ボディケア
2026.10.25

NHK交響楽団首席指揮者ファビオ・ルイージに聞く『マエストロが奏でる香りの世界』

今年、創立100周年を迎えたNHK交響楽団の首席指揮者を務めるファビオ・ルイージ。実は彼はフレグランスブランド「FL PARFUMS」の創業者であり、自ら調香も手掛ける稀有な存在です。マエストロが奏でる香りの世界とは?来日したルイージ氏に香り作りへの思いを伺いました。

EDIT: 美的GRAND編集部

美的GRAND編集部

美的GRAND編集部

2018年に小学館が創刊した大人世代向け美容専門誌『美的GRAND』の編集部。40代以降の女性が抱える美容やライフスタイルの悩みに寄り添い、ドクター、研究者、美容ジャーナリスト、エディターなど各分野のプロフェッショナルと連携し、スキンケアからメイク、ヘルスケア、ウェルネスまでを多角的に紹介。「年齢に抗う」というアンチ・エイジングではなく、年齢とともに自分らしい美しさを積み重ねていくというポジティブな“ネオ・エイジング”を提唱し、信頼できる知見をわかりやすく発信することを心がけています。

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SOURCE: 美的GRAND 2026年秋号

2026年秋号

秋号

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『調香するマエストロの美学』

木津由美子(以下、木津) NHK交響楽団をはじめ、デンマーク国立交響楽団の首席指揮者も務めるなど、多彩に活躍していらっしゃいます。初めに経歴から教えてください。

ファビオ・ルイージ(以下、FL) まず3歳半頃にピアノを始めました。もちろん私自身が決めたわけではなく、両親から勧められたのですが、そこで出会ったマエストロに「バイオリンとピアノ、どちらにしますか?」と聞かれ、ピアノのほうが大きくて素晴らしいと思い、ピアノに決めました。両親のサポートは非常に偉大なもので、ピアノを学ぶうえで勇気をくれたり、後押ししていただいてピアノを続けておりました。

指揮者になると決めた時期は正確にはなく、徐々にそういう思いが大きくなったというのが、実際のところですね。歌い手さんたちとの出会いやオペラへの興味が、オーケストラの指揮者になるという気持ちを生み出してくれた。それが16歳から17歳頃です。ピアニストとして進むのか、ほかの道を選ぶのか… …そこで指揮者になることを決めました。そしてイタリアからオーストリアに居を移し、劇場などで学び始めたというのがこれまでの経緯となります。

木津 “調香する指揮者”というのは、今までに聞いたことがありません。なぜフレグランスブランドを立ち上げようと思ったのですか?

FL いつ香りを作ることを決めようと思ったのかという前に、大切なことをお話ししておきたいのですが、香りや調香というのは、私にとっては趣味であり、プロとしてやっているわけではありません。最初は独学で進めていたのですが、あるとき、先生と呼ばれる方にお会いして、それが作り始めるきっかけになっています。つまり、ジボダンのような有名な調香学校に通って調香師になったのではない、ということを先にお伝えしておきたいのです。ただ私にとってはとても情熱を捧げているもので、多くの時間を費やしていますし、小さい頃から熱中していたもののひとつではあります。

香りに魅せられるあまり自身のブランドを創設
木津 フレグランスは子供の頃からお好きだったんですね?

FL 香水を初めて身につけたのは11歳か12歳の頃ですね。最初のきっかけは、家の近所の女性が、まああまりにも強すぎるというぐらいなんですけれども、香水をつけていて、それが非常に魅力的で、私の周りにはない香りだったのでとても驚いたのと同時に興味をもち始めまして、その興味が一度もやむことなく続いています。家には香水のコレクションもあるのですが、ある日、香りを作ってみようかというアイディアが生まれました。初めて原料をそろえたり、本を読みながらベースとなるエレメントを考えながら作り始めました。

そして数年たった後、そのときはニューヨークに住んでいたんですけれども、元々はパリで出会ったゲランの調香師であるティエリー・ワッサーに、偶然にもニューヨークでお会いすることができまして。彼のアトリエに招待された際に、調香を学ぶサポートをいただけないかと相談したところ、それなら私の同僚を紹介するよと言ってくださって、ニューヨークを拠点とするIFFのディレクター、ロン・ウィングラッドを紹介されました。そこから本格的に香りを学び始めたわけです。彼に電話をしたところ、ぜひ一緒に勉強しましょう、香りましょうと言ってくださって、週に1、2回通い始め、それを一年程続けました。お会いした頃が80歳前後だったので、彼に学べる最後のチャンスだったと思います。そこで彼独自の調香メソッドを学ぶことができ、非常に素晴らしい経験と時間になりました。

木津 そうして誕生したのが「FLPARFUMS」となるわけですが、コンセプトはなんでしょう?

FL 非常に個人的なアイディアから生まれており、マスマーケットで売れる香りを目指しているわけではありません。私自身が好きな香りを作るようにしています。フランス的な香りを愛しているので、それを心掛けています。そこにたどり着くには、私にそこまでの才能はないのでなかなか難しいんですけれども、私の中ではフランス的な、特にブーケのような香りを目指しています。ただひとつの花の香りを作り上げるということではなく、自然界の中にはないような香り、何か新しいエレガントな香り。

私のコレクションを見ていただけたらおわかりになると思うんですけれども、フローラルやグルマンといった香りは、私が求めるものとは少し異なると感じています。私の中にあるイメージ、取り巻く環境や雰囲気、そういったものを香りで解釈していく。例えば、私が最初に作った香りのひとつなんですが、そこでは、ある部屋の中にたくさんの男性がいて、そこでたばこを吸っていたり、仕事をしていたり、話をしている。そこに突然素晴らしく美しい女性が入ってくる。そのときの香りをイメージして作っています。人物、シチュエーション、環境、状況、そういったものをアイディアとして香りに映し出しています。

身だしなみにも香りにも息づくエレガンス
木津 ルイージさんのホームページに「My 4 Ws」というコンテンツがあって、その中の「What I am
wearing」で書かれているルイージ的ファッション論が大好きです。それを拝見すると「エレガンス」を大切にしているように感じましたが、香りも同様ですか?

FL そうですね、もちろん香りの創作においても、エレガンスというものを非常に大切にしています。上品なものをまとうということは、ある意味、リスペクトするということでもあります。クラシック音楽は非常に努力や忍耐を求められるものですので、そういったところでリスペクトを見せつつも、音楽は皆さんのものですから、自分をどのように見せるかということも大事にしています。現代はスピードやビジュアルが重視される世界ですが、クラシック音楽はそうではなく、ゆっくりと時間をかけて聞いていただくものです。そこにはやはり、聞くという努力、聞きたいと思うような何かがどうしても必要になってきますので、そこにエレガンスを添えるということは大事だと思います。上品な身だしなみは、私の考えを映し出すものでもあるのです。もちろんトレンドや生地のクオリティ、服のシルエットそのものにもとても興味はあります。

木津 そして今回、日本のフレグランスブランド「ラニュイ パルファン」とコラボレートされています。

FL ラニュイから提案をいただいたときは、正直とても驚きました。先程お話ししたように私はプロの調香師ではなく、趣味でやっているので、こういった形でご協力できることを非常に光栄に感じています。ラニュイ パルファンというブランド自体のコンセプトにとても共感しており、作曲家をベースに作り上げる香りというのは、ある意味、作曲家の美意識を抽出して作り上げているような感覚を覚え、素晴らしいブランドだと思います。香りは音楽同様、目に見えない芸術だと思いますので、お声がけいただいたときには本当に光栄に思いました。アイディア自体はラニュイから提示いただいて、前回日本に来たときに作り始めました。そこから数か月、試行錯誤を重ねていくつかのバージョンを作りました。

そして完成したのがこのふたつです。ひとつはオーストリアの作曲家フランツ・シュミットの晩年の代表作である7つの封印の書」、もうひとつは同じくオーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルクの初期の作品「グレの歌」をテーマとしています。「7つの封印の書」では宗教的荘厳さと知性、そして人間的な温もりが共存するシュミットの音楽世界を、クラシカルなフゼアを再構築して表現しています。一方の「グレの歌」は後期ロマン派の作品ですので、アールデコの耽美なイメージで、シトラスからウードへと香調を柔らかく展開させています。

木津 ちなみに、お好きなフレグランスはありますか?

FL ゲランのベチバーです。それも今のではなく、昔のものですね。ティエリーとは何度も話しているんですけれども、やはり今、使用できない原材料が増えていることによって、オリジナルの香りを作れなくなってきていることを大変残念に思います。オンラインでオリジナルのものを見つけられたりもしますが、80年代にEUで規定が変わりフォーミュラを変更しなければならなくなったということで、60年代、70年代の頃のものと比べると全く異なる存在に感じます。

木津 それでは最後に、あなたにとって香りとはなんですか?

FL 私にとって香りとは、創作ですね。オーケストラを指揮するというのは創作ではなく、演奏する、伝えるということ。既に芸術作品として存在しているものを、指揮者は伝えていくわけです。それは香りを作るのとは全く異なる行為です。香りは私が自ら作り上げていくものなので、私にとって香りとは、純粋な創作活動といえます。

ファビオ・ルイージが2013年に立ち上げたフレグランスブランド「FL PARFUMS」。原料の調達からパッケージまですべて自身で手掛け、少量ずつ丁寧にハンドメイドで製造。品質には最もこだわっており、香料の80%以上は天然のものを使用、世界各国から最高級のものを直接買いつけている。香りによってオーデコロンやオードパルファンがあり、価格帯はEUR130〜190。日本上陸が待たれる。

ラヴェルやラフマニノフなど、クラシック音楽をテーマに展開する日本発フレグランスブランド「ラニュイ パルファン」。5周年を迎え、ファビオ・ルイージとのコラボレーションが実現。なお、10/7から伊勢丹新宿店本館6階で開催する「サロン ド パルファン 2026」に出店決定、ルイージ氏本人も来店予定。
左から/ラニュイ パルファン「7つの封印の書」、「グレの歌」オードパルファン 各30ml ¥19,800

調香するマエストロの美学

ファビオ・ルイージ
FABIO LUISI
NHK交響楽団首席指揮者。イタリア・ジェノヴァ出身。これまで数々の著名楽団主席指揮者や音楽監督を歴任し、N響には2022年着任。契約期間満了の28年9月には「桂冠名誉指揮者」の称号が授与されることが決定している。この称号はN響を長年にわたって指揮し、その芸術性向上に多大な貢献を果たした指揮者に贈られるもので、歴代3人目。

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

EDIT: 美的GRAND編集部

2018年に小学館が創刊した大人世代向け美容専門誌『美的GRAND』の編集部。40代以降の女性が抱える美容やライフスタイルの悩みに寄り添い、ドクター、研究者、美容ジャーナリスト、エディターなど各分野のプロフェッショナルと連携し、スキンケアからメイク、ヘルスケア、ウェルネスまでを多角的に紹介。「年齢に抗う」というアンチ・エイジングではなく、年齢とともに自分らしい美しさを積み重ねていくというポジティブな“ネオ・エイジング”を提唱し、信頼できる知見をわかりやすく発信することを心がけています。

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撮影: 宇佐美直人(人物)、千太(SIGNO・静物) 

構成・文: 木津由美子

SOURCE: 美的GRAND 2026年秋号

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9月11日

今年も秋の深まりはまだ先になるようですね。夏の名残が至るところに残る中、GRAND秋号発売です。 大特集は「秋の大人、…

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