひとり娘の絆を強めた「髪型」について。【松本千登世「へーっ、美容って自由なんだ!」vol.8】
ヘアアレンジが広げる、生き方の「無限の可能性」
コロナ禍以来、帰宅が遅くなることも減っていました。その日は珍しく、仕事が延び、家に着いたのが夜8時半前。早く着替えたい、早く夕飯にしたい、ばたばたと焦りながら、ニュースはまだ?とTVのスイッチを入れました。たまたまフジテレビの番組『奇跡体験!アンビリバボー』のオンエア中。「シングルファーザー、美容学校に行く」という、一見ちぐはぐなタイトルに心を掴まれ、画面に目が釘付けになりました。
内容は、こう。アメリカ・コロラド州に住み、専門学校で事務員として働くグレッグ・ウィックハーストさんは、娘のイジーちゃんが1歳半のときに妻と別れ、結局元妻はその後、娘の将来を見ぬまま亡くなった。男手ひとつ、家事全般をこなしながら、保育園への送り迎えから身の回りの世話まですべてに手を抜かず、娘を育てていた。ところが、ある日、近所の母娘と偶然会ったとき、グレッグさんは衝撃を受ける。その女の子がそれはそれは可愛くヘアアレンジをしていたから。片や、当時2歳半のイジーちゃんの髪は、手入れが簡単という理由で、何の変哲もないショートヘア。男親だからといって、娘の髪型に無頓着でいいのか? そこで、娘の髪が伸びたのを機に、ポニーテイルに挑戦したが、まったくうまく行かない。マニュアル動画を参考にするも、失敗の連続。それもそのはず、15年以上スキンヘッドのグレッグさんは、自分の髪すらセットしたことがなかったのだから! それでも諦められなかった彼が向かった先は、なんと「美容学校」。 実は、彼が勤務する専門学校の学部のひとつだったのだ。そこで、娘のためにヘアスタイリングを教えて欲しいと、美容学部の優秀な生徒から習うことに。帰宅後、イジーちゃん本人でチャレンジしたら……? 「パパ、グッジョブ!」。
@thehairdad プロも顔負けの、目を見張るようなヘアスタイルの数々。
その日から毎朝娘をモデルに独学で髪型を研究。さらにレベルアップしたグレッグさんは、ハロウィンやクリスマスなどイベントにちなんだヘアアレンジも考案した。そして、イジーちゃんのヘアスタイリングの画像とそのHow toをSNSにアップし続けたところ、大反響。特に父親たちから共感を呼び、フォロワーが激増、TVやニュースサイトなどのメディアにも取り上げられ、全米に知れ渡る有名な父娘となった。その後、グレッグさんは、父親を対象にしたヘアスタイリングのワークショップを企画するなど、活動を続けている。ヘアスタイリングを始めて6年以上が経ち、イジーちゃんは今、小学生。「お父さんのことが大好きです。ずーっといつもそばにいてくれるから。お父さんが髪を結んでくれるときに、話したりするのが楽しいです」とイジーちゃん。そして、グレッグさんは「『Perfect(完璧)』ではなく、『Present(そこにいる)』。子供のためにただそこにいること、私はそれが大切だと思います。子供にいつもそばにいると知っていてもらうことが」と語った……。
@thehairdad グレッグさんとイジーちゃん。イジーちゃんは先月10歳になった。
髪型が紡いだふたりの絆に触れ、胸が熱くなりました。それとともに、私がはっとさせられたのは、グレッグさんのこんな言葉でした。「イジーがもし、たくさんの髪型を経験してシンプルなショートカットを選ぶのなら、それでいい。でも、これしか知らないで、仕方なくこの髪型では、彼女に申し訳ない。イジーに無限の可能性を与えたいのです」。
これも美容の力。いや、これこそが美容の力に違いありません。改めて私が言葉にすることではないのだと思います。どうか、グレッグさんとイジーちゃんのストーリーにひとりでも多くの人が触れられますように。何を感じ、何を考えるか。それぞれの気づきと学びがあるはずです。
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