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2026.10.30

YORU NO OTOをまとって東京からパリ、そして南フランスへ|石坂将「旅するフレグランスノート」vol.5

日本発フレグランスブランド「ショーレイヤード」の創業者である石坂将さんによるフレグランス連載。国内外を忙しく飛び回る日々のなか、旅先で出逢う風景や人々、そこで感じた匂いの記憶を通して、石坂さんならではの視点で香りへの想いを綴ります。

WRITING: 石坂 将

石坂 将

石坂 将

株式会社セントネーションズ代表/フレグランスプロデューサー

ランカスター大学大学院修了後フレグランスメーカーに入社、2012年独立し株式会社セントネーションズを設立、2013年「ショーレイヤード」を立ち上げ。全国の都市型商業施設に展開しつつ、21年に初の路面店としてカフェ併設の恵比寿本店を開業。25年にはブランド市場最大規模となる西麻布店のほか、初の海外旗艦店となるパリ店をオープン。

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パリの美しさのシンボル、夕暮れのエッフェル塔

2026年の夏は、本当によく旅をした。台湾から始まり、沖縄、博多、金沢、大阪、京都、仙台。そして、そのたびに東京へ戻った。旅先でアイデアが生まれ、東京に戻ってそれを深掘りする。そんな自分のライフスタイルについて前回のコラムで書いたが、夏の終わり、僕は再び東京を離れた。

今回の目的地はフランス。東京からパリへ。そしてパリから南フランスへ。今回の旅には、大きく二つの目的がある。

ひとつは、SHOLAYEREDのフランスチームが企画した「FRENCH COLLECTION」のローンチイベントに参加すること。パリで開催されたイベントには、多くのインフルエンサーが集まり、フランスで生まれた新しい香りを実際に手に取り、楽しんでくれた。

盛況を博した「FRENCH COLLECTION(フレンチ コレクション)」のローンチイベント

東京で生まれたブランドがパリに店を構え、今度は現地のチームが自分たちで考えた香りを発表する。これは僕にとって、単に新商品が発売されたという以上に意味のある出来事だった。

ブランドは、創業者ひとりの頭の中だけにあるうちは、まだ本当の意味で文化にはなっていないのかもしれない。東京で始まったSHOLAYEREDという考え方を、フランスのチームが彼らなりに解釈し、パリという街から新しい香りとして発信していく。

その光景を見ながら、ブランドが少しずつ自分の手を離れ、新しい土地に根を張り始めていることを感じた。

そのFRENCH COLLECTIONの中で、僕が特に気に入っている香りが「YORU NO OTO」だ。直訳すれば、「夜の音」。この名前が僕はとても好きだ。夜というものは、決して無音ではない。昼間には聞こえなかった小さな音が聞こえたり、遠くを走る車の音が妙に耳に残ったり、人が少なくなった街の中で自分の足音に気づいたりする。

香りも、それに少し似ている。最初に強く主張する香りだけではなく、時間が経ってから肌の上に残る微かな香りに、その香水の本当の美しさを感じることがある。

YORU NO OTOには、そんな夜の静けさと、その奥にある気配のようなものを感じる。華やかさだけで押してくる香りではない。近づいたときに初めて気づくような色気があり、纏ってから時間が経つほど、少しずつその人の肌に馴染んでいく。

ショーレイヤード パリ旗艦店にて

今回、パリの店で一本手に入れ、この旅ではずっとYORU NO OTOを纏っている。そして面白いのは、同じ香水なのに、纏う場所によって印象が変わることだ。

パリはすでに秋の気配だった。少し冷たくなった空気。曇った空。雨に濡れた石畳。古い建物の間を抜けていく風。そんなパリの街でYORU NO OTOを纏うと、香りの奥にある静けさや深さが、東京で嗅いだときよりも強く感じられる。夕方から夜へと街の光が落ちていく時間には、特によく似合った。香水は、ボトルの中だけで完成しているわけではない。空気や湿度、気温、そして街の匂いまで含めて、香りはその場所で完成するのだと思う。

そして今回の旅には、もうひとつ目的がある。モナコで開催されるLUXE PACKを訪れ、これから一緒にものづくりをしていくサプライヤーたちと打ち合わせをすることだ。パリでFRENCH COLLECTIONの誕生を見届け、そのまま南へ。パリからニースへ向かった。

南仏ニースの常宿からの眺め

飛行機を降りると、空気がまるで違った。パリには秋が来ていたのに、ニースにはまだ夏が残っている。強い太陽。青い空。地中海から吹いてくる風。

パリでは少し内側に向かっていたYORU NO OTOが、ここでは不思議と開放的に感じられる。同じ香りなのに、パリでは「秋の夜」を感じ、ニースでは「夏の終わりの夜」を感じる。

これが香水の面白さだ。香りそのものは変わっていない。変わったのは、僕がいる場所だ。気温が変わり、湿度が変わり、光が変わり、目の前の景色が変わった。その変化によって、香りの中から拾い上げるものまで変わっていく。

だから僕は、旅をするときに香水を持っていくのが好きなのだと思う。そして、ひとつの旅で同じ香りを纏い続けるのも面白い。香りが、その旅の「栞」のようになるからだ。

数年後、東京のどこかでYORU NO OTOを纏った瞬間、パリの少し冷たい風や、ニースの強い太陽まで突然蘇ってくるかもしれない。香りには、そんな力がある。

明日からはモナコへ向かう。LUXE PACKでは、ボトルやパッケージ、原料など、これからのSHOLAYEREDを形づくっていくサプライヤーたちと会う。パリでは、完成した香りを届ける側として。モナコでは、これから生まれる香りを作る側として。

そして、その間を僕はYORU NO OTOと一緒に旅している。

東京からパリへ。パリからニースへ。そしてモナコへ。

旅を終えて東京へ戻る頃には、YORU NO OTOは僕にとって、FRENCH COLLECTIONの一本ではなくなっているだろう。パリの秋と、南フランスに残る夏。その両方を記憶した香りになっているはずだ。

香りは、目には見えない。けれど、だからこそ、景色よりも長く心の中に残ることがある。旅を香りとともに記憶する。それもまた、香水の楽しみ方のひとつなのだと思う。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

WRITING: 石坂 将

ランカスター大学大学院修了後フレグランスメーカーに入社、2012年独立し株式会社セントネーションズを設立、2013年「ショーレイヤード」を立ち上げ。全国の都市型商業施設に展開しつつ、21年に初の路面店としてカフェ併設の恵比寿本店を開業。25年にはブランド市場最大規模となる西麻布店のほか、初の海外旗艦店となるパリ店をオープン。

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Text & Photos: 石坂将

Edit:: 木津由美子

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