大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.7.24

『 追想 』『 ヒトラーを欺いた黄色い星 』 試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.457 】

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(C)British Broadcasting Corporation/ Number 9 Films (Chesil) Limited 2017

たった 1 日で終わった結婚。若い 2 人の狂った歯車は、止まることはなかった。

誰もが経験する〝 大人になる瞬間 〟の儚さと美しさを切り取った、唯一無二のラブストーリー。

追想
イギリス/110 分
8.10 公開/配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
tsuisou.jp

【 STORY 】 1962 年、夏。世界を席巻した英国ポップカルチャー「 スウィンギング・ロンドン 」が本格的に始まる前のロンドンは、依然として保守的な空気が社会を包んでいた。そんな なか、若きバイオリニストのフローレンスは 歴史学者を目指すエドワードと恋に落ち、人生をともに歩むことを決意する。結婚式を無事に終えた 2 人が向かったのは、美しい自然に囲まれたドーセット州のチェジル・ビーチ。しかし ホテルで 2 人きりになると、初夜を迎える緊張と興奮から 雰囲気は気まずくなるばかり。ついに口論となり、フローレンスはホテルを飛び出してしまうのだった。
家庭環境や生い立ちが まるで違う 2 人であっても 深く愛し合っていたが、愛しているからこそ生じてしまった〝 ボタンの掛け違い 〟。それは、2 人の人生を大きく左右する分かれ道となってしまう。フローレンスとエドワードにとって、生涯 忘れることのできない初夜。時と心を深く刻みながら、その一部始終が 今 明かされる……。( チラシより。一部省略 )

婚前交渉を経験しないまゝ夫婦となった若いカップルが、新婚旅行先の チェジル・ビーチ沿いのホテルで、初めてのセックスに失敗してしまう経緯を中心に描いた、悲劇的なラブストーリー。原作は イアン・マキューアンが ’07 年に発表した小説「 初夜 」( 本作の脚本も原作者自身が執筆。フラッシュバックを多用した構成 ) 。映画の原題は「 On Chesil Beach 」( 日本公開題名には、少々 的外れな印象を 僕は受けました ) 。

現代人の感覚とは大きく異なる ’60 年代初頭の英国の〝 開放的ではなかった性に関する意識 〟が 障害物のように立ちはだかってしまうドラマで、主役のふたりは、あと 5 年ほど後に生まれ育っていたなら、おそらく順調に 結婚生活をスタートさせるコトが出来た という気がします。しかし、結婚式の日取りも決まった後、性の指南書を読んだオクテのフローレンスが、男の性に対して 驚きと嫌悪に近い感情を覚える場面、及び ラストのシークエンスでの彼女を重ね合わせて考えると、フローレンスは〝 惚れて愛した男性とのセックスは、受け入れられない性格 〟だったとも想えてきます。
読者の皆さんには、本作を観る以上、「 どうして? 」「 どうなるの? 」と心配しながら 最後まで ふたりを見守っていてほしいので、詳しくは書かずにおきますが、正確には 僅か数時間で破局を迎えた後、数年後と 45 年ほど後のシーンが映し出されて、ふたりとも可哀相、But 特にエドワードが気の毒という思いを僕は抱きました。

フローレンス役の シアーシャ・ローナンは、『 レディ・バード 』( Vol.451 ) に引き続き スリムな姿形で登場。『 ブルックリン 』( Vol.346 ) を含めた三作で、セックスに対する意識が大きく異なるキャラクターを、全て真実味をもって演じたところに 実力の高さを感じさせます。たゞ、眉間にシワを寄せすぎている顔は、22 歳の役としては少々考えモノ…。
エドワード役の ビリー・ハウル ( 『 ベロニカとの記憶 』( Vol.431 ) でデビューしたばかりの新人 ) は、フローレンスとの破局の数年後、レコードショップを経営しているシークエンスでの演技に 寂しさと虚しさと優しさが出ていて、そこが最高に良かったです。
監督は、舞台演出家として高い評価を得ている ドミニク・クック。長編映画の演出は、これが第一作とのコトでした。

 

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© 2016 LOOK! Filmproduktion / CINE PLUS Filmproduktion ©Peter Hartwig

7,000 人のユダヤ人が戦時下のベルリンに潜伏し、1,500 人が終戦まで生き延びた衝撃的な史実!
いかにして彼らは、ヒトラー率いるナチスのホロコーストを免れたのか?

実際の生還者たちの証言を交えて、
知られざる真実を今に伝える感動の物語。

ヒトラーを欺いた黄色い星
ドイツ/ 111 分
7.28 公開/配給:アルバトロス・フィルム
hittler-kiiroihoshi.com

【 INTRODUCTION & STORY 】 第二次世界大戦下の 1941 年から ’45 年にかけて、ナチスに虐殺されたユダヤ人は 約 600 万人と言われている。そのうち 16 万人がドイツ国籍を持っており、ドイツ系ユダヤ人の国外移住は禁じられ、違法ルートでの脱出も ほぼ 不可能だった。そして ’43 年 6 月 19 日、ナチスの宣伝相 ヨーゼフ・ゲッベルスは、首都ベルリンから ユダヤ人を一掃したと 正式に宣言した。
しかし 事実は そうではなかった。約 7,000 人のユダヤ人がベルリン各地に潜伏し、最終的に約 1,500 人が戦争終結まで生き延びたのだ。ユダヤ人迫害の嵐が吹き荒れる極限状況のもと、彼らは どのようにして 身分を隠しながら 住みかや食料を確保し、ゲシュタポの手入れや密告者の監視の目を すり抜けていったのか。本作は 実際の生還者 4 人の証言を交えながら、知られざる真実を今に伝える実録ドラマである。( 試写招待状より。一部省略 )

戦時下のベルリンで、ホロコーストによる死を免れた 4 人の若きユダヤ人たちの、奇跡的なサバイバルストーリー。本作は 実話を映像化した劇映画ですが、主人公たちのモデルとなった 実際の生還者 4 人の証言と 戦時の記録映像を捜入するという 異例の手法によって、歴史の真実を 立体的に描き出すコトに成功しています。監督と脚本 ( 共同 ) は、多くの長編ドキュメンタリーを手掛けてきた名手 クラウス・レーフレ。

主人公は 次の 4 人。
ツィオマ・シェーンハウス …… 一瞬の機転によって絶滅収容所行きを免れ、大胆にもドイツ人に成りすまして ベルリン市内の空室を転々とした、当時 20 歳の青年。職人としての技能を生かし、ユダヤ人を救うための身分証偽造に精を出す。
ルート・アルント …… 友人と共に戦争未亡人を装って出かけたベルリン市内で、ドイツ国防軍のヴェーレン大佐の邸宅に ふたり揃ってメイドとして雇われる。当時 20 歳。大佐は 彼女らがユダヤ人だと気づくが、なぜか 賓客の疑惑の眼からも ふたりを守ろうとする。
オイゲン・フリーデ …… 最も若い、当時 16 歳の少年。ヒトラー青少年団の制服を着用し、身分を偽りながら 反ナチスのビラ作りに尽力する。間もなく ゲシュタポの手入れが、目の前まで 迫ってくるが……。
ハンニ・レヴィ …… 当時 17 歳の孤児。髪をブロンドに染めて別人に成りすましたものの、映画館で知り合った 近く出征するというドイツ人青年の母親の許に、身分を明かした上で匿われる。

彼らが生き延びられた共通のポイントは、① 生に対する強靭な意志と精神力の持ち主だったコト、② そして おそらく、何よりも 運に恵まれたコト。さらに その影に、③ ユダヤ人に手を差しのべた 善意のドイツ市民が、確実に 少なからず 存在していたコト。
本作では、この ③ が 相当 自然に よく描かれていて、その内のひとりである ヘレーネという年配の婦人は、「 私の〝 祖国 〟( = ドイツ ) を救いたかったから 」と、その動機を 簡潔に 静かな口調で語っていました。また、加えて記しておくと、ベルリンに侵攻して来たソ連軍を前にして、ドイツ市民とユダヤ人が 庇い合って逃げる場面や、ラスト間際に映し出される ユダヤ系のソ連兵と 潜伏していた二名のユダヤ人男性が、互いに 同胞だと 気づくに至る場面など、今まで観たコトのないような 忘れ難いシーンもありました。
欲を言えば、ユダヤ人を救う側に立つ カウフマンという 大邸宅に住む知的な初老の男性と、自身がユダヤ人でありながら〝 ユダヤ人狩り 〟に奔走する ゲシュタポのスパイ ( シュテラという美女 ) に関しては、たとえ上映時間が少々延びたとしても、もう一歩 突っ込んで描写したなら、さらに良かったのでは? と僕は感じました。

P.S. 本作を観た数日後、新聞で クロード・ランズマン氏の訃報を目にしました。彼は『 ショア 』( 制作に 12 年を費して ホロコーストを描いた、9 時間27分の長編力作ドキュメンタリー映画。通信 273 ) を ’85 年に発表したフランスの映画監督です。
僕は『 ショア 』を観た おかげで、ホロコーストを描いた 数多くの映画を、それまでよりも 深く理解できるように なれました。ランズマン氏の偉業を 改めて讃えると同時に、心から御冥福をお祈りします。ホロコーストに真面目な興味を抱く読者の皆さんは、本作は勿論、彼の『 ショア 』を、いつか、なるべく早く、何らかの形で、ぜひ 観てください。

 

 

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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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