鈴木保奈美さんインタビュー。「旅は、自分がぶっ壊されること」価値観を壊し、自分の世界を広げる旅
俳優・鈴木保奈美さんが、ファッション誌『Precious』で連載してきた「旅」をテーマにしたエッセイを一冊にまとめた『中途半端な旅人は語る』が発売されました。一人旅や友人・家族との旅、海外で暮らす娘さんを訪ねる旅など、さまざまな旅の経験を通して、生き方や考え方、旅の楽しみ方を綴った一冊です。雑誌未掲載の写真も多数収録されています。旅先で出会った人や景色、思いがけない出来事を、鈴木さんならではのユーモアを交えて綴った本書。今回のインタビューでは、旅を通して気づいた新たな自分や価値観、年齢を重ねて変化した旅の楽しみ方、そして旅や仕事を楽しむために大切にしている日々の習慣について伺いました。
「一歩踏み込んでいるけれど、沢木耕太郎ではない(笑)」。だから『中途半端な旅人』
――タイトルの『中途半端な旅人』という言葉が気になりました。鈴木さんご自身では、どんな旅人だと思っていますか?
私自身、いろいろな方の旅行記を読むのが好きで、沢木耕太郎さんの旅ものも読んできました。でも、そういう方たちと比べると、私はそこまで旅を突き詰めていないなと思っていて。一方で、仕事柄、海外へ行く機会は多かったので、現地のコーディネーターの方がプランを作ってくださって、一般的な観光名所ではないところへ行ったり、美術館でも、そこの方に裏側の話を聞かせていただいたりする経験はありました。そういう意味では、一般的な観光旅行をする人よりは一歩踏み込んでいる。でも、沢木耕太郎ではない(笑)。そのくらいの距離感が、私にとっては『中途半端』なのかなと。中途半端といえば中途半端だけれど、それもいいかなと思ったんです。そういう距離感の人の旅の話が一冊あっても、もしかしたら面白がっていただけるんじゃないかな、というところからつけました。
旅先で発見した、「私、意外と大丈夫なんだ」
――これまで旅を通して、「自分ってこういうところがあるんだ」と発見したことは?
ナポリに行ったときのことは、本にも書いているんですが、ホテルに着いてみたら、いわゆるホテルらしい入り口がなくて。ビルの奥みたいなところに入っていくんです。『一体この奥に何があるんだろう』という、ちょっと怪しい感じで(笑)。一緒に行った友達は『ここ、違うんじゃない?』って。でも、私は意外とそういうときにワクワクしているんですよね。『この先どうなるんだろう』って、ちょっと客観的に自分を見ている感じもあって。そこで、『あ、自分、大丈夫なんだ』って思いました。日本にいると、なかなかそういう状況に直面することってないじゃないですか。でも、意外とそういうところにも乗り込んでいけるんだなって。むしろワクワクする。なんなら『これ、ネタになるかな』って思っている自分がいて(笑)。それは自分でも意外でしたね。

「中途半端な旅人は語る」より 撮影/浅井佳代子
年齢を重ねた今、「恥ずかしい」より「やってみたい」が勝つ
――若い頃からたくさん旅をされていますが、年齢を重ねて旅の楽しみ方に変化はありましたか?
現地の方とコミュニケーションを取りやすくなったかなと思います。もちろん今でも恥ずかしいという感覚はあります。でも、『もう残り少ないんだから、恥ずかしいって言っている場合じゃないな』って(笑)。いい意味での『旅の恥はかき捨て』というか。別に今、恥ずかしくても大丈夫。誰も覚えていないですから。もちろん、人に迷惑をかけるようなことはしてはいけない。でも、自分が突拍子もないことを聞いたり、間違ったことを聞いたりしても、『よく分からない外国人のおばさんが変なこと聞いてきたな』と思われるだけだから、別にいいじゃんって。そういう意味では、気楽になっていますね。
――旅のスタイルは昔と変わったところはありますか?
今はテクノロジーがものすごく進化しているので、昔より移動手段も手軽になっていますし、お店の予約やチケットを取ることもすごく便利になりました。そういう意味では、フットワークは軽くなっているかもしれないですね。私は別にそういうことが得意なわけではないんです。でも、逆に、一つの旅ごとに新しい技を習得している感じ(笑)。『Instagramからこうやって予約できるんだ』とか、毎回新しい発見があります。
毎朝のプロテインは、旅先でも「お守り」のような存在
――旅を思い切り楽しむために、普段から意識していることは?
それはやっぱり体力ですね。体力がないと楽しめないから。旅のためだけというより、私は仕事もできる限り楽しんで全うしたいと思っているので、そのためにも何はともあれ体力。今はピラティスに行ったり、ジムにも行ったり。旅のためというより、日常的に常に元気でいられるように、という感じです。やっぱり体力がないと、仕事も旅行も楽しめないですから。
――旅先ではどんなふうにコンディションを整えていますか?
よくお風呂に入って寝る、それくらいです(笑)。
あとは、旅先に限らずですが、プロテインは毎朝飲んでいます。それで、髪とか肌は丈夫になった気がするんですよ。プロテインを飲み始めてから、あまり時差ボケをしなくなりました。大阪から東京に帰ってすぐシカゴへ行くことになり、「これは絶対ダメだな。帰ってからグダグダになるのは仕方ない」と思っていたのに、意外と元気だったんです。『あれ、これはプロテインかな?』って、そのときちょっと思って。それから続けています。
旅には、1回分ずつになっているものを日数分持っていきます。もちろん、すべての方に合うかどうかは分からないですけど、自分の場合は、調子がいいと感じるので。一度、これで乗り切れたという経験があると、気持ち的にも『お守り』みたいな感じになりますよね。『これがあれば大丈夫』って。

「中途半端な旅人は語る」より
これから行きたいのは、北欧とアフリカ
――いろいろな旅を経験されてきて、今、行きたい場所は?
北欧には行きたいですね。デザインとか文化にすごく興味がありますし、オーロラも見たい。それから、子どもの頃からアフリカの野生動物のドキュメンタリーが大好きだったので、アフリカの国立公園にはずっと行ってみたいと思っています。最近、YouTubeで、アフリカの国立公園で働いている日本人の方の動画を見つけて。『やっぱり野生の王国いいな』って。
スペインのサン・セバスチャンにも行ってみたいです。すごくグルメなエリアで、海沿いにいろいろなおいしいお店があって。そしてグッゲンハイムもある。食もアートも楽しめるので、ちょっと行ってみたいなと思っています。
――行ってみたい場所は、どのように見つけることが多いですか?
本を読んで、ここに行きたいなと思うことが多いですね。旅行ガイドブックも好きです。行く予定がなくても、ガイドブックを買うこともあります。行けないことに悔しがりながらも(笑)、いつか行けたらいいな、と思いながらページをめくるのも楽しいんです。
「旅は、自分がぶっ壊されること」。凝り固まった価値観をリセットしてくれる
――鈴木さんにとって、旅の最大の魅力は何でしょう?
多分「自分がぶっ壊されること」かな。日頃、日本で生まれて日本で育って、当たり前のように生きていると、知らないうちに自分の価値観が凝り固まっていくじゃないですか。でも旅に出ると、まったく違う価値観の世界が存在している。それって、どっちが善とか悪とかではないんですよね。その人たちは、それがいいと思って、当然のこととして生きている。それに触れると、『ああ、私はなんて凝り固まった世界、凝り固まった考え方で生きているんだろう』って、目を覚まされるような気持ちになります。
海外に行くと、『こんなに自由でいいんだ』『なんでもありなんだ』って感じますよね。『もっとわがままを言っていいんだな』と思ったり。日頃、凝り固まりがちな価値観をガラッと壊されることが、私は快感なんです。
旅の記憶と気づきが詰まった、人生を少し豊かにする一冊
旅に出ることは、世界を知ること、人を知ること、そして自分を知ること。知らない場所に身を置くことで、これまでの価値観が少しずつほぐれ、新しい自分に出会うきっかけにもなります。
「行ってみたい」「やってみたい」と思ったら、ためらわず一歩を踏み出す。そのための体力も、日々の中で自然に整えておく。「何はともあれ体力」と話す鈴木さんにとって、体力づくりは特別なことではなく、仕事も旅も、そして日々の暮らしも楽しむための当たり前の習慣なのかもしれません。
『中途半端な旅人は語る』では、鈴木さんの旅の記憶を追体験しながら、旅先でのファッションや欠かせないアイテムなど、大人の旅を楽しむためのリアルなヒントにも触れることができます。旅の話を楽しみながら、自分のこれまでの旅や、そこで出会った人、家族や友人との時間などにも、ふと思いを馳せる。そんなふうに、自分自身の記憶と重ね合わせながら読めるのも、この本の魅力です。そして読み終える頃には、またどこかへ出かけてみたい、何か新しいことをしてみたい。そんな気持ちが自然と湧いてくるはずです。

『中途半端な旅人は語る』
定価:2,420円(税込)
発売日:2026年8月5日(水)
体裁:A5判・144ページ
発行:小学館
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389872
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。